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週末、千尋さんと顔を合わせるのが気まずくて実家に帰ったら、そこには兄と響子さんがいた。


2人揃っている姿を見るのは、結婚報告を受けた時以来だ。



「あれ?詩織?」


「詩織さんだー!レセプションの時以来ぶりだね」


リビングにいた2人は、私を見ると嬉しそうに声をかけてくる。


父と母もリビングにいて、どうやら4人で結婚式関連の打合せをしているらしい。


響子さんはすっかりうちの両親とも打ち解けているようだ。



「今日はどうしたの?瀬戸さんも一緒なの?」


リビングに入ってきた私に母が尋ねてくる。


「一緒じゃないよ」と答えたら、それを合図にしたかのように、兄が口火を切った。



「そうそう、その話を詩織から聞きたかったんだよ!母さんから聞いた時はビックリしたんだって。いつから付き合ってたの?僕と銀座で会った時にはもう付き合ってた?」


「……お兄ちゃん、健ちゃん化してるよ」


「ああ、ごめんね。でも今初めて健の気持ちが分かるよ。根掘り葉掘り聞きたくなるね」



今はあんまり千尋さんのことをこのテンションで話す気分ではない。


苦笑いしながら誤魔化していると、兄の隣にいた響子さんが「そうだ!」と声を上げた。



「ねぇ、悠くん、せっかく詩織さんと会えたから2人でカフェに行ってきてもいい?結婚式の打合せもひと段落したしさ」


「前から詩織とゆっくり話してみたいって言ってたもんね。詩織、どう?」



響子さんと2人でカフェという状況に対して、以前のような拒否感はない。


辛いとも感じない。


以前から誘ってくださっていたし、この前のレセプションでは途中でその場を外してしまって失礼な態度だった反省もあった。


特にこれといった予定もないこともあり、私はその申し出を受け入れることにする。


私が頷くと響子さんはとても嬉しそうにしてくれた。



「じゃあランチも兼ねてカフェに行ってくるね~!」


響子さんと一緒に実家を出て、私たちは最寄りの駅まで歩き、駅前にあるカフェに入る。


私のお気に入りのカフェで一つだった。


お店に入って、デザート付きのランチメニューを注文する。


エスニック風の料理が中心のカフェで、私が注文したのはガパオライス、響子さんはグリーンカレーだ。


最初は「おいしいね」など食事に関する感想から会話が始まり、少しずつお互いに関する話にも及んでいく。


こんなふうに同性の人と普通の友達のようにカフェでランチをするなんて、めったにない。


しかも相手が私に敵意を抱いているわけでもなく、至ってフレンドリーな会話だ。


そのことがとても新鮮だった。



……まさかお兄ちゃんの彼女とこんな風な関係になれるなんて、数ヶ月前には想像もできなかったな。



不思議なものだ。


きっと響子さんは、私が自分の彼氏の妹だから警戒も敵意も抱かないのだと思う。


だって絶対に恋愛に発展しない間柄だから。


もし違った形で出会っていたら、そうじゃなかったのかもしれない。


私は長年兄の妹であることに苦しんできたわけだけど、まさか兄の妹だからこそ築ける良い関係があるだなんて考えてもみなかった。


それが見たくもなかった「兄の彼女」だなんて。



「結婚式、もうすぐですね」


「そうなの、ホント日が経つのは早くって!バタバタしてたらあっという間。日が近くなってきて、ちょっと緊張しちゃう!」


「入籍日もその日なんですか?」


「そうなの!入籍記念日と結婚記念日がややこしくなるから、一緒にしちゃえって思ってね」


「じゃあ、その日から響子さんは私にとってお義姉さんですね。兄をよろしくお願いします」



なんの躊躇いもなく、こんなセリフが自分の口からスッと出てきた。


……ああ、私、ホントにもう完全に乗り越えたんだ。



自分の変化と成長を身に沁みて感じた。



「ねぇ、ところで瀬戸社長とのこと聞いていい?」



しばらく兄と響子さんの結婚式を話題に話していたが、ふいに響子さんがそう切り出した。


兄だけでなく、響子さんも気になっていたらしい。



「……私、恋愛話ってあまり得意じゃなくって。何をお話すればいいですか?」


「実はレセプションの時から怪しいなぁ~って思ってたんだよねぇ。あの時は付き合ってたの!?」


「いえ、付き合ってないです」


「えぇー!そうなんだ!姫を攫っていく勇者みたいだったから、てっきりそういう関係なのかなって思ってたんだけどなぁ」



第三者にはそんなふうに見えていたのかとビックリする。


姫と勇者だなんて、モンエクみたいだ。



「あとさ、もしかして最近、瀬戸社長となんかあった?」


「えっ?」


さっきまでニコニコ笑っていた響子さんが、急に真面目な顔をして、思いもよらない言葉を口走る。


真剣な眼差しで見据えられて驚いた。



「えっと……」


「私の気のせいならいいんだけどね?何か詩織さんの表情に影がある感じがするんだよね。それに今日は突然実家に帰って来たみたいだし、なんか彼とあったのかなぁ~って」



なんて鋭い洞察力だろう。


響子さんの言葉はまさに核心をついていた。



なんかあったというか、私は顔を合わせたくなくて実家に帰ってきたのだ。


原因は、昨夜の千尋さんからの求めに拒否してしまったこと。


あの時、私の心は恐れでいっぱいだった。


少し前までは手を出されないことに不安を感じていたというのに、いざそういう感じになった時、それまでとは違う不安が胸に押し寄せてきた。


それは経験不足による不安だった。



ーー“私なら千尋くんを満足させてあげられるよ?”


ーー「ねぇ、あなたはそんなちぃちゃんをあなた一人で満足させてあげられるのぉ?」



2人の女性の言葉が脳内を駆け巡った。


彼女たちの言うとおり、きっと私では千尋さんを満足させてあげられない。


経験が圧倒的に足りないのだから。


もう27歳だというのに、普通の27歳の女の子より経験不足なのは自覚している。


それに対して、千尋さんはというと、あのベリーの香りの女性や薔薇の香りの女性、それだけでなく数多くの女性と関係を持ってきたはずだ。


そんな彼が私で足りる?


私が満足させてあげられる?


答えはNOだ。


だから千尋さんから求められた瞬間、怖くなった。


千尋さんをガッカリさせたくない、失望されたくない。


そんな恐れが身体中を支配し、咄嗟に止めてしまったのだった。


「……響子さんってすごいですね」


「ということは、やっぱりなにかあったの?」



響子さんは心配そうに私の顔を覗き込む。


その瞳には茶化すだとか、面白がる、馬鹿にするといったものは一切なく、純粋に私を心配して気にかけるものだった。


まるで兄が私に向けるような目だ。



「良かったら、私に話してみない?話すと気が楽になるかもしれないし、なにか糸口が見つかるかもしれないよ?」


兄のようだと感じたこともあり、私はつい気が緩んで、響子さんにこれまでのことを話し出す。


ある日千尋さんからベリーの香りがしたこと、その後スマホのメッセージを見てしまったこと、薔薇の香りがした後に誤魔化されたこと、そして薔薇の香りの女性が突然家に来たこと。



さすがに昨夜のことは話さなかったけど、私がここ最近不安に感じた出来事を打ち明けた。


響子さんは静かにウンウンと頷きながら、私の話を聞いてくれた。


口に出して話してみるだけでも少し心が軽くなるような気がする。


女友達同士で恋愛トークをするのは、こういう時のためという理由もあるのかもしれないなとふと感じた。



私の話を最後まで聞き終えた響子さんは「なるほどね、それは不安になるわ」と一言つぶやく。


同時に私に一つの質問をした。



「ねぇ、詩織さん。その不安って直接瀬戸社長に話したりしてないの?」


「えっ、千尋さんに、ですか?」


「そうだよ。話した方がいいよ」


「でもこれは私が感じただけのことで、別に千尋さんが悪いわけでもないですし。言われたところで困ると思うんですけど……」


「そんなことないよー!付き合うって、お互いに言いたいこと、感じてることを素直に遠慮せず話すことが大切だと思う。だって生まれ育った環境も性格も違う2人なんだから、当然考え方も感じ方も違うよね。それをすり合わせていくというか。そういう努力が必要だと私は思うな」


「素直に言う、ですか……」


「そう、どっちかが我慢したり、無理してるのは違うと思うよ?そのうち耐えきれずに爆発しちゃうだろうし。何も言われずにいきなり爆発して別れを切り出されたらどう?それなら、早く言ってよって思わない?」


今までにない視点の言葉に目から鱗が落ちる心地だ。


付き合うっていうのは、ただ相手を想うだけじゃダメなんだと初めて気づいた。


これまで自分の心の中ですべてを解消してきたから、相手に素直に伝えるという選択肢なんて全く思い浮かばなかった。


でも、響子さんの言葉で、付き合うって2人で関係を築いていくもので、そのために伝えるべきなんだと思い知った気がする。



「たぶんだけど、瀬戸社長は詩織ちゃんがそういう不安を感じてることを気づいてないんじゃないかな?ちゃんと思ってること伝えてみたらどう?」


その提案に私は頷く。


響子さんの言う通りだと思ったからだ。



……素直に話してみよう。千尋さんのことが好きで、これからもずっと一緒にいたいから。



それを望むなら、我慢する努力をするのではなく、素直に何でも言い合える関係を築く努力をすべきだろう。



「そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ!きっと瀬戸社長も分かってくれるよ」



励ますように響子さんに言葉をかけられて勇気づけられた。


まさか「兄の彼女」にこんなに親身に話を聞いてもらえるとは思わなかった。


……ホント、さすがお兄ちゃんが選んだ人だな。敵わないよ。


ハツラツとした笑顔を浮かべる響子さんが眩しい。


私もこんな素敵な女性になりたいなと強く思った。




ランチを終えた私たちは、その後も色んな話をしながら実家へ歩いて帰る。


響子さんから聞く兄の話は、私の知らない兄の一面が垣間見れて面白い。


話を聞いていると、兄と響子さんもまた、2人ですり合わせしながら関係を築いてきたんだなと感じた。



「ただいま戻りました~!」


実家に到着し、玄関先で響子さんが明るく中へ声をかける。


靴を脱いでいると、中からこちらに近寄ってくる足音が聞こえた。


その音を耳にしながら、カフェに行く時にはなかった男性モノの靴が玄関先にあることに気づく。



……来客?お兄ちゃんの知り合いでも来てるのかな?



「おかえり!2人の帰りを待ってたよ」


お兄ちゃんの声で振り向くと、そこには2人の男性がいた。


1人はお兄ちゃん。


そしてもう1人、お兄ちゃんの背後にいるその人の姿を視界に入れて、私は驚く。



「千尋さん!?」



家にいるはずの千尋さんが、なぜか私の実家にいた。


しかもなぜかずいぶんと兄と打ち解けた雰囲気だ。



「おかえり。詩織ちゃんと話がしたくて実家で待たせてもらってた」


千尋さんも話がしたいという。


さっき素直に話そうと決心したばかりだったが、その機会がすぐに巡ってきた。


こんなに早くとは思っていなくてちょっと動揺する。


そんな私の内心を察したのか、勇気づけるように響子さんが背中をそっと押してくれる。


チラリと響子さんを見ると、何も言わず、ただ「大丈夫」と言うように無言で力強く頷いていた。



その無言の励ましに力を貰い、私は改めて千尋さんの姿を見据える。



そして一歩踏み出した。

涙溢れて、恋開く。

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