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鷹岸視点
ピーッピーッピーッ!!
セルフレジからけたたましい警告音が鳴り響き、僕はハッと我に返った。
「あ、すみません。まずはお会計を……」
「そうだな、すまない」
彼が慌てた様子で支払いを済ませると、再び僕と向かい合い、明らかに期待の眼差しを向けてきた。正直に言ってしまえば、その期待に応えられる自信なんてこれっぽっちもない。でも、もし役に立つなら、生まれて初めて誰かのためにこの「能力」を使ってみたい――不思議と、そう思えた。
他に客がいないとはいえ、まだ僕は勤務中だ。シフト上がりに従業員用の裏口で待ち合わせることを約束し、一度彼と別れた。
「お疲れ様でした」
数十分後、入れ替わりで出勤してきた先輩に声をかけ、裏口から外へ出る。
そこには、彼が車をつけて待っていた。いよいよ逃げられないのだと覚悟を決め、ゆっくりと近づいていく。
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。僕は鷹岸優斗(たかぎし ゆうと)です」
ペコリと改めて深々と頭を下げた。
対する彼は、僕を労るようでいて、どこか後ろめたさが滲むような複雑な視線を投げかけてくる。僕の覚悟のほどを推し量るような目だったが、なぜか不快ではなかった。
「車内で話せないか?」
「分かりました」
そう促されて助手席のドアに手をかけたものの、急に不安が押し寄せる。僕はまだ、この人のことをよく知らない。本当に応じていいのだろうか。ほんの少しの躊躇いが重くのしかかり、寸前で足がすくんでしまう。
それでも、彼は黙って見守るだけだった。決して急かさない。最初から僕の歩幅に合わせてくれている。そんな彼の静かな優しさに、くすぐったさと、新鮮な安心感を覚えた。
「お邪魔します」
助手席に腰を下ろすと、彼もそれを見届けてから運転席に座った。
すぐに事件の凄惨な話が始まるのかと思いきや、彼は僕の緊張をほぐすように、他愛のない雑談を始めた。最近のドラマ、好きな動物、趣味の話。
世間話に興じるうち、徐々に「話を聞かなければ」という目に見えないプレッシャーが消えていくのが分かった。本来なら、すぐにでも事件の概要を突きつけて協力を仰ぐこともできたはずだ。そうしなかった彼の気遣いに、僕は誠実さを感じていた。
(だったら、僕の答えはもう一つしかない)
僕はあえて自分から水を向け、事件の概要を切り出してもらった。
事の始まりは、ある母親から寄せられた「中学生の娘が帰ってこない」という一本の通報だったという。学校側へ問い合わせても、部活の顧問が下校を見送ったのが最後。家族関係も友人間も良好で、家出をする理由などどこにもなかった。
当初は通常の失踪事件として捜査されていた。しかしある日、公園の砂場から少女の「上体」が見つかったことで事態は一変する。科学鑑定の結果、行方不明の少女のものだと断定され、さらに後日、人工芝が敷き詰められたドッグランの地面から、彼女の「頭部」が発見された。
「それは……妙ですね」
思わず口を挟んでいた。
ドッグランの地面に埋め、その上から人工芝を被せていたというなら、明らかな隠蔽工作だ。だが、公園の砂場に遺棄するというのは、あまりにも杜撰すぎる。まるで見つかっても構わないと言わんばかりのいい加減さに、強い違和感を覚えた。なんだか、殺害した犯人と、遺体を捨てた犯人が別人のように噛み合わない。
「やっぱりそう思うか? 君はなかなかいい勘をしているな」
彼によれば、警察署内でも、意図的に隠されていた頭部は本犯、隠す意思が見られない上体は模倣犯や共犯者によるものではないか、という見立てで捜査が進んでいるらしい。
狭い車内。僕のすぐ後ろ、後部座席のあたりから、かすかに衣擦れのような音と、小さく震える吐息が聴こえている。彼女がそこにいる。
本人のいる前で「残りの死体パーツはどれくらいあるのか」を堂々と聞くのは流石に躊躇われ、僕は重要度の高い部位について尋ねることにした。
「どこが見つかれば、捜査が進展しますか?」
「やっぱり……腕、か。防御創や生活反応が確認できたら、一気に動き出せる可能性がある」
僕はバックミラー越しに後部座席を見た。やはり僕の目には何も映らない。自分にもその姿が視えたらいいのにという、もどかしさと悔しさが込み上げる。けれど、そこにある彼女の「確かな気配」だけは、肌にピリピリと伝わってきた。
溜め息を一つ吐き、胸の中の覚悟が逃げ出さないようにしっかりと閉じ込めてから、僕は隣の彼を真っ直ぐに見つめた。
「分かりました。僕はあなたに――登坂さんに、協力します」
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コメント
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うわ、第3話もすごかった……! 鷹岸くんの葛藤とか、少しずつ登坂さんを信頼していく感じが丁寧に描かれてて、読んでるこっちも一緒に緊張したよ。特に「違和感」に気づくシーン、あそこ本当にゾクッとした。頭部と上体、明らかに遺棄の仕方が違うって推理、すごく納得。後部座席の気配を感じ取る描写も切なかった……。次どうなるのかめっちゃ気になる!