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ザー……ザー……
やむ気配もなく降り続けている土砂降りの雨の中、私は1人、校舎にぽつんと立っていた。
別に傘を忘れた訳では無い。ちゃんと紺色のシンプルな折り畳み傘がリュックに入っている。
ただ、友達を待っていたんだ。どうやら教室に筆箱を忘れたらしい。
(早く帰りたい…)
そんなことを思いながらも校舎の壁にもたれる。廊下側をちらちらと目を向けても友達が来る様子はない。
廊下は誰もおらず、ただ見えるのは静かな見切れた教室や階段だけ。
はたから見たらまるで私が傘を忘れて雨をやむまで待っているかのような状況。
そんなのただの馬鹿だ。天気予報でしっかりと午後から雨が降ると言っていたのに。そんなの、恥ずかしすぎる。
たまに遅れて帰っている様子の生徒達の目が死ぬほど痛かった。まぁ今の時間となると人は少ない。それが唯一の救済だった。
(友達め…ぜってぇ恨む…)
そんな無駄な怒りが友達に湧いてくる。
放課後、いつものように友達を待っているだけなのに今日は酷く時間が遅く感じた。
リュックを背負いながらも私は壁にもたれかかる。友達が来てないか確認をしようと中の廊下を覗き込んだ時。
「うわー…結構雨強いやん…」
背の高い男性が階段から降りてきていたんだ。咄嗟のことにすぐその廊下から目を逸らし雨が降り続けた外を見る。
「ん?あれ、1年生?帰らんの?」
まずい。声をかけられてしまった。私は少し戸惑ってしまう。まさか声をかけられるとは思ってもなかったから。
「あっ…え、えっと…その…」
予想外のあまり、言葉を詰まらせてしまう。早く言葉を返さねければ。またさらに焦ってしまう私。
「…もしかして傘忘れとんか?」
「あ、はいっ…!」
しまった。頭の中が混乱に満ちていた私は思わず彼の言葉に返事をしてしまう。
彼の言葉なんて聞いてもいなかった。混乱のあまり勝手に口が動いてしまったんだ。
私はまたもやどうしようと頭を抱える。しばらく気まずい沈黙が続いた後、開いた傘を目の前に差し出される。
透明で大きめの傘。
「えっ…?」
私は何が何だか全く分からなかった。もしかしてこの傘が落ちていて私のものだと勘違いしているのか。
「ん…。なかったら貸すで…?俺予備傘あるし。」
少し照れくさそうに、また私の前に傘を差し出す。
貸す?傘を?私に?
一瞬戸惑った私だったがすぐに理解してしまう。これは私が傘を忘れたと思っているんだ。しっかり持っているのに。
さっきの言葉は恐らく傘を忘れたかの質問だったのか。
だが今更傘を持ってることなんて言えない。忘れたと言ってしまったのだから。
「えっと、でもそんな大丈夫ですよ…!」
とりあえず遠慮するように笑顔で答える。
あはは、と軽く頭を下げた。
「あ、そう」と言ってこれでこの会話は終わるだろう。
そう思っていたのに、
「やむまで待つん?これは翌日ならんと止む様子ないけど…」
ちらっと外を見て眉を上げながらまだ声をかけてくる先輩。
知ってる。雨の降り具合を見て絶対やまないことは馬鹿でも分かる。
(恥ずかしすぎる…)
このまま雨をやむことを信じているとんでもない馬鹿を演じ続けるか、それとも素直に傘を借りて家に帰るふりをするか。
まだ傘を素直に受け取る方がマシだ。
私はこの会話が耐えられず、マシな選択肢を選ぶ。
「あ、ありがとう…ございます…」
淡々と言葉が途切れてしまう私。
(もう恥ずかしい思いをさせないでくれ…)
そう心の中で願ってそっとその傘を受け取った。
「また今度返せばええし。じゃ」
早口でそう言った後、先輩はそそくさともうひとつの傘をさして行ってしまった。
少し赤面だった先輩の顔。
(照れるのだったらそんな無理に貸さなくても良かったのに…。)
思わず私はそう呆れたように思ってしまった。
(…まぁいいや。傘はとじて友達待とう…)
私は受け取ったばかりの傘を見つめる。
するとそこにちょうど、
「お待たせぇー!ごめんごめん!なかなか筆箱見つからんくて!」
廊下に響く明るい元気な声。
そう、待っていた友達だった。
「あれ?珍しいやん〜ゆいが透明の傘なんて!」
友達が片手に持っていた傘に視線を落として不思議そうに言う。軽く「そうかな?」と軽く流した私はゲームの話を持ち出した。
(…せっかくだし使っちゃお。先輩の傘。)
透明な傘を開いて取っ手を肩にかける。前へと足を踏み出すとたくさんの水滴が透明な傘に張り付いてきた。
放課後のいつも通りの友達との会話。いつも通りの帰り道。
「でさー!私がそう言ったのにー!」
「うわ〜、その人やばいね、」
少し雨の日が好きになってしまった私のお話_