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21世紀前半のある日、国際的な宇宙観測機関が超高速で地球に接近する巨大な物体を確認した。恒星間観測用の巨大電波望遠鏡に捕捉されたそれは、明らかに自然にできた物ではなく、エイリアンの宇宙船である可能性が高いと判断された。
翌日、東京の上空に二つの巨大な光球が出現。地上に到達したそのまばゆい光の球は、そのまま形を変え近くの中層ビルと同じ高さの巨人へと変化した。
人間に近い形をした、銀色の体に赤い線が全身に走っている巨人がテレパシーで周りにいた日本人にこう呼びかけた。
「我々は輝きの国から来た宇宙の平和を守る組織に属する者だ。今この星には、幾多の惑星を侵略し滅ぼしてきた、おそるべき宇宙人の移動要塞が接近している」
もう一人の、頭部だけが銀色で赤い体の巨人が続けてテレパシーで訴えた。
「我々は、この惑星を侵略者の手から守るためにやって来た。だが、我々の体はこの惑星での長時間の活動には向いていない。どうか我々にあなた方の力を貸して欲しい」
そのテレパシーによるメッセージを受け取った日本人たちは、色めきたった。
「うわ、すげえ、人類と光の巨人の共同戦線ってことか?」
「てことは、自衛隊の出番だよな? 地球防衛作戦だぜ」
だが、日本政府からはヘリコプターの拡声器を通じて、返答を留保したいとの要望が巨人たちに伝えられた。
緊急国会審議が召集され、その質疑の様子はインターネットでライブ中継された。そこでは与野党の議員が次のような攻防を展開した。
まず首相が光の巨人の申し入れを前向きに検討したいと述べ、野党議員が首相に質問した。
「総理、彼らに協力するのは、我が国の集団的自衛権の範囲内であると、そうお考えですか?」
「いや、しかし現に宇宙人の巨大宇宙船が地球に迫っている事は国際的にも確認されています」
「だからと言って、我が国への武力攻撃の意図があると、なぜこの段階で即断できるのですか?」
それを皮切りに、次々と野党議員が異議を唱えた。
「そもそも、我が国が集団的自衛権の発動を許される要件にはこうあります。我が国と密接な関係にある国に武力攻撃が発生し、それが我が国の存立を脅かす事態に発展すると判断できる明白な危険が認められる時、と。現時点では我が国に対してはもちろん、いかなる地球上の国家にも武力攻撃は発生していないではないですか」
「それ以前に、あの巨人たちがそこからやって来たという、輝きの国と日本国との間には、密接な関係があるとは到底認められません。総理、ここで自衛隊に防衛出動命令を出せば、それは他国のための武力行使になってしまいませんか?」
「そうだ! 集団的自衛権の限定的行使の範囲を逸脱する危険がある。その場合、当然憲法違反となります」
「仮にあの光の巨人たちに協力するのであれば、時限立法としての特別措置法を制定すべきでしょう」
「いや、正々堂々と憲法第9条を改正するべきではないのですか?」
夜中までビル街に立ち尽くしていた二人の光の巨人は、日本政府から、もう少し時間をいただきたいとの要請を拡声器越しに聞かされ「シュワッ?」「デュワッ?」と戸惑いの叫びを上げた。だが、銀色の方の巨人は気を取り直してテレパシーでこう伝えた。
「我々は地球人の選択には干渉しない。ひとまず、宇宙空間で待機するので、結論が出たら呼んでいただきたい」
そのまま二人の光の巨人は両腕をまっすぐ上に伸ばして、夜空に飛び去った。
翌日、北極圏に面する各国の様々な観測装置が、異様な黒い空間が北極上空で急速に拡大している様子を捉えた。その空間に呑み込まれた陸地では、あらゆる生物が身動きする事さえできなくなり、ばたばたと倒れ始めた。
翌日の夜、その正体不明のエネルギーは東京上空にまで到達し、真夏の東京の夜空に毒々しい輝きを放つオーロラが発生した。
不安におそれおののく日本人が茫然とそれを見つめていた時、東京タワーの直下に五つの鋭い光の奔流が走り、ミニスカートのセーラー服に似た衣装に身を包んだ五人の美少女が出現した。
リーダーらしき、膝まで垂れた長いツインテールの少女が回りの人々の向かって、凛とした声で呼びかけた。
「みなさん、あれは太古の昔、月の王国ゴールド・ミレニアムを滅ぼした悪魔の復活の予兆です。どうか私たちと力を合わせて戦って下さい。私たちに力を貸して下さい」
彼女たちは翌日、国会に特別参考人として招致された。国会で彼女たちが日本政府の助力を求めた後、与野党議員の質疑が始まり、野党議員が次々に懸念を表明した。
「北極圏のアラスカ沖は日米保条約の当事者である米国の領海ですから、集団的自衛権の発動は可能かもしれませんが、それ以外の部分はカナダ、北欧諸国、ロシア連邦などの領海です。いずれも我が国と、相互防衛のための条約を締結している国ではありません」
「それに、月の王国と、そのブラック・キングダムとかいう国家との戦いは、日本国の存立を脅かす国際紛争と言えるのですか?」
「その通り! 国際法が想定している国際紛争や武力紛争は、地球上に現存する国家間の物であり、月の王国の紛争に関与する事は、いかなる意味でも集団的自衛権の範囲を逸脱しています」
「ちょっと、お待ちなさい!」
赤いスカートのセーラー服に似た衣装の少女がたまりかねたという口調で口をはさんだ。
「わたしたちの王国は太古の昔から、地球人の進化を見守ってきたのです。そのあなたたちが、なに他人事みたいな話してんのよ!」
野党議員の一人が訊き返した。
「それはいつ頃の話かね」
「ええと、まあ、数百万年ほど前かしら?」
「いや、そんなに歴史をさかのぼった事を持ち出されても、現代の国家、国際社会の枠組みは論じられないだろう、君。総理、そのような論拠を認めたら、東シナ海や南シナ海での、千年も二千年も前には中華王朝の支配下にあったから、現在もその領土であるという中国の主張を勢いづかせる事になりかねませんぞ」
「その前に確認したい事があるのですが」
ある女性の野党議員がそう言って美少女戦士たちに質問した。
「あなたたち、ずいぶん若く見えますが、今年齢はおいくつ?」
リーダーのツインテールの少女がうれしそうに顔を輝かせて答えた。
「は~い、みんな中二の14歳で~す!」
「では、少年兵になってしまうではありませんか?」
「ちょっと、おばさん!」
緑色のスカートの少女がむっとした表情で言った。
「あたしたち、れっきとした女の子なんですけど?」
「いえ、この場合の少年とは性別とは関係なく、一定の年齢に達していない未成年の事です。総理、武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約選択議定書における少年兵の定義は18歳未満です。ジュネーブ条約の第1および第2追加議定書においてでも15歳未満となります。いずれの場合でも、彼女たちは国際法で禁止されている少年兵に該当します。総理、これは集団的自衛権うんぬん以前の問題です」
結局、その美少女戦士たちに自衛隊が協力可能かどうかは結論に至らず、彼女たちは残念そうにうつむいて国会議事堂を後にした。
その一部始終は北極圏の暗黒エネルギー発生地点でも、地球に迫りつつある巨大宇宙船でもモニターされていた。
以後、怪獣や魔の使い的な怪物は、広大な地球の上で、日本国内にだけ出現するようになった。