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🐱side
最初は俺のほうが慣れていった。
ケビンくんが忘れる。
俺が教える。
それだけのこと。
朝、楽屋で隣に座ってたのに、
kvn「今日、ゆうまと一緒だったっけ」
なんて言われても
ym「一緒だよ。ほら、さっきまで話してたじゃん」
って笑って返す。
kvn「……あ、ほんとだ」
ケビンくんは少し照れたみたいに笑って それで終わり。
誰も傷つかない。
少なくともその場では。
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変わったのは ケビンくんが“申し訳なさそうにしなくなった”ことだった。
kvn「昨日さ」
帰り道、駅のホームで。
電車を待ちながらケビンくんが言った。
kvn「ゆうま、僕にさ、何か言われた?」
ym「なにが?」
kvn「……大事なこと」
俺は少し考えてから首を振る。
ym「別に?」
kvn「そっか」
それで終わり。
前なら 「ごめん、忘れちゃって」って言ってた。
でも今は違う。
忘れてることをただ事実として扱う。
それが妙に怖かった。
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ある日、俺はノートを買った。
表紙も中身も、何の変哲もないやつ。
最初のページにこう書いた。
『ケビンくんのこと』
• 甘いコーヒーが好き
• 人混みが苦手
• 朝は弱い
• 左手でマグを持つ
• 俺のことを恋人だと思っている
最後の項目を書いて一度ペンが止まった。
でも消さなかった。
まだそうだから。
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俺は自然とケビンくんに説明する回数が増えていった。
ym「それ、前にも言ってたよ」
「この曲、好きって言ってた」
「ここ、前一緒に来た」
ケビンくんはそのたびに言う。
kvn「ありがとう、ゆうま」
穏やかに。
当たり前みたいに。
その「ありがとう」が 俺の中で少しずつ重くなる。
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夜、ケビンくんの部屋で。
ソファに並んで座ってテレビをつけたまま何も見てない。
ケビンくんが俺の肩に頭を預ける。
kvn「……ねえ」
ym「ん?」
kvn「僕さ、最近変だよね」
胸がきゅっと縮む。
ym「そんなことないよ」
kvn「そう?」
ym「うん」
本当は、ある。
でも言えなかった。
ケビンくんはしばらく黙ってから小さく笑った。
kvn「ゆうまがそばにいるから大丈夫だと思ってる」
その言葉に 安心と同時に別の感情が湧く。
――俺がいなきゃ、だめ?
そう思ってしまった自分が怖かった。
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キスをした。
何度もしてきたいつものやつ。
でもケビンくんは一瞬だけ、
戸惑ったみたいに目を伏せた。
kvn「……ごめん」
ym「なに?」
kvn「今、ちょっとびっくりした」
胸の奥で何かが音を立てた。
ym「……俺たち恋人同士だよ」
確認するみたいに言うと、 ケビンくんは少し遅れて頷く。
kvn「うん。そうだよね」
その“確認”が必要になった時点で もう前と同じじゃなかった。
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その夜、
ケビンくんが眠ったあと。
俺は起き上がってノートを開く。
ページがもう少し増えていた。
• キスは不意打ちが苦手になった
• 「好き」を言うのが、少し遅れる
• 俺を見て、考える時間が増えた
最後に書き足す。
『でも、優しい』
それだけは変わらない。
変わらないから余計に逃げ場がなかった。
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この頃から俺は思い出す役じゃなくて思い出を保管する役になった。
失くしたら全部、俺のせいになる気がして。
だから手放せなかった。