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「ブルーチーズも合うらしいぞ」
こちらはブルーチーズの一種であるゴルゴンゾーラの辛口を、そのまま切り分けてもらったものだ。別に燻製ではないが、ゴルゴンゾーラはそのままの方が旨いと晴永は思っている。
「課長……すごい……すごいれす……。しゅっごく美味しいお酒を飲ませてくれた上、こんにゃ美味しいおちゅまみまで。私こんにゃ贅沢れ幸せにゃ夜……初めてれす……!」
(……殺す気か、小笹……)
あんなに自分へも向けて欲しいと希った笑顔を向けられて、言葉にならない。
胸の奥のどこかがじんわりと熱くなる。
「課長、こにょウィシュキー、キープしてましらよね? ……って事は、課長と一緒にゃらこのお酒また飲めるんれすよね……?」
「ああ」
(もちろん、お前が飲みたいって言うなら追加で買ってもいいぞ!)
などと脳内で付け加えていた晴永だったのだが……。
「きっと彼と結婚したら、他の高いお酒も飲み放題ですね」
今まで黙って隣で飲んでいた織田が、ふと思いついたみたいにそう告げてくる。
(ちょっ、いきなり何を言い出すんだ!)
こんな条件を出してもなお、瑠璃香に拒絶されたらと思うと、気が気ではないではないか。
「えっ!?」
だからこそ、織田の声に反応する瑠璃香に、『そんな戯言、気にしなくていい。結婚なんてしなくてもいつでも飲ませてやる!』と告げようとしたのだが……。
「私……課長と結婚しらいれす……! こんにゃ美味しいお酒飲み放題とか最高れしゅもん!」
あろうことか、目をキラキラさせた瑠璃香にギュッと手を握られたからたまらない。
「んぐっ!」
あまりに予想外のことに、晴永は思わず咳き込んだ。
そんな二人の様子に、織田が、してやったりと言わんばかりにくつくつと喉を鳴らす。
「……聞きましたか? 新沼さん」
「き、聞こえてる! 聞こえてるに決まってるだろ!」
顔が熱くなる。
理性がどんどん溶けていく。
「じゃあ……、彼女の気が変わらないうちにコレ。……はい、どうぞ」
ひらり。
織田が、自身のカバンの中から白い紙を差し出した。
「……な、んだ、これは……」
「婚姻届です。僕も狙ってる子がいましてね、いつかその子に書いてもらおうと思って……常に持ち歩いてるんです。今日の〝ちょっとしたお詫び〟に、新沼さんに差し上げます」
「で、でも俺がもらったら織田さんのが……」
「大丈夫ですよ。家にもいくつか置いてますし、なにより今時婚姻届なんて、ネットからも簡単にダウンロードできます。問題ありません」
悪びれもせず肩をすくめる織田の様子に、晴永は唖然とする。
「僕は欲しいものは必ず手に入れる策士なんですよ」
くすくす笑う織田に、明智が「策を弄するのも大概にしないと、策士策に溺れるって言うだろ?」と呆れ半分で溜め息をついた。
(こ、こんなもの渡されても俺はコレを小笹に書けとか言えんぞ!?)
本音では書いて欲しい。書いてもらえたら幸せだ。
けど、ヘタレな晴永にそんな度胸あるわけもなく――。
半ば諦めて、その紙片を折り畳もうとしたのだが――。
「婚姻届れしゅかぁ〜? 書きましゅー♡」
「小笹!? 待て、落ち着け、今はお前酔ってて――」
「い〜いじゃないれすかぁ〜。ひょっとして課長、私のころ、嫌いなんれしゅか〜?」
「きっ、嫌いなわけないだろ……! むしろ好きだ!」
晴永は瑠璃香の言葉に思わず本音を叫んでしまったのだが、必死すぎて本人は気付けていない。
隣で織田がくすくす笑い、明智が小さく拍手した。
「あ、ペン……」
瑠璃香は、晴永から紙片を奪ってみたものの、書くものがないことに気が付いて手を止めた。
「書くものならこれをどうぞ」
すかさず織田から高級そうな万年筆が差し出されて、晴永は戸惑った。
コメント
1件
織田さん、ナイスアシスト(笑)