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「……そうか、そういう事か。」
僕はぼんやりと思い出しました。
「その『綺羅』は僕だ。僕のことだ。」
「そうだよ。」
突慳貪な言い方に不安になり顔を覗き込むと、どうにも泣きそうなのを隠そうとしているようでした。
「何も泣くことなんて無いだろう。僕は君を思い出したんだ。」
「……相変わらず馬鹿だな。」
感情を隠すために悪態をつくのも、生前から変わらぬ彼の癖でした。
「君はここに来てどれくらい経つの。」
「さあな。ここに時間なんて概念は無いんだ。無粋な質問だね。」
彼が言うには、この汽車は時間の流れに逆行して走っているらしいのです。
亡くなった人は、当時の姿がそのまま保存されて、汽車に乗っている間は変化しないそうです。
たまにやってくる生者の、それぞれが抱える時間の概念が汽車の燃料となるとも言いました。
上手くその感覚が掴めず、指を弄っていると彼はまた喋り出しました。
「なあ綺羅、俺が死んだ後優希は何か言ってたか。」
「すごく塞ぎ込んでいたよ。俺達に話してくれればよかったのにって。」
「綺羅は。何か感じたか。」
何でそんなに無意味な質問をするのかと疑問に思いましたが、その思いは無視して首を横に振りました。
「まあ知ってたよ。」
「じゃあ聞かなければ良いじゃないか。」
「本当に何も分からないんだな。……優希に謝っておいてくれ。どうしても生きるのが下手な人間はこの世にいるんだって。」
きっと僕も生きるのが下手な人間なのでしょうが、だからといって死にたいとも思わないので、どうにも頷けませんでした。
外にはこれまた見事な星が浮かんでいましたが、何も感じませんでした。