東京ドームの空気は重く、冷たい。ステージの上には死者のように立ち尽くすタクトの姿があった。彼の目に映るのは、かつての仲間たちの顔、そして今や無感情の観客たち。タクトの内面では、長時間をかけて積み重ねられた葛藤が激しく渦巻いていた。心の中で何かが崩れ、砕け散る音が響く。
「どうして、こんなことに…?」
タクトは呟いた。その声は、自分自身を責めるかのように、震えていた。しかし、その震えが次第に冷徹な決意に変わり、彼の顔に冷徹な表情が浮かんだ。未来が崩れ去り、信じた人々が裏切りに変わる中で、彼はただ一つの答えを見つけていた。何もかもが無駄だった。
「信じたものはすべて嘘だった」
タクトの目の前に立つのは、かつての仲間たち、サクラ、ユウキ、リョウだ。サクラは必死にその手を伸ばし、ユウキは何も言わずに静かに彼を見つめている。リョウが口を開こうとしたが、言葉が出ない。彼の目にも葛藤が浮かび、苦しみが滲んでいた。
「タクト…どうしてこんなに変わってしまったの?」
サクラの声が震えていた。一緒に夢を追い、希望を掲げた仲間に向けて、彼女は問いかける。しかし、タクトの瞳はただ冷たく、彼女の言葉を受け入れることはなかった。
「お前たちが信じたのは、ただの幻想だったんだ。」
その言葉には、サクラに対する無情さが含まれていた。彼の心の中で燃え上がる炎は、もう愛ではなく、憎しみと虚無に変わっていた。それを示すように、タクトの姿勢がますます硬直していく。
「お前たちの信じた未来、俺が壊してやる。」
その宣言が、まるで破滅への前触れのように響く。タクトは静かに、しかし確実に、サクラたちから一歩引き離し、冷徹に立ち上がる。その背中には、かつての仲間たちに対する後悔と、同時に決意が込められていた。
「タクト…お願い、目を覚まして…!」
サクラの声が高く響く。彼女の目には涙があふれ、まるで失ってしまったものを取り戻したいかのように必死だ。しかし、タクトは無言でその声を無視する。彼は、もうサクラの叫びには耳を貸すことはなかった。
「あんたが一緒にいたからこそ、俺はこうなったんだ。」
その言葉が、サクラを打ちのめす。自分がタクトを信じ、支えたことが、彼をこうしたのだと感じる。だが、どこかで彼を信じる気持ちが消えないのも事実だった。サクラの胸に痛みが走る。タクトを愛していたのに、こんな形で裏切られるなんて想像もしていなかった。
リョウはタクトを見つめたまま、唇を噛みしめる。その目の中には、何かを選ばなくてはならないという焦燥が浮かんでいた。
「タクト…お前は俺たちの希望だったんだ…それなのに、どうして…?」
リョウの声も震えていた。しかし、その声に反応することなく、タクトは冷徹に視線を外し、ただ一言、「希望?そんなもの、もう消えたよ。」と言い放つ。
その言葉がリョウの胸に突き刺さる。タクトが言う通り、もはや希望は消えたのかもしれない。だが、リョウの中にはまだ諦めきれない自分がいた。仲間として、彼を救いたい。しかし、どこかでその希望も薄れていることを自覚していた。
ユウキはただ、静かにその場に立っていた。彼は言葉を交わさなかったが、その目には苦しみと覚悟が見えた。彼の中で、タクトを取り戻したいという気持ちは、サクラやリョウよりも強い。だが、ユウキはその気持ちを声に出すことはない。ただじっと、タクトを見守り続けるしかなかった。
タクトは、ゆっくりと顔を上げると、冷たく、そして確実に言った。
「俺はもう、誰も信じない。これが俺の選んだ道だ。」
その言葉が、サクラの胸に深く刺さる。何もかもが失われたような気がする。彼が選んだ道は、もはや戻れない道だった。しかし、サクラはどうしても諦めきれなかった。最後の力を振り絞り、タクトに声をかける。
「お願い、戻ってきて…。」
だがその声も、タクトには届かない。彼は一歩前に進む。その足音が、静かなドーム内で響き渡る。
タクトは、そして「POLARIS」の灯火は消えていった。
最後にミカエルが氷塊内で微笑んだ。
「やはりな…悪魔を倒すものは悪魔にお憑かれるものだ…我も又…」
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