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双方何も言葉を発しないままで、時間だけがチックタックと刻まれていった。
沈黙を破ったのは、拙い(つたない)ながらも力強いいつものカタカナ喋りの声であった。
「アツサ、ゼンゼン、タリナイ、ヨッ!」
オルクスの言葉に瞬間で答えるのはスプラタ・マンユの賢い代表である、次兄モラクスの声である。
「暑さが足りない? あ、兄者? ちょっと寒いのか? 四月にしては結構暖かいと思うが…… じゃあファンヒーターとか動かそっか?」
オルクスが馬鹿を見る目で答えた。
「バッカ! ソウジャ、ナイヨ! コノ、マリョク、ワカクテ、ウスイ! ムカシ、ノ、ルキフェルサマ…… コユキ、ト、ゼンアク、モット、モット、モット、モット…… アツイ! サンセンチ、ト、オウコク、ノ、ツルギ…… モット、オ、オ、オ、オモシロイッ! ヨッ!」
拙い、いつも通り、いや、いつも以上に拙い言葉であったかもしれない……
だが、この言葉を聞いたスプラタ・マンユの兄姉弟(きょうだい)達は真顔を浮かべて、彼らにダメ出ししたオルクスでは無く、コユキと善悪の顔を見て言うのであった。
「「「「「「マラナ・タ」」」」」」
「バッカッ!」
コユキも善悪も意味の分からない涙を流しながらそれぞれ答えるのであった。
「何なのでござる? もう、拙者達がそんなズルい事考える訳ないでござろ? どう? どう?」
ぐすっ!
「面倒だからそんな弱虫作戦なんかしないわよ、恐らく善悪もね…… ってことはこれ相手は案外弱虫って事なんじゃないのぉ? 偽装工作とかさっ! 離間工作とかさっ! 案外楽勝で勝てるんじゃないのぉ! コユキ、プラス思考! よぉぅっ!」イライラ!
ちょっと錯乱気味だったが、何とか持ち直してきたラマシュトゥが改めて分析を始めるのである。
「そ、そうですわね…… 受肉して二つ身に分かれた結果、ルキフェル様の魂は、数百代の人の生を生き、又死を経験して来たのですから…… 確かにこの術式に込められた原初の魔力特性が現在のコユキ様、善悪様とは全く別の物であるのは紛い無き事でしょうね…… すみません、ちょっと先走ってしまいましたわ、お許しくださいませ」
優しいコユキの事である、許すのみならず今後の為にアドヴァイス迄してくれる、親切である。
「許すも許さないも無いじゃない、一度口にしたら撤回しようが言い直そうがもうどうしようもないのよ? 言われた相手の心、記憶を抉って(えぐって)一生涯残るんだからね! 抉られた相手としてはその後の付き合い方を変えざる得ないのよぉ~、だから言葉を発する前にもっと真剣に、そして慎重に、知性と洞察力を駆使してから発すればよかったねぇ~? 小宇宙(コスモ)を燃やせっ! って事ね! ところでアンタ誰だっけ?」
急性の健忘症に陥ってしまったのだろう、病弱なコユキに善悪が教えてくれるようだ。
「なんでござるかコユキ殿、仲間の事を忘れるなんてダメでござるよぉ、ほらこの女は『お前だよ一号』ではござらぬか~、んであっちの青紫が『お前だよ二号』、あそこの金色バカが『三号』でしょ? んでこっちの超富士額(ふじびたい)が『自作自演君』で隣のすかしたのが『納得いかない君』でござろ? どう? 思い出せたぁ~」
コユキは掌(てのひら)に拳を当てる動作と共に返す。
「そうだったわね、それにしてもこいつ等と違って冷静に物事を見られるなんてオルクス君は流石よねぇ、軽はずみにペラペラしないで最後まで無言を貫いたアジ・ダハーカも慎重で良いわよぉ、スプラタ・マンユの 二・人 の事はこれからも頼りに出来るわねぇ~」
「当然でございます」
「ダネ」
さっきまで二人に疑いの眼(まなこ)を向けていたアスタロトだったが、堂々と掌を返して仕上げに掛かる、邪悪だ。
「コユキ善悪、そろそろ茶糖の家からトシ子が帰ってくる頃合いだろ? この結果を話し合わなくちゃならん、本堂で待とうじゃないか! スプラタ・マンユの 二・人 も一緒に移動しよう!」
頷いて移動を開始するコユキに向けて、ラマシュトゥとモラクスが声を掛ける。
「「コユキ様、お許しを!」」
コユキは冷たい目つきで答えた。
「失った信用を取り戻すために必要なのは許しを請う言葉じゃないわ…… 必要なのは行動よ、行動! 自らの行いで信用を勝ち取るしかないのよ、分かった? 『お前だよ一号』それに『自作自演君』」
スタスタと居間を出て行くコユキに肩を落として俯く(うつむく)、元スプラタ・マンユだった五人、気まずい空気から逃げるように食事の後片付けを始めたアフラ・マズダ、その時目を覚ました地蔵菩薩、スカンダは文字通り憑き物が落ちたさわやかな顔で言葉を発するのであった。
「オジサンオバサン、先程は失礼しました、んが、何やら頭がスッキリした感じですよ! 今迄の事は許してくださいね、ほれこの通り! 謝りましたよヘラヘラヘラ♪」
ペコッと頭を下げてニコニコと笑みを浮かべたスカンダは、その後五人からみっちりと必要以上の説教を喰らうのであった。(とばっちり)