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🎧短編「もしも、の話」
夜。
部屋は静かだった。
珍しく、どっちも音を出していない。
ソファに座る。
隣には、冬星。
距離は、いつも通り。
テレビはついていない。
琉夏「……今日さ」
ぽつりと呟く。
冬星「なに」
少しだけ間。
琉夏「ああいうの、よくあんの?」
冬星「どれ」
琉夏「彼氏ってやつ」
短く言う。
冬星は、少しだけ考えてから。
冬星「たまに」
(たまに、ね)
少しだけ沈黙。
琉夏「……どう思ってんの」
気づいたら、聞いてた。
冬星「別に」
いつもの答え。
でも。
今日は、それで終わらない。
冬星「さっきも言ったけど」
少しだけ間。
冬星「お前なら、いいんじゃない」
また、それ。
(なんなんだよそれ)
軽いのに。
逃げ場がない。
沈黙。
頭の中で、勝手に想像が広がる。
“もし、本当にそうだったら”
一緒にいる理由に、名前がつく。
今と同じことをして。
今より、少しだけ意味が変わる。
触れる距離も。
言葉も。
全部、少しだけ。
(……いや)
考えるのを止める。
でも。
完全には、止まらない。
琉夏「……変わるだろ」
ぽつりと落とす。
冬星「なにが」
琉夏「今と」
少しだけ、息を吐く。
琉夏「同じじゃねえよ」
それは、本音だった。
名前がついたら。
何かが変わる。
良くも、悪くも。
冬星は、少しだけ黙る。
それから。
冬星「……そうかも」
あっさり認める。
その軽さに、少しだけ救われる。
でも。
冬星「でも」
続ける。
冬星「変わってもいいなら」
静かな声。
冬星「別にいい」
心臓が、少しだけ強く鳴る。
(……なんだそれ)
逃げ道がない。
“今のままでいい”って言えば、安全。
でも。
“変わってもいい”って言われると。
一歩、踏み出せる距離になる。
沈黙。
長い。
琉夏「……やめろ」
小さく言う。
冬星「なにが」
琉夏「そういうの」
目を逸らす。
これ以上、考えたら。
戻れなくなる気がした。
琉夏「……今のままでいい」
それを選ぶ。
冬星は、少しだけこちらを見る。
冬星「そ」
それ以上、何も言わない。
また、静けさが戻る。
でも。
さっきまでと違う。
“もしも”を知ってしまった静けさ。
隣にいる。
触れない距離。
でも。
ほんの少しだけ。
越えられる距離になってしまった。