コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
そんなにも慧君のことを想ってたんだ……
果穂ちゃんの気持ち、全然気づかなかった。
「雫さんは、慧さんのことどう思ってるんですか? 好きなんですか?」
詰め寄る果穂ちゃん。
「ご、ごめん。私、今、本当に誰が好きとかわからないの。恋はしたいと思ってる。だけど、すぐに気持ちを決めることができなくて……」
「何ですか、それ? 私より大人のくせに、好きな人が誰かわからないって……子どもでも自分が好きな人くらいわかるでしょ?」
果穂ちゃんの言葉が心に突き刺さる。
「……」
「もう、じれったい! 榊社長でも、大学生でも誰でもいい。だから早くくっついて下さい! でも、慧さんだけは……慧さんだけには……ち、近づかないで……」
すごく……切なかった。
果穂ちゃんは、ちゃんと自分で答えを出してる。
慧君のことを好きになって、しっかり恋愛と向き合って前に進んでる。
なのに、私は本当に何をやってるの?
「ご、ごめん、果穂ちゃん。私にとって慧君は、この店で知り合った大切な仲間なの。近づかないでっていうのは……ちょっと無理かな。今はそれしか言えない。本当にごめん」
私は、慌てて店の奥の控え室に駆け込んだ。
果穂ちゃんに答えることができなくて、その場から逃げてしまった自分が情けなかった。
「雫ちゃん」
その声に驚いて振り向くと、そこにはあんこさんがいた。
私の顔をただ見つめて、優しく微笑んでから、そっと抱きしめてくれた。
「あんこさん……」
ダメだ……
あんこさんの体に包み込まれた瞬間、私は、なりふり構わず大声を出して泣いてしまいたくなった。
「大丈夫、大丈夫。落ち着いて。私がついてるから」
まるで子どもをあやすかのように、背中をトントンと優しく叩いてくれ、そして言ってくれた。
「ごめんね、全部聞こえちゃったから。果穂ちゃんはね、慧君のことが好き過ぎて周りが見えないんだよ。若さゆえ……かな。果穂ちゃんの想いは本物。だから、私だってできることなら応援したい。慧君はいい子だしね。だけど、残念ながら……慧君の想いは、果穂ちゃんにはないの」
「えっ……」
私は、あんこさんから離れた。
「慧君の気持ち、私、前に聞いたことがあってね。それは、果穂ちゃんではなかった。可哀想だけどね。でも、果穂ちゃんの一途な想いはさ、私もすごいと思ってる。大事にしてあげたいし、複雑……かな。慧君の気持ちを果穂ちゃんに言うわけにもいかないしね。慧君も、なかなか自分の気持ち言わないし、本当にじれったい」
あんこさんはそう言って、さらに続けた。
「みんな、恋してる。恋するって素晴らしいこと。上手くいっても、いかなくても……必ず何かを得る。成長できる。雫ちゃんがそうだったようにね。それに、恋愛の仕方なんて人それぞれ。だから、果穂ちゃんに言われたことは気にしないで、ゆっくり焦らず、1歩ずつ前に進めばいいから」
「……あ、ありがとうございます。またあんこさんに元気もらいましたね。私、あんこさんがいないとダメみたいです。心の灯台でいてくれるあんこさんに、いつも明るく照らしてもらえて、私……本当に幸せです。これからも……よろしくお願いします」
「ドンと来い! だよ。いつでも照らしてあげるから、迷った時は灯りの見える方においで」
「情けなくて……すみません。ありがとうございます、あんこさん」
その優しさに我慢できなくて、私は……涙を止めることを諦めて、思いっきり泣いた。