鋼の騎士と星霜の瞳

📖第四章：ハンジの確信犯（続き）

イリスの心臓が激しく脈打った。

（窓枠……なぜ、窓枠を？）

ハンジ：「いいかい、イリス。窓枠っていうのはね、外の世界と内側の世界を分ける境界線だ。リヴァイは、あの場所を常に**『完璧な透明性』に保っている。そこが汚れていると、彼は世界を歪んで見てしまうような気がするんだよ。彼の『魂の衛生状態』**を維持している、神聖な場所だと思えばいい」

ハンジは最後に、楽しそうな微笑みを残して自分の作業に戻った。

イリスは、その日の残りの時間を、ハンジにもらった「完璧な紅茶の淹れ方」のメモを、まるで重要な軍事機密のように熟読することに費やした。メモには、茶葉の選定から、水を入れるやかんの素材、カップの内側のミクロの曇りひとつを許さない磨き方に至るまで、徹底したこだわりが記されていた。

（これは…ただの紅茶ではない。これは、リヴァイ兵長の「理想の世界」の具現化だ…！）

🌙深夜の決行

その夜、イリスは眠りにつくことができなかった。訓練兵時代に培った彼女の「完璧主義」の気質が、この新たな「任務」に火をつけたのだ。

「最高の衛生状態…」

彼女は、兵舎の支給品の中から、最も清潔な布と、わずかながら残っていた上等な石鹸の切れ端を取り出した。そして、リヴァイの執務室へと向かった。

リヴァイの部屋は、廊下の突き当たりにあった。当然ながら、施錠はされていなかった。リヴァイは、誰かが許可なく入ってくることなど、考えもしない。なぜなら、彼の厳格な規律の前では、そんな愚かな行動をする人間はいないからだ。

イリスは静かにドアを開けた。月明かりが差し込む執務室は、昼間以上に静謐で、張り詰めた空気が漂っていた。すべてのものが、定位置に、ミリ単位の狂いもなく置かれている。まるで、時間が止まった箱庭のようだった。

彼女は、物音を立てないように、まるで忍びのように移動した。そして、部屋の奥、月光を一身に浴びている**「窓枠」**へとたどり着いた。

リヴァイの魂の聖域。

イリスは息を詰めた。窓枠は、既に誰の目から見ても完璧に磨き上げられていた。しかし、イリスはハンジのメモと、リヴァイの「冷酷な優しさ」を思い出す。

（兵長が本当に求める「衛生」とは、目に見える埃ではない。**「見過ごされる可能性のある、微細な不完全さ」**だ！）

彼女は支給の布を取り出し、窓枠の隅、特に窓のサッシが交わる、指で撫でても気づかないようなわずかな溝に、全神経を集中させた。

その時………