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今日、兄が死んだ。

身体が冷たくなっていて、瞼も開かない。

これが “死” なんだと、初めてわかった。


今日も花束を抱えて 川に行く。

兄はあの夏の日、川で死んだ。溺れそうになった僕を助けて。

たったひとりの優しい兄だった。

僕が泳げなかったから兄は死んだ。



「 あんたさえ居なければ。 」


僕が両親からよく言われる言葉。その意味はなんとなく分かる。

僕が居なければ “兄は生きていたのに”。 そういうことだ。

不思議と涙は出なかった。ただ目の前が真っ黒になるだけだった。




あれからだ。川がおかしくなったのは。


今日もひとりで花束を抱える。行先は あの日の川。

前から使っているサンダルの底がすり減って歩きにくい。

花束を置いて帰ろうとすると、目の前から花束が消えた。

一瞬にして、消えた。嘘じゃない。というか、そうとしか言い表せない。

僕は何を思ったのか、無我夢中で 川に飛び込んだ。

花束を追い求めてじゃない。 何故か好奇心が勝ってしまった。

吸い込まれるように 底へと行く。 泳げないはずなのに身体が軽い。

水も味方をしてくれているような、不思議な空間だった。


「 蒼太。 」


どこからか名前を呼ばれた。 川の底には誰も居るはずないのに。


「 お兄ちゃん…? 」


兄のはずなかった。でもそう考える事しか出来ない。もう兄は居ないのに。

僕のせいで死んだのに。


すると正面に少年が見える。少年といっても僕と同じくらいの年齢だ。

顔はよく見えない。 ぐちゃぐちゃと黒いマーカーのようなものが邪魔をしているから。

まだ子供だった僕にはそうとしか言い表せなかった。


ヒュッと息を飲む。

怖いという感情に支配された。なんだかこの子が、怖い。


「 おいでよ。 」


気付けば 大きな鳥居の下に居た。奥にはまたあの子がいる。

着いて行くのは駄目だと分かっているのに、何故か自然と足が進む。

駄目だ。行きたくない。 そう願っても足は止まらない。


「 いいなぁ。 」


羨まれるような事をした覚えはないけど、そう言われる。

すると、段々 辺りが暗くなる。それと共に鈴の音も聞こえてくる。

咄嗟に耳を塞ぐけど聞こえてくる。シャンシャン とゆっくり。

でもそれは全部同じペース。


夢なら早く冷めてくれ。

そう心から願った。


突然鈴の音が鳴り止んだ。願ったからだろうか なんて思ったが、

多分偶々だ。早くお母さんのところへ…

そうだ。そうだった。お母さんは僕を愛していない。

死んだ兄を溺愛していた。成績が良い兄は誰からも

期待され、尊敬されていたから。



鈴の音がなくなると、静かだった。

その静かな世界で立ち尽くす僕。

そうすると、次の瞬間 少年に抱き締められた。




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