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そういえば柳川、さっきもひとりでそれ、見てたっけ。
そんなに美しい見た目ではないものを何の躊躇いもなく上げた柳川に思わずそう聞いたら、「最短コースで迷路解けるとか神だろ」って笑うの。
子供の頃に図書室で読んだ本に載っていた、迷路を解くモジホコリの話が、柳川が変形菌にハマるきっかけになったのだと教えてくれた。
ん。
少しずつだけどちゃんと笑えるようになってきたね。
さっき研究棟にひとりでいた柳川の横顔を見た時は、目に光が宿ってないみたいに見えて不安だったけど……良かった。
そう思いながら彼の横顔を見つめていたら、ビールを焼酎に変えた柳川が、ポツンと言った。
「……俺さ、今日ずっと片想いしてた幼なじみにフラれたんだ」
って。
一緒に実験をしてる時なんかに、その子の可愛さとか惚気られたことがあったから、ある種の礼儀として話してくれたのかな。
「えっ!? ……あの、可愛いって言ってた後輩?」
柳川が失恋したことなんて、先刻承知だったけれど、さも知らないみたいに驚いてみせたの、わざとらしくなかったかな?
「……なんだ、鳴宮。お前、知ってて飲みに誘ってくれたんじゃねぇのか」
言われて、「……たまたまだよ」って答えながら、内心ヒヤヒヤだ。
「あの、すみませ〜ん。高砂純米スパークリングとおぼろ豆腐ください」
それを誤魔化すみたいにグラスに残っていたビールを飲み干すと、日本酒とおつまみを追加注文した。
「おい。あんま飲むなよ? 俺、今日は結構ヤケになってるし、間違いが起こらないって保証、してやれねぇからな?」
目を眇めるようにして言われて、トクンッと心臓が跳ねた。
ね、柳川、間違いってなに?
起こったら私、逆に嬉しいやつじゃない?
「お前さ、2年になってすぐ髪型とか変えただろ。それがな、ちょっと」
――今の俺にはソワソワすんだよ。
そう小声でそっぽを向くようにして付け加えられたのは、いい傾向……?
柳川の片想いの女の子を意識して、眼鏡をコンタクトに変えたのは4月の頭のことだ。
ついでに腰まで伸ばしていた黒髪も、肩下数センチで切り揃えて、暗かった髪色も明るめのオリーブベージュに染めた。
最初はあの子の真似っこからでもいい。
身長だって、私、彼女とほとんど変わらないと思う。
後ろ姿を見られた時、シルエットが似てるなって思われて。あわよくば、ちょっぴり見間違えて可愛いな……なんて思ってもらえたら最高にハッピー!
虎の威を借る狐よろしく、浅ましくもそんなことを期待してあの子の真似っこをしてみたのだけれど。
イメチェンから1ヶ月半。
柳川は何にも言ってこなかったから。
彼のそばに本家本元の子がいる間は、そんな変化になんて気付いてもらえっこないよね。
そう思って諦めていたのだけれど――。
柳川。もしかして言わなかっただけで、私がイメチェンしたこと、ちゃんと気付いてくれてたの……?
新しくテーブルに置かれたばかりの日本酒を、照れ隠しに半分以上一気に煽って。
ぎゅっとグラスを握り締めると、手元を睨むようにじっと見つめた。
「柳川。私――」
危うくお酒の力を借りて「貴方が好きなのっ」って告白しそうになって、慌てて口をつぐんだ。
――私のバカ! 傷心の柳川相手に何やらかそうとしてるの!
急遽路線変更をして、
「――思うんだけど……今更それ言ってくるとか超アウトだよっ? イメチェンしてからどんだけ経ってると思ってんのっ! 言うなら変えた直後にしなさいよね? ――じゃないと、折角気付いたのに台無しになっちゃう!」
わざとらしく柳川の肩をペシペシ叩いて、「タイミング大事よ?」と付け加える。
柳川が私の変化に気付いてくれていたこと。それを口に出してくれたこと。
本当言うとね、私、泣きたくなるぐらい嬉しい。
正直タイミングなんてどうでもいいの。
柳川が、私のこと、ちょっとは見ていてくれたんだって分かっただけで、全身の血が沸騰してしまいそうなぐらい喜んでる。
でも、それ、表に出したらダメだって思った。
ひねくれててごめんね。
「そういうところを押さえといたら女の子って喜ぶから覚えておくといいわっ。……ゆ、友人からの有難ぁ〜いアドバイスね」
柳川は一気にまくし立てた私に一瞬瞳を見開いてから、「覚えとく」って首肯した。
それを確認してから、私は握りしめたままだったグラスの中身を一気に飲み干す。
「ちょっ、お前、大丈夫か? それ日本酒だったよな? ピッチ早すぎだろ」
途端柳川が心配したように私の顔を覗き込んできて。
「ら、大丈夫よ」
柳川に見つめられた顔がぶわりと熱くなったのは、お酒のせい? それとも――?
そんな私をなおも心配そうに見つめてくる柳川の視線が痛くって。
私はそれに耐えきれなくなって、
「そっ、そろそろお開きにしよっか」
そう言って、自分から誘った会合に無理矢理終止符を打った。
***
「ありがとうございました!」という溌剌とした声を背中に受けながら、荷物を手に柳川の後をついて店外に出る。
何とか気合いでカウンターからここまで歩いたけれど、正直かなりヤバイかも。
急ピッチで飲んだ挙句、すぐ立ち上がって歩いたりしたからか、お酒が一気に回って頭がクラクラする。
そんな状態だったのもあってか、結局支払いの時、柳川にお財布を出させてもらえなくて、おごらせてしまった。
お店の外、今にも揺らめいて倒れてしまいそうになる身体を、私、両足を肩幅に開いて気力でグッと踏ん張っている。
コメント
2件
なになに、脈あり!?
うわあああ第3話もめっちゃ良かった…!!😭💕 柳川が鳴宮のイメチェンに気付いてたって分かったシーン、マジで胸がギュッてなったよ…!「今の俺にはソワソワすんだよ」って小声で言うのずるすぎるでしょ〜〜!!😇💘 好きな人にちゃんと見られてたって気付く瞬間の嬉しさ、描写がリアルすぎてこっちまで泣きそうになった。でも傷心中の相手に告白しそうになって慌てて路線変更する鳴宮の健気さ…好きすぎる…!次の展開が気になりすぎて叫びたいレベルです🔥🔥
鷹槻れん

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