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星乃 柊(ほしの ひいらぎ)
彼女の生まれはごく普通の都会であった。
なんの変哲もない、普通の都会であった。
朝起きて仕事に行って、夜中に帰る。
そんな暮らしをしていた。
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目が覚めると知らない場所にいた。
きっと森とかなんかだろう。もしかしたら、樹海かもしれない。
ホタルらしき光が飛び交う。
少し薄暗くて、涼しい雰囲気のその森は、よく分からない不気味な感じがした。
慌てて森から抜け出す。
思った以上に体力がないのか、走っても走っても、先に進んでいる気がしない。
運動…しとけば良かったかな。
そんな後悔が頭を過ぎるも、今は走るしかないのだ。
やっとの思いでたどり着いたその街。
目の前に広がるのは、おとぎ話のような洋風の街並み。
蒸し暑さに包まれ、男たちの歌声や、笑い声が響く。
ふと空を見上げると、曇っているのか、月すら見えない。
このまま…どうなっちゃうの…
涙で視界が滲んでいく。
そのまま座り込んでしまった。
どのくらいそうしていただろうか…男達の賑やかさは収まるどころか、どんどん盛り上がっていく。
私には見向きもしない。
諦めかけていたその時、目の前に一人の青年が現れた。
薄茶色の髪の毛、青緑色の瞳、すすで汚れた頬…
茶色い革の帽子に、同じ素材の鞄。
その少年は不思議そうに私を眺めた後、穏やかな笑みを浮かべ、私に尋ねた。
「…見ない顔だね。観光客?」
「…わかんない」
人付き合いは苦手だ。
俗に言うコミュ障の私は初対面の人とはまともな会話ができない。
「…そう。うちの酒場に来る?」
「……」
なにも答えられなかった。
酒場?…なんだかあまりいいイメージがない。
周りにいる「いかにも」な雰囲気を漂わせる男達。
そんな人たちがわんさかいるであろう酒場に…
ないとは思うが、こんな身体に目を付けられでもしたら…
そんなことを考えているうちに、目の前にの少年が手を差し出した。
着いてこいってこと?…かな?
気づけば、迷わずその手を取っていた。
少年に手を引かれて、長い道を歩いてゆく。
☾
相変わらず賑やかな街の通り。
賑やかな楽器の音、歌声。
自然と足並みはリズムをリズムに合わせ、音楽に身を任せていた。
ちらっと横を確認すると、俯いて少し怯えた様子の少女。
何歳くらいだろうか…?10歳くらいかな?
金色の肩まである髪を揺らし、新緑の瞳はどこか遠い所を見ているような感じがする。
「君さ…生まれは何処なの?」
勇気を出して聞いてみた。
少女はちらりと視線をこちらに向け、再び俯いてしまう。
「トウキョウ…」
「……?」
トウキョウ…聞いたことのない地名に困惑する。
もしかしたら異国なのかも、だとしたら口数が少ないのにも合点がいく。
「えーっと…そうだな…君、歌は好き?」
「…」
小さく頷く。
「それはよかった、僕も歌がすきなんだ。」
「……」
それ以上、なにも聞かなかった。
なんだか、申し訳なかった。
☾
「さあ、着いたよ。」
家の裏口へと案内する。
ドアを開けるとだいぶ酔いが回っているのか、常連のジェネシスが声を上げる
「おーぅい、我らが吟遊詩人の坊やが帰って来たぞい。」
その声で酒場は余計に賑わった、
「ちょっと、待っててね…どこか適当に座るといいよ。
母さんに話してくるからさ。」
そう言うと少女はさらに不安そうな顔になった。
仕方ないので、彼女の手を引いて母のいる厨房へと向かった。
いつも賑やかなこの酒場は、僕がこの少女を連れてきたことで余計に賑やかになった。
僕の彼女だの、何だの…
そんな言葉を無視して厨房へ入る。
「あれぇ、リボルト!女の子じゃないかい、どうしたんだい」
「あのね、母さん。道で拾ったんだ。うちで雇ってやれない?」
「別に構わないよ、うちはいつでも人手不足さ!」
母の話を聞きながら、いつもの準備を始める。
「じゃぁ、手伝い、頑張るんだよ。母さん達の言うこと聞いてれば大丈夫だからさ」
「……」
小さく頷く。
名前も知らない弦楽器を手に酒場の中心へ。
さあ、此処からが僕の仕事だよ。