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桜力

4 - 第4章 『揺れる心』

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2025年07月21日

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第4章「揺れる心」
土曜日の午後、山の麓にある古びた神社の境内。

蝉の声が途切れた瞬間、ふいに鳥の羽ばたきが聞こえた。


土俵の上では、4人の少女が汗を流していた。


「よし、水々葉、いくよっ!」


「かかってこいっ、めぐみ!」


バッ、と音を立ててぶつかり合う2人。

寄り倒す力は拮抗しているが、互いの顔には笑みが浮かんでいた。


その様子を土俵の外で見守る2人――夏菜と、今日初めてここに来た遠藤優衣。


「ねえ、優衣ちゃん、どう? ちゃんとついてこれそう?」


「うん、大丈夫……!思ったより、楽しそうかも……ふふっ」


夏菜はその笑顔に目を細めた。


「よかった~。最初は誰でも緊張するもん。私も最初、怖かったよ」


「夏菜が?」


「うん、だって初日から水々葉に押されてコケたし!」


「ちょっとぉ、聞こえてるからねー!」


水々葉が振り返り、口をとがらせた。


「まったく、油断してるとそのうち私が勝っちゃうから!」


「それは困るなぁ……はい、もう一回!」


めぐみが軽く笑いながら構え直した――そのとき。


鳥居の先、石段の上に一人の影が現れた。


「……来た、かも」


水々葉がぼそりと呟き、みんなの動きが止まる。


そこに立っていたのは、紺の制服を着た少女。

片側だけの三つ編みを肩にかけ、後ろでピンクのリボンが揺れている。


その姿に、めぐみの胸が跳ねた。


(本当に、来てくれたんだ……)


少女――牧野美佳は、ためらいながらもまっすぐこちらへ歩いてきた。

表情は固いが、視線は逸らさない。


「こんにちは」


その一言に、空気が静かに揺れる。


「よく……来てくれたね」


めぐみが少しだけ息を呑み、ゆっくりと言った。


「……ここで練習してるって、聞いたから。場所、合ってるか不安だったけど」


「うん、間違ってないよ」


一拍置いて、美佳が土俵を見上げた。


「……すごい、本当に土俵なんだ」


「うん、神社の人がずっと残してくれてたみたいで。すごく古いけど、ちゃんと使えるよ」


「……へえ」


美佳の視線は、土俵の俵、足跡、そして立ち上る湯気のような熱気を追っていた。


「……楽しそう、だね」


「え?」


「さっきの、見てた。笑ってたし、なんか……いいなって思った」


めぐみは目を丸くし、すぐに笑った。


「よかったら……一緒にやってみる?」


沈黙が落ちた。


美佳の顔が少しだけ強張った。


「……ごめん。それは、無理」


「え?」


「見てるだけなら、いい。でも、相撲は――ムリ」


その言葉は、思ったよりも冷たくなってしまった。


「……そっか」


めぐみの声がか細くなる。


美佳は、何かを言いかけたが、何も言わずにくるりと背を向けた。


石段を降りながら、自分の心がざわついていることに気づいた。


(やっぱり、私は……)


足を止め、胸に手を当てる。


――幼稚園の頃。

園庭の土俵で、小さな相撲大会があった。


美佳は勝った。相手は、男子の中でも一番強いとされていた子だった。


「すごーい、美佳ちゃん、男の子に勝った!」


「ねえ、女のくせにー!」


「ほんとに男の子?それとも美佳が怪力すぎるの?」


最初は笑っていた。でも、それがずっと続いた。

遊びでも、何でも、力を見せるたびに「変だよ」と言われた。


特に、よくからかってきた女の子の顔が頭に浮かぶ。


(あの子の名前……なんだっけ)


思い出すその瞬間、現実に戻った。


日が傾く道を、彼女は一人、歩いて帰った。


その夜。


めぐみは神社の土俵に座り込んでいた。練習を終えた後の静けさが、少しだけ苦しかった。


「……断られちゃったね」


水々葉が隣に座り、そっと声をかける。


「うん。でも……なんか、ちゃんと考えて来てくれたんだと思う」


「めぐみ、立ち直り早っ」


「いや、実はショックで腰抜けてる」


「ふふ、だよね」


夏菜と優衣も集まってきた。


「でも、別に無理に誘わなくてもいいんじゃない? 私たちで、勝てばいいんでしょ」


「……そうかも。でも、あの子……本当は、やってみたそうだった気がする」


「じゃあ、次は……?」


「また、声かけてみるよ。何度でも」


数日後の月曜日。


委員会で遅くなっためぐみは、急いで鞄を肩にかけ、教室を出ようとした。


そのとき。


廊下の端に、制服姿の美佳が立っていた。


めぐみと目が合う。


一瞬、何かを言いかけたような、美佳の唇が動いた――。

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