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港まで歩いて来ると、海を臨んでそびえる大きな観覧車があって、ゆっくりと回転をしていた。
色鮮やかなイルミネーションに彩られた巨大な観覧車を見上げていると、
「一緒に乗ってみますか?」と、声がかけられた。
「いいんですか?」
彼はあんまりこういうのは好きじゃないような気がして、私が乗りたそうにしていたのをさっきのこともあり無理に付き合ってくれようとしているのなら、悪いようにも感じられた。
「……嫌なら誘いませんので」私の気持ちを察したらしい彼が言う。
「本当に、いいんですか?」
もう一度、聞き返した私に、
「ええ」と頷いて、「幼い頃にも、女性とも乗ったことはないので、初めてになりますが」と、彼が話した。
「……初めてなんですか?」観覧車に乗ったことがないなんてと思うけれど、政宗先生ならそれも不思議じゃないようにも感じた。
「君と初めてを過ごせるのは嬉しいですね」
その言葉に、(そうだ…)と、思う。彼は、私といることを心から嬉しいと思ってくれていて……それが幸せだと隠さずに伝えてくれていた。
その幸せに気づかないでいたのは、私の方だったんだ──。
「……先生、私、二人でいられて幸せです」
思いのままを告げると、
彼はふっと優しく笑い、たぶん私がそう口にした意味を悟って、「……私も、幸せですよ」とだけ、応えた……。
観覧車を待つ列に並び、やがて私たちの順番が回ってきた。
向かい合わせで乗り込むと、ガタンと揺らいで動き出す。
だんだんと上って行くのにつれて、眼下の景色が遠く小さくなっていく。
半分くらいにまで上がったところで、「こちらに来ませんか?」と、彼に呼ばれた。
「はい…」少しだけ照れくさく感じながら、隣に寄り添って座る。
肩に手がまわされて、「上からだと、港に停まる船もよく見えますね」と、彼が指を差す。
「……本当に。あの、さっきはごめんなさい……私、お誕生日を特別なものにしないといけないと思って、二人でいることの大切さを忘れてしまっていて……」
「いいんですよ」肩がぐっと抱き寄せられて、彼の纏うアンバーの甘い香りが鼻をくすぐった。
観覧車が頂きに達しそうになって、「……一臣さん」と、呼んだ。
顔を向ける彼に、「観覧車の一番上でキスをすると、ずっと一緒にいられるっていうおまじないがあるんですよ」告げて、私から思い切ってキスをした。
突然のことに、彼の目元が微かに朱を帯びて、
「……まったく、君は。いつも思ってもみない幸せを、私にくれるんですね……。ありがとう……愛してる。智花」
甘い言葉とともにキスが返されて、挿し入れられた舌がちゅっ…と絡みつく。
「……んっ…」
唇が離れると、「……愛してる、私も」口にして、彼の胸に頭をもたせかけた。
抱えられた腕の中で彼の胸の鼓動を聴きながら、この人と一緒にいられる幸せを改めて噛み締めていた……。