夜のオフィス。
資料の山に埋もれるようにしてパソコンに向かっているのは、気弱そうな男性社員の日本。
真面目で人当たりも良いが、どこか頼りなく、掴みどころのない性格のせいか同僚たちからはよく心配される存在だった。
そんな日本に一方的な片思いをしているのが、営業部のエースであるアメリカ。
自信に満ちた物腰で、いつも明るく周りを引っ張って行くアメリカは、なぜか日本のことになると、どうにも自分の気持ちを制御できなくなってしまう。
ある夜、忘れ物した事に気が付いたアメリカが足早に会社に戻ると、薄暗い廊下にオフィスからの光がにわかに隙洩れている事に気がついた。アメリカは、そこに居るであろう国の姿を容易に想像する事が出来る。
オフィスの入り口からその姿を確認したアメリカは、軽くため息をつきながらもその背中に近づいた。もうとっくに定時は過ぎている。
🇺🇸「日本…また残業か? 」
🇺🇸「今日も遅くまで大変だな」
🇯🇵「え、ああ…お疲れ様です、アメリカさん」
🇯🇵「すみません、まだちょっと仕事が終わらなくて…」
急に話しかけられ日本は驚いたように顔を上げ、すぐに控えめな笑みを浮かべた。
その笑顔にアメリカは、心臓がドキリと跳ね上がるのを感じた。日本の何気ない仕草ひとつひとつが、彼の胸をざわめかせる。
アメリカは、その感情を悟られぬように気持ちを抑えながらも日本を慮る。
🇺🇸「…あんまり無理すんな、そんなんじゃ、いつか本当に体を壊すぞ」
🇯🇵「あはは…ご心配をおかけしてすみません」
🇯🇵「でも、もう少しで終わるので…」
日本は曖昧に頷きながら、再び画面に視線を戻す。 そんな日本のそっけない反応に、アメリカの胸の奥に黒い影がちらついた。
🇺🇸「…じゃあさ、俺も手伝おうか?」
そうアメリカが言うと、再び日本は驚いたように顔を上げ、首を傾げる
🇯🇵「え?でも…アメリカさん、もう帰るところだったんじゃ…?」
🇺🇸「いや、いいんだ。…お前が一人で残ってるのを見て、ちょっと気になっただけだから」
アメリカの言葉は強引でありつつも、どこか悠然とした優しい響きを持っていた。
その言葉に日本は、少しほっとしたような笑みを浮かべつつ、アメリカに向き合う。
🇯🇵「…ありがとうございます、アメリカさん。お言葉に甘えて、少しだけお願いしてもいいですか…?」
あらかたの仕事が片付き、使った資料を整理している間、オフィスの静けさが心地よくありつつも、2人の間にはどこか緊張感が漂っていた。
アメリカは、ふと手を止めて日本の横顔を盗み見た。真剣な表情で作業を続けるその姿に、どうしようもない愛しさが込み上げる。
🇺🇸「…なぁ、日本」
🇺🇸「なんでいつもそんなに無理をするんだ?」
🇯🇵「え?」
日本は意外そうにアメリカを見つめた。
🇺🇸「もっとお前は周りを頼ってもいいんじゃないか?…こんなの、ほとんどお前の仕事じゃないだろ」
🇺🇸「お前は、周りの関係ないヤツの事とか…色んなことを抱え込んで、それでいて、自分自身のことはさほど気にかけていない」
アメリカは、言葉に孕む苛立ちを隠しきれずにそう言い放った。
自分や、自分以外の国からも気にかけられているというのに、頑なに1人で全てを抱え込もうとする日本を、アメリカは理解する事が出来なかった。
🇯🇵「んー…そんなことは、ないですけど…」
日本が言い訳のように呟いたその時、2人きりだったオフィスのドアが開き、背が高く、体格の良い男が姿を現にした
🇷🇺「あ、日本、まだいたのか」
🇷🇺「助かった、ちょうど確認してほしい資料があるんだ」
日本は一瞬戸惑いの表情を浮かべたが、
「あ、はい。いいですよ」とその男に微笑んだ。
そのやり取りを見ていたアメリカの胸に、ジクジクとした冷たい感情が広がっていく
🇺🇸「…悪いけど、ちょっと今は手が離せないから、それはまた今度でいいかな?」
アメリカがロシアと日本の間に割り込むように言い放つ
🇯🇵「え、でも…」
🇺🇸「日本は今、俺と仕事してるから」
日本が何か言いかけたが、アメリカはその言葉を遮るように強く言い放った。
🇷🇺「…あー、じゃあ、…また後で」
虚をつかれたロシアは仕方なく引き下がり、当惑したような面持ちでオフィスを後にする
🇯🇵「アメリカさん…なにも、あんな言い方をしなくても…」
アメリカとロシアの2人は、普段から意見が合わず衝突する事が多かった。
しかし、今回はお互いの主張ではなく、自分の存在が引き起こした争いのように感じられ、事なかれ主義の日本は狼狽えた
🇺🇸「……」
黙りこくるアメリカを見て、日本は咄嗟にしまったと思った。
仕事を手伝ってもらっている立場だというのに、また自分が他の仕事を引き受ける事は、せっかくのアメリカの好意を踏みにじる行為になってしまうと回らぬ頭で思い至る
🇯🇵「…えっと、その…ア、アメリカさん…?」
日本が顔色を伺うようにアメリカの顔を覗き込むと、急に近づいた日本の顔に驚いたアメリカは、ガタリと椅子の音をたてながら仰け反った
🇺🇸「…っ俺は、お前が他のやつに頼られるのが…嫌なんだ」
🇯🇵「えっ?」
思わず心の内を口走ってしまったアメリカと、アメリカの言葉に目を丸くしながら驚く日本。
辺りはしんと静まり返り、居心地の悪い空気が2人の間に漂う
🇯🇵「なんで…アメリカさんが、そんなこと…?」
アメリカの言葉に驚きながらも沈黙を破った日本、しかし、すぐにその先の言葉を失う姿に、アメリカは最早後戻りが出来なくなっていた。
🇺🇸「…俺が、お前を好きだからだよ」
アメリカが絞り出すようにそう告げた時、日本は唖然とした表情を晒しながら、空いた口が塞がらない様子でアメリカをまじまじと見つめた。
そのまましばらく固まっていた日本は、やがては眉を八の字に下げながら、乾いた唇を動かした。
🇯🇵「…アメリカさん」
🇯🇵「それって冗談、…ですよね?」
首を傾げながら、信じられないという笑みを浮かべる日本
そんな日本を、アメリカは至って真剣な目で見つめ返すが、その際、思いのほか力が入っていたアメリカの拳は、バン!と大きな音を立ててデスクを叩いてしまった。
🇺🇸「っ冗談なんかじゃない!俺は、…本気だ」
日本はその音とアメリカの低い声に驚き、肩をはね上げながら体を強ばらせる。
🇺🇸「俺は、お前が他のやつに笑顔を見せるのが嫌だ。…俺にだけ、その笑顔を見せてほしいんだ」
アメリカは、自分が無茶苦茶な事を言っている自覚がありながらも気持ちの吐露を止められず、その声には、腹の底から這い上がるような激情が滲んでいた。
🇯🇵「!?、で、でも…急に、そんなことを言われても…」
🇺🇸「…こんなことは俺のワガママだってわかってる。…でも、俺はもう、この気持ちを抑えられない」
そうしてアメリカは立ち上がり、1歩、2歩と日本との距離を詰める。日本を見下ろすアメリカの瞳には、自欲と葛藤が入り混じった強い光が宿っていた。
🇯🇵「ア、アメリカさん…?」
日本の声は微かに震えていたが、アメリカは、その声すらも自分の心を揺さぶる要因だと感じた
ゆっくりと近づくアメリカにおののき、怯えた様子でこちらを見つめる日本。
……俺は今、いったいどんな顔をしているのだろう?
日本の手が震えている事に気がついたアメリカは、暴走しかけた自身にまったをかける。
🇺🇸「……怖がらせてごめん、…でも、お前が他の誰かに笑いかける度に、俺は俺を保てなくなるんだ…」
荒れ狂う感情を必死に抑えながらも、アメリカはそれが全く上手くいっていない事に気がついていた。このままでは、なけなしの理性が壊れてしまいそうで怖かった。
そんなアメリカの姿に、日本はしばらく何も言えないまま、相変わらず困惑したように眉を下げ、目の前のアメリカを見つめていた。そして、長いようで短い沈黙の後に、日本は重い口を開く
🇯🇵「…アメリカさん」
🇯🇵「…私は…アメリカさんの事をそんなふうに考えたことが無くて…」
🇯🇵「…ごめんなさい、ちょっと混乱してて…なんて言えばいいのか…」
日本は視線を横に逸らしつつ、やんわりと、それでいてはっきりとした拒絶をアメリカに告げた
🇺🇸「……そうか」
そう呟きながら目を伏せたアメリカの脳裏に、もう引き下がるべきでは?という思考が僅かによぎる。しかし、その一瞬の迷いを振り払うようにして、アメリカは再び日本を見つめた。
🇺🇸「…もう少しだけ、俺にチャンスをくれないか?」
どうしても日本を諦めきれないアメリカは、静かにそう言った。
🇺🇸「お前に迷惑をかけるつもりはない。ただ、俺は…お前の事が心配で…」
🇺🇸「俺が近くで、お前を支えてやりたいんだ」
🇯🇵「…!」
日本は、アメリカの誠実で美しく、情熱的な視線に戸惑いながら、次第にアメリカの持つ熱に当てられるかのようにじわじわと顔が熱くなっていく
そうして日本は目を泳がせながら、ついには小さく頷いた。
🇯🇵「…わ、分かりました…」
🇯🇵「でも…どうか、急がないで下さい…///」
潤んだ瞳でアメリカを見上げる日本の、懇願するような仕草と言葉に息を飲みつつ、ようやく緊張の糸を解く事が出来たアメリカは、日本の表情を見てふっと微笑んだ
🇺🇸「…今のお前、すっごい顔赤いぞ」
🇯🇵「!?」
🇯🇵「そ、それは…!急にこんな事言われたら、誰だって……!!///」
アメリカは、さらに顔を赤くして俯いた日本を無性に抱きしめたい衝動に駆られるも、惚れた弱みと言うのだろう、自分の欲よりも、日本の急がないで欲しいというやっとの願いを聞き入れたいと思った。
🇺🇸「はは…本当に可愛いな、お前…その表情だけは、絶対に俺以外には見せないで」
🇯🇵「なっ…!?だから……!うぅ…///」
少なくとも、日本の中に自分の存在を大きくする事が出来たのは確かなのだ…赤らんだ顔を必死に隠そうとする日本の姿に、今は、それだけで十分だとアメリカは切に思う。
薄暗いオフィスに時計の針音が響く中、この夜を境に、2人の運命は大きく動き始めたのだった──。
コメント
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うわぁ。なんだよ。なんかもう。 初というか美しいというか美味しいというか、、、、 需要しかないッ!!
本当にただただ 幸せになりやがれください .. 💍🫰🏻💗 🇺🇸 の 🇯🇵 に向ける 想いは 独占欲や嫉妬も多いと思うけど それなんかより 🇯🇵 の 幸せを願う気持ちも強いのかな .. 😌💞
あ、もう最高です。なんというか表現の仕方が大好きですわ…