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「……懲りない奴だな」


金貸しであるバランドは、今まで様々な人間を見てきた。

そんな彼は、貴族の相手も何度かしたことがある。ギャンブルなどに溺れると、彼らはその莫大な財産を一瞬の内に消失させてしまうのだ。

そしてそんな貴族の多くは、破産した後もする前と同じ生活を送る。彼はかつての生活を忘れられないのだ。


「俺達がどういう存在なのか、本当にわかっているのか? ブラックリストに載っているような奴らに金を貸す俺達がどういう存在か、わかっていない訳じゃないだろう?」

「……それなら、私達にどうしろというのです?」

「貴族みたいな生活はもうやめた方がいいんじゃないか? もっとも、それができないからこうしてもう一度金を借りに来たんだろうが……」


バランドの目の前には、イフェリアとその母親がいた。

財産を失ってからも、エルシエット伯爵家の人々は貴族の時と同じような生活を続けていた。裕福な生活に慣れてしまった彼女達は、貧乏な生活などできなかったのだ。

故に三人は、再びドナテリア一家を訪ねて来ていた。三人が頼れるのは、そこだけだったのである。


「言っておくが、こっちももうそんなに出すことはできないぞ? あんた達には、担保にできるものもないだろう?」

「……ええ」

「……ああいや、ないという訳ではないか。そうだな、いい機会だ。あんた達に仕事を紹介してやろう。割のいい仕事だ」

「……?」


バランドは、ある種の確信を得ていた。この三人は、ずっとそんな生活を続けていくのだろう。

それに対して、バランドは特に同情していなかった。自業自得だとしか思えなかったのである。

そんな者達は、彼にとってはいい金づるであった。バランドはとりあえず目の前の二人を、使い潰すことにした。最早彼には、容赦も情けもない。


「イフェリア・エルシエット、特にあなたは稼げそうだ。元貴族の令嬢という肩書は、それなりに価値があるものだ」

「何を言っているんですか?」

「あなた、イフェリアに何を……」

「今の生活を続けるためには、金が必要なんだろう? 安心しろ、旦那程に危険がある仕事じゃない。ただ俺達の経営する店で働いてもらうというだけだ」


エルシエット伯爵家の面々は、どんどんと深みに嵌っていっていた。

稼いでは搾取される生活、嵌れば嵌る程に抜け出すことができない生活に、足を踏み入れようとしていた。

そんな彼を止めてくれる者はいない。正常な判断をできる者は、既に彼らの傍からはいなくなってしまっているのだ。




◇◇◇




「人間というものは、そうそう変わらないということか……」

「そうみたいね……」


私の元をイフェリアが訪ねてきたから数か月後、私とギルバートは訪ねてきた金貸しの話に、そんな感想を抱いていた。

律儀な所があるらしく、金貸しはことの顛末を報告しに来た。そんな彼から聞いたのは、エルシエット伯爵家の面々が、裕福な生活にこだわり、未だに彼らを頼っているということである。


「あんな人達のことを頼っていたら、先に待っているのは破滅でしかないというのに……」

「彼らを助けたいのかい?」

「いいえ、呆れているというだけよ。まさかそれ程までに愚かだったなんて、正直予想外だわ」


エルシエット伯爵家の面々の選択は、愚かとしか言いようがないものだ。ああいう人達に頼り続けている限り、明るい未来なんてものは訪れないだろう。

しかし、それは彼らの選択である。その選択を正そうとは思わない。そんな義理は、私にはないからだ。


「まあ、あの人達のことは忘れることにするわ。もう私には関係ない。そう思う方が、精神衛生上いいもの」

「確かに、それはその通りかもしれないね」

「そもそも、私にはもう家族がいるもの。私の望みはただ一つ、家族で幸せになりたい。ただそれだけよ」

「ああ、それに関しては僕も気持ちは同じだ……さて」


そこでギルバートは、とある家の玄関の呼び鈴を鳴らす。すると中から、慌ただしい足音が聞こえてきた。

その足音に、私達は心を躍らせる。その音色は、私達にとって幸せの音色なのだ。


「お父様! お母様!」

「もう、アルフェリナ。そんなに走ったら危ないでしょう?」

「あ、すみません。お祖母様……」


戸を勢いよく開いたのは、私達の娘であるアルフェリナである。

その後ろには、私達の息子であるクルードを抱きかかえたお義母様とお義父様がいた。


「アルフェリナ、久し振りね。元気にしていたかしら?」

「はい、元気いっぱいです」

「クルードも、元気そうね?」

「あ、はい……」


子供達は、私達の来訪を心から喜んでくれているようだ。

もちろん、その気持ちは私もギルバートも同じである。色々とあったが、ここに帰って来られて本当によかったと思う。


「ギルバート、色々と片付いたのか?」

「ええ、仕事の方もそれ以外も決着をつけられたと思っています」

「それなら結構」

「アルシエラさんを、ちゃんと守れたようね?」

「もちろんです。それが僕の何よりの使命ですから」


ギルバートと両親の会話を聞きながら、私は思っていた。

私の家族は、ここにいる皆とそれに伯母様一家、それからラナキンス商会の皆なのだ。私はそれを改めて実感する。

追放された私は、新天地にて家族を得られた。それは私にとって、何よりも幸福なことなのである。




◇◇◇




「いやあ、記事は大反響でしたよ。お陰様で私も評価が上がって、正直ウハウハって感じです」

「そう、それは良かったわね」


エルシエット伯爵家とのいざこざも終わってしばらくして、私の元にまたオルマナがやって来た。

彼女の記事の評判は、私の耳にも入っている。元貴族の令嬢の商人、その珍しい経歴は人々の関心を集めているらしい。

それに関して連絡をしている内に、オルマナともある程度仲が良くなった。それは思えば、不思議な縁である。


「こういう言い方は良くありませんが、直近でエルシエット伯爵家の悪評が流れたというのも、アルシエラさんの経歴のセンセーショナルさを際立たせましたね」

「ああ、それもやっぱり影響しているのかしら?」

「ええ、何故アルシエラさんが伯爵家を出たのか、それを皆なんとなく察したんだと思います」

「正確には追放されたのだけれどね……」

「まあ、その辺はいいじゃないですか。重要なのは、アルシエラさんに義があるってわかったことですから」


オルマナは、とても楽しそうに笑っていた。

彼女からすれば、エルシエット伯爵家の没落も記事を盛り上げる一部に過ぎないということなのかもしれない。

ただ、流石にそれは私の前で言うべきことではないだろう。私は特に気にすることはないが、人によっては不快に思う可能性もある。そういう所は、まだまだ彼女も未熟ということだろうか。


「それで、ですね。本日は新しい記事を作りたくて、アルシエラさんの元を訪ねてきた訳なんですけど、いいですかね?」

「ええ、でも第二弾なんて本当に大丈夫なの? 私の半生は語った訳だし、もうそんなに面白い話はできないと思うのだけれど……」

「そんなことはありませんよ。商人として各地を巡ったアルシエラさんのことですから、面白い話の一つや二つくらいあるんじゃないですか?」

「いやまあ……ないことはないかもしれないけれど」


オルマナに言われて、私は何個か話せるネタを思いついていた。

商人として色々と活動していく中で、確かに不可思議なことに遭遇することはあった。それらの事件のことは、確かに前回の取材では話していない。

そういったことを話せば、記事の一つや二つくらいはできるかもしれない。


「やっぱりあるんじゃないですか。それを聞かせてくださいよ」

「相変わらず調子が良いわね。最初に会った時は、もう少し可愛げがあったような気がするのだけれど、どうしてこうなってしまったのかしらね?」

「そ、それだけアルシエラさんと仲良くなったということですよ。私、多分どっちかというとこっちが素ですし……」

「……まあいいわ。それなら話してあげましょうかしらね」


本当に調子が良くなったオルマナに対して、私は話を始める。

こうして私は、再び取材を受けるのだった。

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