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登坂視点
ピーッピーッピーッ!!
セルフレジからけたたましい警戒音が鳴り響き、彼は慌てて画面を操作してエラーを解除した。
「あ、すみません。まずはお会計を……」
「そうだな、すまない」
彼の慌てっぷりに釣られたのか、なぜか俺まで少し気後れしながら支払いを済ませた。なんとなく彼を見ると、俺が過剰な期待の眼差しを向けすぎたせいか、居心地が悪そうに身を縮めていた。自分の能力が、俺の期待に見合うものではないと不安に思っているのだろうか。
(全然そんなことないのにな……)
だが、俺が彼にバディを頼んだのは、彼自身の人間性を知ったからではない。同じく死者に干渉できる「能力」を求めたからだ。つまり、彼という人間よりも先に能力を利用しようとしたも同然だった。悪用でも画策しているのではないかと、警戒されても文句は言えない。
とりあえず他に客が見当たらないのをこれ幸いと、いつなら話せるか確認した。まだ勤務中とのことだったので、シフト上がりに従業員用の裏口で待ち合わせる約束をして、俺は一度コンビニを後にした。
「まともなのは見つかったか?」
署内に戻るなり、上司からぶっきらぼうに声をかけられた。言い方は荒いが、声には心配が滲んでいる。まだバディが決まっていない刑事は、もう俺しかいないのだから当然だろう。
「今、交渉中です」
「やけに慎重だな。そんなんじゃ捜査本部から外されるぞ」
ぐうの音も出ない正論だった。俺だって、一刻も早く事件の捜査にあたりたい。しかし、交渉を実現させるには時間が限られすぎていた。彼が首を縦に振ってくれる保証はない。俺の胸に、じわじわと焦燥感が募っていく。
「お疲れ様でした」
数十分後。コンビニへ車を走らせ、運転席のシートに背中を預けて腕時計を何度もチラ見しながら待った。
すると約束通り、裏口から彼が出てきた。本当に来てくれるか不安だったが、姿を見ただけでホッとする。
その反面、いよいよ逃げられないのだと腹を括ったような彼の険しい表情に、こちらも緊張が走った。彼はゆっくりと、俺の車へ近づいてくる。
「そう言えば、まだ名乗っていませんでしたね。僕は鷹岸優斗(たかぎし ゆうと)です」
ペコリと律儀に、改めて深々と頭を下げてくれた。
こんなにも真っ直ぐな相手を利用しようとしている自分が、とてつもなく情けなくなる。
庇護欲といえばいいのか、それとも後ろめたさか。自分でもよく分からない複雑な視線を彼に向けてしまう。本当にこの青年を巻き込んでいいのだろうか。躊躇いが首をもたげそうになるが、彼の目に宿る覚悟を信じたかった。
「車内で話せないか?」
「分かりました」
そう促したものの、彼の顔に不安の色が途端に濃くなり、車の前で足が止まった。いや、動けなくなってしまったのだろう。
相手の素性を知らないのはお互い様だ。応じるべきか本能的に躊躇うのは当然の行動で、誰も責められるものではない。俺は彼が次の一歩を踏み出せるのを、黙って静かに見守った。
やがて覚悟を決めたように、ゆっくりとした足取りで助手席へと回り込むのを見て、俺は内心胸をなでおろした。
「お邪魔します」
丁寧に断りを入れて助手席に座る彼を見届けてから、俺も前を見据えた。
すぐに事件の話を始めるべきか。だが、身構えた彼の硬い表情を見て思い直す。彼はあくまで一般人だ。いきなり本題を切り出せる状態ではない。
まずは彼の緊張をほぐすために、他愛のない雑談を始めることにした。最近のドラマ、好きな動物、趣味の話。
会話が進むにつれ、徐々に「話を聞かなければ」という見えないプレッシャーが消えていったようで、彼の表情が少しずつ和らいでいく。本来ならすぐに事件の概要を突きつけて協力を仰ぐこともできたが、それでは相手に負担をかけすぎてしまう。いくら捜査のためとはいえ、そんな不誠実な真似はしたくなかった。
(慎重に、距離を詰めないとダメだ)
そうやって気を遣っていたつもりだったが、俺の予想に反して、彼は思いのほか逞しかった。あえて自分から話を振り、事件の概要を聞き出してきたのだ。
(若いのに、本当に芯が強い人だな)
その行動力に驚かされながらも、俺は事件を時系列順に追って説明し始めた。
事の始まりは、母親からの「中学生の娘が帰ってこない」という一本の通報。家族関係も友人間も良好で、家出の理由は皆無。当初はただの失踪事件として捜査されていた。
しかし、公園の砂場から少女の「上体」が見つかり、後に断定。さらにドッグランの地面から「頭部」が発見された――
「それは……妙ですね」
彼の冷静な指摘に、俺はまたしても驚かされることになった。
ドッグランの人工芝の下に埋めたのは明らかな隠蔽工作だが、公園の砂場に遺棄するというのは、あまりにも杜撰すぎる。まるで見つかっても構わないと言わんばかりのいい加減さには、捜査本部の全員が違和感を抱いていた。殺害した犯人と、遺体を捨てた犯人が別人のように噛み合わない。この矛盾点に、彼は一瞬で引っかかったのだ。
「やっぱりそう思うか? 君はなかなかいい勘をしているな」
警察署内でも、意図的に隠されていた頭部は本犯、隠す意思が見られない上体は模倣犯や共犯者ではないか、という見立てで捜査していることを伝えた。
すると、何かを躊躇うような素振りを見せた後、意を決した彼が、捜査において重要度の高い部位について訊ねてきた。
「どこが見つかれば、進展しますか?」
「やっぱり……腕、か。防御創や生活反応が確認できたら、大きく動き出せる可能性がある」
俺が答えると、彼は一度俺から目を逸らし、後部座席へと視線を向けた。
バックミラー越しに見る。そこには、頭部と上体だけで宙に浮く彼女が、じっとこちらを縋るように見つめていた。彼にその異様な姿は視えないはずなのに、そこにいる彼女の「気配」を、なんとなく感じ取っているらしかった。
彼は溜め息を一つ吐き、胸の中の覚悟を閉じ込めるようにしてから、ハッキリと宣言した。
「分かりました。僕はあなたに――登坂さんに、協力します」
それは、俺たちのバディ結成が確定した、記念すべき瞬間だった。
コメント
3件
ああ、バディ結成か…すごくいい場面だったなあ。登坂刑事の「能力を利用してる」って後ろめたさと、優斗くんの真っ直ぐさの対比が胸にきた。特に「まだ名乗っていませんでしたね」って律儀に頭下げるシーン、なんかグッときたよ。車の中で雑談から距離詰めていく感じも丁寧で、2人の信頼が少しずつ芽生えてるのが伝わってきた。優斗くん、頭の回転速いし芯強いね。この先2人がどう事件を追うのか、すごく気になる🌙