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たった今、俺を襲ったのは何だ?
今のは何だ?
血の気配がある。
人が流す血。
青い足が教室に入った後、地響き(それも、体が跳ねるほどである)と、間もなく黙殺された、短くも、劈く様だった悲鳴。恐らくは、その、青い足による黙殺。
足の裏には、その気配を感じて、ジンジンと、鼓動の度に麻痺した感覚が走る。
血の気配である。
後ろは向かなかった。物が燃えて、放つ熱された空気が、生物を外側へ押し遣るように、恐怖心が、首を回すのを阻んだから。
激しく拍を打つ鼓動は、依然として弱まりを見せない。
ショックにより、視界がぼやけており、思考が無い。真っ白である。
押し並べて、パニックであった。
但、上げた顔は、視界の、目線の先に、床に横たわる白い物体を、確実に捉え懐疑的でもあった。
一旦、パニックが落ち着くと、その分の意識だけ、それに集中し、少しずつ視界の霞を戻す。
その表面に、赤色や、微かな黒色も認められた。
体が、勝手に自身の体を押し上げて、机から出、それを見に行く。
麻痺の割に、足には、血でも、瓦礫や破片でも、付いていたりなどしているわけではなかった。
「___ふん…?」
顔を、懐疑でしかめ、慎重に指を伸ばし、身をかがめて、それを、そ、っと、拾う。
…
「狐の…面…。」
面の中央に傾いて、直線で描かれた糸目と、Wの口、控えめな、逆三角形の鼻の顔。その上の左右にくっついた耳は、三角形と、窪んで、内側にもう少し小さな赤色か朱色の三角形。
額には、時計回りに描かれた、耳と同じ、赤色か、朱色かをした色の円がある。そこは、毛筆で描いたのか、書道の力強い掠れであった。
裏側は、幾らか深い、鼠色に見えた。上の方に、もっと黒い色の影が差していて。
「…。」
初めからは、無かった。今、顔を上げたのが、それを見た初めてである。
というか、___
(目の部分の穴、無いし。)
着けるなら、それが無いと只の目隠しになってしまう。
そうなると、これは飾る為だけの、芸術作品と言うことなのか。
くるりと後ろを向き、教室を見回した。
数人が、既に、机から身を起こし出している。
まだ下を見ていて、俯いていたり、頭を手で触っていたりする。
不思議な事に、人数が減り、明らかに教室が「涼しく」なっているのに、尚、先のあの、よく分からない体験があったのに、飛散る血も、横たわる者も、増してや、倒れる机や椅子、擦れ動いた机や椅子、何かが起こった何たる変化も、この教室には起こって見えなかった。
それに気づいたら、胸がザワっとして、震える息を咳いた。
何と…!?
どういうことか!?
脳は、先刻の、一度片付いていた迫り上がる恐怖を再開する様に、再び、尚、強いパニックを戻してきた。
同時に、眉が吊り上がった。
但し、細長い瞳孔の筒の穴、外側はボヤけた陽炎。その視界に入り込む、端の、ボヤけた黒色の並びは、確かに認識していた。活字の気配のみを残している、輪郭の潰れきった、黒。
何か、並んで、文字が書いてある。
何だ。
時間割か。
それの霞が晴れる間も無く、「何か」を感じて、胸が熱す。
その「何か」に、まるで、糸で引かれ、凄い勢いで、顔を右に回した。
___。
今度は、その胸のせいで、ボヤけは酷くなって、顔は見えなかった。
あの間だけ、時間が止まっていたに違いない。
一瞬の間だったことも間違いないが、まるで写真を見るように、世界が、止まっていた様な気がするから。
視界の砂のような霞の中で、どうにもそんなに存在感を放つほど。
それは青いのか。
俺は、恐怖で、再び、同じ机に、でも、今回は、自分の身体として、海豚の様に、椅子の側から潜り込んだ。あんまり急に無理やり突っ込むので、自分の下半身が、隠れ切らず、後ろに露出していた。
…
後は、一回目と同じだったと思うので、記憶に無い。
但し、これは、無意識的に、手に持っていた、その面を、顔に嵌めていた。
それに気付いたのは、全てが去った後、即ち、記憶が再開した時に、顔に触感があったから。