テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
164
#近未来
雨鏡光
9
芙月みひろ
118
世羅 鈴🎨🎤
79,135
誰も知らない、不思議な不思議な喫茶店。
そこに待つのは温かいコーヒーの香ばしい香りと、古い書物特有の香り。
店に入れば、たちまち本に導かれるでしょう。
午前八時前、オフィスの中では重苦しい空気に社員がキーボードを打つ音だけが響いていた。
奥の個室のドアが勢いよく開いた。黒いスーツを隙なく着こなし、鋭い目つきの部長の小澤が現れ、革靴の音が一定のリズムでフロアに響き渡る。その音に社員たちは一斉に背筋を伸ばして息を潜める。
小澤は無言のまま資料をめくり、運悪く私のデスクの前で足を止めた。
腕時計をちらりと見て、小さくため息をついた彼の眉間には深いしわが寄っている。
「金井、昨日の報告書」
彼は私の机の上に一枚の資料を広げて指で二度軽く叩いた。
「数字の整合性が取れていない。ここと、ここ。」
赤ペンで二か所に印を付ける。ペン先が紙を叩く音だけが静かに響く。
「確認はしたのか?」
したと言っても怒られ、黙っていても怒られる。それはこのブラック企業に入社してから学んだことだ。私が話そうと口を開くと、私の言葉を聞くよりも先に彼は無理やり話を進める。
「『たぶん合っている』じゃ仕事にならない。クライアントに提出したあとで間違いが見つかったら、誰が責任を取る?」
―またこれか。
ふと、周囲の社員たちに視線を戻せば画面を見つめたまま、聞こえないふりをしている。
「今日中に修正版を作れ。それから午後の会議資料も、お前が担当だ。」
「…はい。」
小澤は資料を適当に投げ渡して奥の部屋に戻っていった。
ため息をついて自分の時計を見ると定時だった。それを見てふっと笑う。
―定時に帰れたことなんてない。
仮眠室に目をやるとドアが少し開いていた。
中ではスーツ姿の社員が毛布をかぶって眠っている。
もはやご丁寧に帰らせる気もないのか仮眠室なんかがある。あの中に寝泊まりしている社員は何人いるやら。
結局、定時を超えて帰ることができた。これなら何とか終電に間に合うだろう。
電車の時刻表を調べようとポケットのスマホを開けば仕事の連絡が山積みになっていた。
通知は三十八件。
画面を開いた瞬間、胸が重くなる。
SNSのアイコンより先に、社内チャットの赤い数字だけが目に飛び込んだ。
さすがの私も履歴書のサイトを開いたこともある。
だがその翌日には休日出勤が決まっていた。
仕事は今日やらなくてもいいだろう。流石に溜まった洗濯物と洗い物、ついでに私の疲労なんかも何とかしなければならないからだ。
―言い訳はやめろ。
いつかの小澤の声が脳内に響いて腹立たしかった。
会社を出て駅に向かうとちょうど電車が来たところで電車がホームに入っていくのが見えた。でもここから走って間に合うかどうかという距離に私はいた。それでもこれを逃せば帰れないと思い、28歳という歳にして久しぶりに全力疾走をした。
長い髪を揺らし、靴が脱げそうなのもお構い無しに走る姿はあまりにも惨めだ。
「っ…はぁ…クソッ。」
当たり前だが運動音痴の大人が全力疾走したところで乗れるわけがなかった。
私は乱暴に髪をかきあげてスマホのアプリでマップを開き、近くにあるホテルかなんかに泊まれたらいいが…。
近くにあるホテルを片っ端から調べて予約を確認していく。案の定、なかなかホテルは空いていなかった。
―満室
―満室
―満室
―空室 一部屋
私は奇跡的にホテルが空いていたのを見つけて直ぐに予約をした。
ため息と苛立ち混じりにホテルに向かう途中、唯一電気のついている喫茶店があることに気づいた。
寝るところは確保できても食べ物はあまり考えてなかった。コンビニでも行って賄えばいいと思っていた私にとっては好都合だった。
その喫茶店は、まるで街がひとつ秘密を抱え込むために残しておいた場所だった。
駅前の喧騒から一本路地を折れ、石畳をしばらく歩いた先。蔦に覆われた煉瓦造りの建物が、季節を忘れたように静かに佇んでいる。
古びた木製の扉には、何度も人の手に触れられてきた艶があり、小さな真鍮の取っ手だけが月の光を受けて柔らかく輝いていた。窓越しには、琥珀色の灯りがゆらゆらと揺れ、本棚の影がまるで森の木々のように幾重にも重なっている。
店先に掲げられた看板には、木彫りのプレートで店の名と、下に貼ってある紙にはこう添えられていた。
Codex(コーデックス)
―この店では、あなた自身が本を選ぶことはできません。あなたに読むべき一冊は、店主がお渡しします。どうか、本との出会いをお楽しみください。
風が吹くたび、軒先に吊るされた真鍮のベルが澄んだ音をひとつ鳴らす。その音は不思議と人を急かさず、むしろ「ゆっくりでいい」と語りかけるようだった。
道行く人の多くは、その店に気づかない。けれど、何かを失くした日や、言葉にならない寂しさを抱えた日だけは、不思議とその扉が目に留まる。まるで店のほうが、人を選んでいるかのように。
「不思議な店だ。」
私は一人で静かにそう呟いて店の扉を開けた。
真鍮の取っ手を押すと、小さなベルが一度だけ澄んだ音を鳴らす。
その音は、客を迎えるというより、静寂へ招き入れる合図のようだった。
店内には、深煎りの珈琲と古い紙が混ざり合った、どこか懐かしい香りが満ちている。
壁は床から天井まで届く本棚に覆われていて、文庫本や洋書、革張りの古書、詩集、画集、辞書。規則正しく並んでいるようでいて、よく見ると秩序は見えない。
不思議なことに、雑然としているはずなのに、一冊たりとも居場所を間違えているようには思えなかった。
天井から吊るされた真鍮の照明は薄く灯り、琥珀色の光が木目の床へ静かに落ちている。
窓際には、季節ごとに違う花が一輪だけ活けられ、小さな砂時計がゆっくりと時を落としていた。
店内に流れる音楽はなく、ページをめくる音やカップをソーサーへ置く音、珈琲が静かに滴る音だけ。まるで、この店では「音」までもが読書の邪魔にならないよう選ばれているかのようだった。
中央には、年季の入った大きな樫の机。その上には万年筆とインク瓶、それから読みかけの本が一冊だけ置かれている。
その席に、一人の男が座っていた。
肩まで伸びた黒髪は、ところどころ銀色を帯び、無造作に後ろで一つに束ねられている。白いシャツの袖を二度折り返し、黒いベストを羽織る姿は、作家というより古い映画の登場人物のようだった。細縁の眼鏡の奥にある瞳は驚くほど静かで、誰かを見つめるというより、その人の奥にある何かを読んでいるように見える。
その姿は長い年月を本とともに過ごしてきた者だけが持つ、穏やかな静けさがあった。
彼は顔を上げ、私の姿を見る。
それだけで、何かを決めたように一冊の本を本棚から抜き取った。
「ようこそ、Codexへ。」
低く落ち着いた声が、店内の静寂に溶けていく。
「……今日は、この一冊から始めましょう。」
彼は本を差し出した。まるで、その一冊が、ずっと前から私を待っていたかのように。
「…どうも。」
私は動揺していたせいか明らかに言葉を間違えた上に間抜けな声が出た。
それに対して店主らしき人物は少しだけ微笑んで席とコーヒーを勧めてくれた。
席に座って私はその本を開くと、新しい紙にはない、陽だまりと木の香りがほのかに漂う。
青の匂いがとてつもなく懐かしく感じた。
―本なんていつぶりに開くだろうか。
もともと本は好きだったが社会人になってからは本を読む余裕すらなくなっていた。
文庫よりひと回り大きな上製本。手に収まる厚みで、表紙は布張りのような深い藍色をしている。光の加減で夜空にも群青にも見え、その質感は指先が吸いつくほど滑らかだった。帯はなく、余計な紹介文もないが、表紙の中央に銀の箔押しで、小さくこう記されている。
『明日行きの切符』
文字は決して主張せず、雨上がりの線路を照らす月明かりのように、静かに光を宿していた。
表紙には、一本の細い線が銀で描かれていて、それはどこまでも続く一本の線路だった。
その先には、小さな駅舎がひとつ。
煙も人影もない。
それでも、その駅には「誰かを待っている」温もりがあった。
『明日行きの切符』
窓の外では、名前も知らない駅がゆっくりと後ろへ流れていく。ホームには、学生服の少年が一人、自転車を押した老人が一人、それから赤い傘を差した女性が一人。列車は止まることなく通り過ぎる。それでも、その一瞬だけ交わった景色は、なぜか忘れられないものになる。
向かいの席で眠る老人は、切符を指先でそっと撫でながら、小さく笑った。
「人生も列車も、予定どおりに着くことなんて、そうそうない」
その独り言が、車輪の音に溶けていくなかで、私は窓ガラスに映る自分の顔を見つめた。
疲れていると思った。
昨日の自分よりも、ずっと。
明日の自分よりも、きっと。
鞄には辞表が入っている。
それを会社へ出すために持ってきたのか、それとも出さない理由を探すために持ってきたのか、自分でも分からなかった。
列車は、ゆるやかなカーブを曲がる。
すると、水平線の向こうから朝日が昇り始めた。
夜は、誰にも気づかれないほど静かに終わる。
朝もまた、大きな音を立てて始まるわけではない。
だから人は、昨日と今日の境目を見失う。
隣に座っていた車掌が、切符に小さな鋏を入れながら言った。
「終点まで行く必要はありませんよ。」
私は顔を上げる。
「降りたい駅で降りればいいんです。」
その言葉だけが、不思議なくらい胸に残った。
人生にも、途中下車という選択肢があったのだと、そのとき初めて知った。
「途中下車…か。」
私は少し笑ってぼそっと呟いた。
―私にも途中下車という選択肢はあるのかもしれない。
\\そう本を読んで、自分も主人公と同じように感じて不思議な気持ちだったが、心がどこか清々しく晴れたような感覚がした。
コーヒーを飲んでいて少し小腹がすいてきた。きっと、この本が心機一転させ、心を晴らしてくれたおかげがあるのだろう。
私はメニューを取ってフードの見開きページを見る。どの料理もおしゃれな名前になっていて言葉一つ一つが美しかった。
その中で私の目に止まったのは頁(ページ)のクロックムッシュだった。
メニューにはこう書かれていた。
頁(ページ)のクロックムッシュ
香ばしく焼き上げたパンに、とろけるチーズと自家製ベシャメルソースで次の一章へ進む前に。
「ご注文は。」
気づくとすでに後ろに店主が待ち構えていた。
「……じゃあ、この『頁(ページ)のクロックムッシュ』を。」
私がメニューを閉じると、店主は静かに頷いた。
「かしこまりました。」
それだけ言い残し、カウンターの奥の厨房へと姿を消す。
やがて、小さな厨房から包丁がまな板を叩く、控えめな音が聞こえてくる。
店主は真っ白な皿を一枚取り出すと、木箱から厚切りの食パンを二枚選び、指先でそっと弾力を確かめた。
ハムを一枚。
その上へ、丁寧に削られたチーズを重ねる。
鍋では、ベシャメルソースが木べらでゆっくりとかき混ぜられていた。
焦らず、急がず。だからこそ食欲をそそる。
まるで一文を書く速度を測るような、一定のリズムで。
店主は火加減をほんのわずかに弱めると、白いソースをパン全体へ均一に広げる。
端まで、余すことなく。
どこを切り取っても同じ味になるように。
最後にチーズをもう一枚。
オーブンの扉を開ける。
熱気がふわりと立ちのぼり、バターと小麦、それから焼け始めたチーズの香ばしい香りが店内へ静かに溶けていった。
店主はタイマーを使わない。
焼き色を見て、音を聞き、香りを確かめる。
長年積み重ねた感覚だけが、焼き上がりを教えてくれる。
数分後。
こんがりと狐色に焼けたクロックムッシュを取り出すと、表面で小さく泡立つチーズが琥珀色の灯りを映していた。
包丁を入れると、さくり、と軽やかな音が鳴る。
続いて、とろりと溶けたチーズが静かに糸を引いた。
店主はそれを白い皿へ盛り付け、脇に彩り程度の小さなサラダを添える。
飾り立てることはしない。
必要なものだけを、必要な場所へ。
それが、この店の流儀だった。
湯気の立つ皿を女性の前へ置き、店主は穏やかな声で言う。
「『頁(ページ)のクロックムッシュ』です。」
そして店主は小さく微笑み、メニューに添えられていた一文を、そのまま口にした。
「次の一章へ進む前に。」
その言葉は料理の説明ではなく、どこか私自身へ向けられたもののように聞こえた。
店主は私に料理を出し終えると、何事もなかったかのように読書に戻った。
視線を目の前のクロックムッシュに戻すと、見れば見るほどお腹が空いてきた。
「いただきます。」
私はナイフとフォークを使ってパンを一口サイズに切り出して口に頬張る。
ベシャメルソースのシルクのような滑らかな口当たりと塩とこしょうの塩気が合わさった上品でクリーミーな優しい味が口の中に広がり、今度はクロックムッシュだけを口に入れると、濃厚なバターの風味が口の中を満たしていった。
気づくと皿の中身は空になり、パンも跡形もなく消えた。
食べ終わってしばらくした頃、私は席を立って会計をする。
「ありがとうございました。」
私は店主が言うよりも先に頭を下げてそう伝えた。
「私も新しい路線を走ろうかなって思います。」
顔を上げると店主は微笑んでいてそっと私の手に一冊の本を載せた。
「それはなによりです。その本はあなたに差し上げますよ。」
本の表紙を見るとさっきとは違う本で、有名な人気作家の作品だった。
その作家は3年に一度ぐらいしか出版しないのに絶大な人気を誇る不思議な作家だ。
―This book chose you.(この本があなたを選んだ。)冬月 透
映画化も何回もされた有名作品だった。
たしか、主人公が不思議に喫茶店に迷い込み、そこの店主が一冊の本を選んで読ませてくれる。本を読んだ主人公はやる気を取り戻して大きく成長するというもの…。
「…まさか。」
そこまで私が言いかけると、店主は人差し指を自身の口元に置いて微笑んだ。
その様子を見て、私は息を飲んだ。
まさか予想が当たるとは思っても見なかった。
「明日からは新しいあなたで、新しいあなたの物語を思い描いてください。」
店主はそう言ってお辞儀をした。
「ご来店、ありがとうございました。」
そんな不思議な出来事があって数日後、私は覚悟を決めた。
午後10時48分。フロアには蛍光灯だけが白々しく灯っている。窓の外は真っ暗だ。冷めきったコーヒーの紙コップがいくつも机に並び、誰も「帰ります」とは言わない。
コピー機の音だけが規則的に響く。
私は静かに立ち上がる。椅子が床を擦る音に、数人の社員が一瞬だけ視線を向けるが、すぐに画面へ戻る。その目には「やめろ」という無言の警告が浮かんでいる。
私はバッグを肩に掛け、小澤のデスクへ歩み寄る。
「……部長。」
小澤はノートパソコンから目を離さない。キーボードを打つ指だけが動き続ける。
「何だ。」
「ここを辞めることにしました。」
その一言で、キーボードの音が止まる。
小澤はゆっくりと顔を上げるが表情は変わらない。ただ、その目だけが鋭く細められた。
「……今、何と言った。」
フロア全体に緊張が走る。誰かが息をのむ。
小澤は静かに立ち上がる。椅子が低い音を立てて後ろへ滑る。
私の前まで歩いてくると、逃げ道を塞ぐように立ち止まった。怒鳴らない。その静けさが、かえって重苦しい。
「辞める?」
鼻で笑う。
「お前、自分が抱えている案件をいくつ持っているか分かっているのか。」
机の上のファイルを指で叩く。
「取引先への対応。来月のプレゼン。新人教育。」
一つずつ数えながら、私を見据える。
「それを全部放り出して、『辞めます』の一言で終わると思っているのか。」
少し身を乗り出す。声は低く、抑えられている。
「社会は学校じゃない。」
周囲の社員は誰一人として口を開かない。視線だけが私と小澤の間を行き来している。
「辞めたいなら辞めればいい。」
一拍置く。
「……だが、その責任を全部背負う覚悟があるならな。」
小澤は腕を組み、私の返答を待つ。オフィスの時計だけが、カチ、カチ、と静かに時を刻んでいる。
「問題ありません。」
私はバッグの中から資料を取り出して小澤のデスクに置く。
「取引先の対応資料とプレゼン資料と原稿、新人教育やり方と新人の取扱説明書です。」
小澤はその資料を一つ一つ時間をかけて見つめていた。その顔は驚愕していた。
―ざまぁみろ。
私はずっとこの時のためにあの日以来ここで小澤に見せた資料を作っていた。まさか自分が進んであの仮眠室を使うとは思っても見なかったがな。
私は驚愕する小澤を置いて部屋を出ようとする。
「あ、そうそう。小澤さん、人生は途中下車できるんですよ。私は途中下車します。そして新しい路線を走ります。」
私はそう言い残して振り返ることなく部屋を出た。
一人残された小澤はその言葉が妙に胸の奥深くに刺さったような感覚がした。
「人生の途中下車か…。」
小澤は重い体を椅子から剥がして窓の外を眺める。高層ビルの向こう側には青空が広がっていた。
―この会社では終点まで乗り続けることを学んだが…。
「ふっ…あいつは違うみたいだな。」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
その日、小澤は初めて、自分のデスクの引き出しにしまい込んでいた有給休暇申請書の束へ目を向けた。
私はこうして人生の途中下車を果たした。
真新しい自分の路線を走って、新しい終点を目指して。
私が転職した先は小さな書店だった。本当ならばあの人生を変えるきっかけとなったあの喫茶店が良かったのだが、あの店はあれ以来見たことがなかった。
「あら。金井さん、またその本を読んでいるのね。好きよねその本。」
書店の可愛らしい店主が声をかけてくれた。
前の会社の上司とは打って変わり、とても面倒見のよい、愛嬌のある老婆だった。
「この本をくださった人がここに来る、人生を変えるきっかけをくれたんです。」
私は最後のページを開いて万年筆で書かれた文字をそっと撫でる。
――この本が、あなたを選びました。次は、あなたが明日を選ぶ番です。
冬月 透
店主は優しい口調でこう続けた。
「その本はあなたの運命の本かもね。」
その言葉に思わず笑ってしまった。
まるで、運命の人とでも言わんばかりにあっさりと言われたからだ。
「そうですね。この本を読んで気づいたことがあります。」
店主は興味深そうに頬杖をついた。
「何に気づいたんだい?」
私は開いた本を胸に抱いた。
「私自身の物語を書き続けたいと。」
私は笑いながら彼女にそう返した。
不思議な不思議な喫茶店。
そこに待つのは温かいコーヒーの香ばしい香りと、古い書物特有の香り。
店に入れば、たちまち本に導かれるでしょう。
―そして、あなたもまた、一冊の書物なのだから。
コメント
1件
読了しました……。 最初のブラック企業の描写、すごくリアルで胸がぎゅっとなった。終電逃して全力疾走するシーン、なんかもう、わかるなって。 でも、そこから「Codex」っていう不思議な喫茶店に出会って、『明日行きの切符』を手にする流れ、すごく好き。“途中下車”っていう選択肢、自分にもあるよって教えてくれるみたいだった。 最後に小澤さんが有給申請書に目を向けるとこ、じんわりきた…。 あたたかくて、少し切なくて、でも前を向けるお話。いいエピソードをありがとうございます。