輝夜が起きたあと、 千春は事の顛末を話す。輝夜は返事もせず に、支度をし始めた。 いつもの小刀を腰のベルトに取り付け、 飴玉の入った袋を机から取り出す。 ちらっとみただけでもぎっしり詰まってい るのがわかった。そんなに好きなのか。
「 場所は? 」
「 京都の長岡京市ってとこらしい。 輝夜ちゃんが寝てる間にさっき聞いてきた 」
「 そう、 ありがとう、 じゃあ行くわよ 」
ああ、わかった。千春がそう返事すると、 輝夜は慌ただしく特葬課を出た。 慌てて千春も追いかける。
長岡京市に着くと、そこには歴史的景観が 目立つ街並みがあった。ふと見とれている と、輝夜に「 早くして、 置いてくわよ? 」 と 言われたので、急いだ。程なくして、 何人かの人影が見えてくる。 胸にバッジをつけている。特葬課だ。
「 千春クン、 輝夜クン、 ようやく来たか 」
「 赤津さん、 状況は? 」
「 平和だよ、 いたってね。 テロが起こったにしては静かすぎる、 人っ子一人居ない。 はめられたね 」
「 はめられた? 」
「 ああ、 恐らく、 長岡京市の市民は既に、 連れ去られているか、 殺害されている。 避難しているならそれが司令で伝えられないはずは無いからね 」
「 まったく、 軍もやはり信用ならんな! 我の仕事を増やしておいて、 その仕事がないとはな! ハッハッハ! どうしたものか! 」
「百田、うるさいわよ、 …それに、仕事は無いわけじゃないわ! 市民を探さないと!」
「 椎名クンの言う通りだ、 死んでいるにせよ連れ去られているにせよ、 ハッキリさせないとね。 …おそらく、 これは“人のしわざ”ではないね 」
「 あの、 赤津さん、 こんな時に聞くのなんなんですけど 」
「 ん? なんだい? 」
「 特葬課の最後の一人って人は、 来てないんですか? 」
それを聞くと、赤津と千春以外の3人は、 あぁ…というような顔をして、 次々と言う。
「 彼は… まぁあれだ、 来るのに時間がかかるんだ …我が迎えに行っても良かったんだが、 時間が無くてな 」
「 ええ、 ちょっと彼には事情があってね… 対死呪人においては、 この上なく頼もしいのだけれど 」
「 あの人太ってるから、運動不足で痛風だのなんだの、 生活習慣病かかってるのよ。 だから歩くのも遅いし、 電車に乗るのも一苦労なの 」
「「輝夜(君)!」」
「 だって事実でしょ 」
「 輝夜ちゃん、 オブラートに包もうよ、 それは 」
言わずにはいられない千春だった 。 だが赤津によると、こちらには向かってい るので心配しなくてもいい、と言われた。 千春は、なんとも言えない不安を抱きつつ も、それに頷いた。
赤津の提案で、 あたりを手分けして探して いると、千春と椎名のペアは、 1人の老人が立っているのを見つけた。
「 大丈夫ですか? 」
「 ……………。」
老人は喋らない。 深く濁った緑色の目をした白髪の老人は、 フード付きの白い装束のようなものを着て おり、腰を曲げたまま下から千春の顔を じっと見ている。
「 あの、 私たちあなたを助けに来たんです! 何があったんですか? 」
椎名が少し大きな声で言う。 聞こえていないと思ったのだろう。 すると老人は、持っている杖を天に掲げ、 口を開いた。
「 哀れ。 これが、 何も知らず殉ずる命たちか。 吾輩、失笑… 」
老人がくっくっくと声を殺して笑う。
「 は? 何を言って……… 」
「 “轟雷”。 」
すると突然、老人の杖から雷が発生し 、 辺り一帯に降り注ぐ。 椎名は千春を突き飛ばし、 自分はその雷を避けられなかった。 致命傷は避けたようだが、もろに食らった 右腕の部分が、黒く焼け焦げている。
「 椎名さん! 」
「 逃げなさい! あなたがいると邪魔なの! 」
「 そんなこと言ったって! 椎名さんが1人になったら! 」
「 あなたがいると1が0になるのよ、逃げて他のメンバー呼んで来るなり、 あんたにもするべきことはあるの! いいから早く! 」
言いくるめられて、千春は従う 。 他のメンバーの所へ走っていく千春が後ろ を振り向くと、 右腕を抑えながら老人と戦う椎名の姿が 見えた。 千春は、それを見てさらに急いだ。
一方その頃、輝夜と赤津のペアも、 突然男女2人の死呪人に襲われた 。 輝夜たちはそれがわかるや否や死呪人から 距離を取り、相対する。 ライダースーツを着た長身でモヒカンの男 と、白いワンピースを着た小柄でおかっぱ 頭のハンマーを持った女だった。
「 都合よく別れてくれるなんて、 なんてラッキーなんでしょう? ねぇリュウビ? 」
「 ああそうだな、 イチ! さっさと済まそうぜ! 帰ったらパンケーキが待ってんだ!」
「 あら、 いいわね! なら、 あなたの言うとおり、 早く済ませましょう!」
するとリュウビという男は、 その長身の身を屈めて、手のひらを動物の 爪のように折り曲げて、腕を後ろに引く。
「“爆拳”!!!」
リュウビという男は、爆裂音とともに、 輝夜めがけて一瞬で詰め寄る。 そのまま先程後ろに引いた腕を 前にのば し、輝夜にぶつける。 凄まじい爆煙が起こり、輝夜クン! と赤津が呼ぶが、 その隙にもう1人のイチという女が、 煙の中から赤津に詰め寄っていた。
「 よそ見してる場合かしら? 」
「 しまっ…………! 」
「 えいっ! 」と 女は軽々とハンマーを赤津 の側方に向かって振るう。 咄嗟に銃身で受ける赤津だった が、 衝撃を防ぐことは出来ず、 衝撃の方向の先にあった家屋に吹き飛ばさ れる。ホコリや瓦礫ををはらいのけながら 赤津はつぶやいた。
「 ……死呪人が、 徒党を組んで襲ってくるとはねェ… まったく、 面倒だ。 だから軍はボクらに任せたわけだ… 」
「 なにをブツブツ言ってるのかしら? 命乞い? 」
「 いいや、 僕ァ命乞いなんてしない、 するのは仕事 …キミたちのような輩を殺すお仕事だ 」
「 そう、 せいぜい頑張る事ね! ムリだけれど! さっきの厄介な権能を持つ女も、 リュウビにかかればあっという間よ! 」
「 “あっ。” ………はい、 言ったよ 」
「 は? 」
「 あっという間、 って言ったじゃないか。 その様子なら輝夜クンは大丈夫そうだね? 」
「 …………あんた、ムカつくわね 」
「 よく言われる 」
「 あたしの揚げ足取ったこと、後悔させてあげる 」
「 ああ、ぜひ頼むよ 」
そして、2人の戦いは始まった。
それぞれのペアが戦闘を開始した直後、 1人で行動していた百田。 巨体を震わせながら、道の真ん中をのしの し歩く。 百田は、途中で立ち止まって言った。
「 ふぅー… さて、 君。 我の後をつけて何がしたいのかな? 」
百田が言うと、物陰から黒のパーカーを着 た少年が1人、姿を現した。 百田は振り返り、少年の姿を確認する。
「 おや、 バレてたか、 まぁ、いいんだけどさ…百田一郎、あんたが1人になりさえすれば 」
「 ほう、 我々が離れて行動するのを待っていたと 」
「まあね、 あんたが1番厄介だ、 だから俺とあんたの後ろにいる男が、 あなたの相手をすることにした 」
その言葉を聞いた百田は、 後ろを振り向く。するとほぼ密着出来る距 離に、 山高帽子をかぶった紳士風の男が立ってい た。 手品で使うようなステッキを持っている。
「 ハロー! 百田サン! ワタシはカッチー! “カッチー=ジャマー”! 」
貼り付けたような笑顔で 百田に自己紹介するジャマーという男は、 ピエロメイクをしており、あくまでも腰が 低かった 。 突然現れた男を警戒し、 百田は距離をとる。
「 あら、 つれないお人? そんなに警戒しなくてもいいじゃあないですか? 」
「 悪いが、 これから襲ってくることが分かっている敵に、 警戒を解くことは出来んな! それとも、 和解をするつもりなのかな? 」
「 あらこれは1本とられた。 たしかに和解なんてできっこないか! 既にほかのお仲間の所にもワタシたちの仲間が向かっているでしょうしね! 」
「 その辺にしてくれよ、 ジャマー! 早くしないと他の奴らがもつか心配だから! 」
「えー? まぁしょうがないか、 まったく、 ノリが悪いですねぇジグソーくん 」
「 “ジグソー”じゃない! “ジグゾウ”!いつも言ってんだろ! 」
「フヒヒ、失敬失敬。」
「 さて、 もういいかな? 我の仲間が襲われていると知った以上、 ここで時間を使っている暇はないんだ、 来るなら早く来るといい 」
「 じゃ、 お言葉に甘えるか… 」
「 ええ、興も済みましたし 」
そして、百田の戦いも、幕を開ける。 各地で、 人智を超えた激戦が、 繰り広げられ ようとしていた。
コメント
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今日も面白かったです!!続きが気になります!!( •͈ᴗ•͈)
あれ、おかしいぞ?前回も続きが気になってなのに今回も続きが気になってしょうがない!?だっ誰か!!この現象から助けてくれ〜!!