テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ワゴン車は、城へ向かって走り始めた。
運転席には佐久間。
助手席には地図を持った康二。
後部座席には、パステルカラーのドレスを着た阿部、深澤、渡辺。
「次の道、右やで!」
「了解!」
「佐久間、飛ばしすぎんなよ。」
渡辺が後ろから声を掛ける。
「大丈夫大丈夫!」
「その言葉が一番怖いんだけど。」
阿部は窓の外を見る。
遠くにあった城が、少しずつ大きくなってきていた。
(本当に舞踏会行くんだ……。)
未だに実感が湧かない。
そもそも。
シンデレラが三人いる時点で、知っている物語とはかなり違う。
そんなことを考えていると。
「ねえ。」
突然、隣から声がした。
「時間ないから、ガラスの靴ここで出すね。」
「……。」
阿部はゆっくり声のした方を見る。
「……え?」
そこには。
ラウールが座っていた。
「……。」
「……。」
「……。」
数秒。
車内が完全に静まり返る。
渡辺が口を開いた。
「なんでいるの?」
「何が?」
ラウールはきょとんとしている。
深澤が窓の外を指差す。
「いや。」
「お前さっき、庭で手振ってたじゃん。」
「うん。」
「いってらっしゃーいって。」
「言ったね。」
「俺ら全員見てたよ?」
阿部も頷く。
「見た。」
佐久間までルームミラー越しにラウールを見る。
「俺も見た!」
康二も振り返る。
「俺も!」
五人から見つめられても、ラウールは平然としていた。
「魔法使いだから。」
「説明になってない。」
渡辺が即答する。
「細かいこと気にしない方がいいよ。」
ラウールは楽しそうに笑った。
「夢なんだから。」
「……。」
阿部が固まる。
「今なんて言った?」
「はい、靴出しまーす。」
「誤魔化した!」
ラウールが杖を振る。
眩しい光とともに、三人の足元へ透明な靴が現れた。
「ガラスの靴!」
佐久間が運転しながら興奮する。
「前見て!」
渡辺が怒鳴る。
阿部は恐る恐る一足手に取った。
本当に透明だった。
光を受けて、きらきらと輝いている。
「綺麗……。」
深澤も感心する。
「これ本当に履けるの?」
「履けるよ。」
「痛くない?」
「魔法だから大丈夫。」
「便利だね、魔法。」
渡辺も靴を眺める。
「これで踊るの?」
「そう。」
ラウールは当然のように頷く。
「三人ともちゃんと履いてね。」
阿部はガラスの靴を見つめながら、ふとシンデレラの結末を思い出した。
「ねえ、ラウール。」
「うん。」
「帰る時さ。」
阿部は靴を一足持ち上げる。
「物語みたいに、片方だけ落としていった方がいいの?」
ラウールは一瞬考える。
そして笑った。
「両方落とした方がいいよ。」
「両方?」
「うん。」
「なんで?」
「だって。」
ラウールは三人の長いドレスを指差す。
「十二時になったら走るでしょ?」
「うん。」
「ガラスの靴で走れる?」
三人は靴を見る。
「……。」
「……。」
「……。」
確かに。
ラウールは笑いながら続けた。
「両方落とさないと走れないよ。」
深澤が吹き出す。
「確かに!」
渡辺も笑う。
「現実的すぎんだろ。」
阿部は納得しかけて、首を傾げる。
「でも。」
「両方脱いだら、王子様はどうやって探すの?」
「二足あるから大丈夫じゃない?」
「そういう問題?」
「三人いるし。」
「そうだった。」
そもそもガラスの靴が三人分ある。
「じゃあ六足落ちるってこと?」
深澤が言う。
「舞踏会の階段に?」
「うん。」
「邪魔じゃない?」
渡辺が真顔で答える。
「絶対誰か転ぶ。」
車内に笑い声が響く。
ラウールだけは満足そうだった。
「まあ。」
「その時になったら考えればいいよ。」
「適当だなぁ。」
阿部は笑いながらガラスの靴を履く。
不思議なくらい、足にぴったりだった。
深澤も。
渡辺も。
それぞれ靴を履く。
「似合ってる!」
佐久間がルームミラー越しに叫ぶ。
「だから前見ろって!」
「翔太、心配性!」
騒がしい車内。
三人のシンデレラ。
元ネズミの佐久間と康二。
どこからともなく車へ乗り込んでいた魔法使いのラウール。
阿部は笑いながら、もう一度窓の外を見る。
城は、もうすぐそこまで迫っていた。
(王子様。)
(誰なんだろう。)
残っているメンバーを考える。
そして。
なんとなく予想がついた。
阿部は小さく笑う。
ワゴン車はそのまま、舞踏会が開かれる城へ向かって走っていった。
___________
ワゴン車は、どうにか無事に城へ辿り着いた。
「着いたよー!」
佐久間が車を停める。
阿部たちは車から降り、目の前にそびえる城を見上げた。
「すご……。」
間近で見ると、想像していた以上に大きい。
明かりの灯った窓。
豪華な装飾。
遠くから音楽も聞こえてくる。
いよいよ本当に舞踏会らしい。
しかし。
「……待って。」
渡辺の声に全員が振り向く。
渡辺は城ではなく、その手前を見ていた。
「これ登るの?」
目の前には、城の入口まで続く長い階段。
かなりの段数がある。
阿部も見上げる。
「……長いね。」
深澤もドレスの裾を持ち上げる。
「普通の靴でも嫌なんだけど。」
そして三人揃って、自分たちの足元を見る。
ガラスの靴。
渡辺は数秒考えたあと、しゃがみ込んだ。
「俺もうこれ置いていく。」
「早いって。」
阿部が笑う。
「まだ舞踏会始まってもないよ。」
「無理。」
渡辺は本気でガラスの靴を脱ごうとしている。
「これであの階段登ったら、城入る前に足終わる。」
「ラウール、普通の靴出して。」
深澤も便乗する。
「俺もスニーカーがいい。」
「ドレスにスニーカー?」
「誰も足元なんて見ないって。」
すると。
後ろでラウールが不思議そうな顔をした。
「え?」
「なんで普通に登ろうとしてるの?」
三人が振り返る。
「……え?」
ラウールは佐久間と康二、それから自分を順番に指差した。
「男が三人いるんだよ?」
「……。」
「……。」
「……。」
嫌な予感がした。
ラウールは満面の笑みを浮かべる。
「俺たちがお姫様抱っこで運んであげるね。」
「は?」
渡辺の声が城の前に響いた。
「待って待って待って。」
深澤も慌てる。
佐久間は一気に楽しそうな顔になった。
「いいじゃん!」
康二も笑う。
「ほんまにシンデレラみたいやん!」
「絶対嫌なんだけど。」
渡辺だけは本気で後退していた。
ラウールはそんな三人を無視して見比べる。
「じゃあ誰にしようかな。」
そして。
「あ。」
嬉しそうに阿部を見る。
「俺、あべちゃんがいい。」
「俺?」
「うん。」
ラウールが迷わず近付いてくる。
阿部は自分とラウールの身長差を見る。
確かに。
この中なら一番安定しそうではある。
「……分かった。」
阿部は諦めた。
「でも。」
「絶対落とさないでね。」
「大丈夫だよ。」
ラウールは笑顔で答える。
「魔法であべちゃん軽くするから。」
「……。」
阿部は一瞬固まった。
(魔法で軽くできるんだ。)
ラウールが杖を振る。
ふわっと体が軽くなるような、不思議な感覚がした。
「はい。」
次の瞬間。
阿部の体が簡単に持ち上がる。
「うわっ。」
反射的にラウールの首へ腕を回す。
「ほら、軽い。」
ラウールは得意そうに笑った。
確かに全く危なげがない。
「すごいね。」
「でしょ?」
阿部も感心する。
でも。
階段を登り始めたラウールの腕の中で、ふと思った。
(……待って。)
(魔法で軽くできるなら。)
ラウールを見る。
杖を見る。
長い階段を見る。
(俺たちを魔法で上まで運べばいいのでは?)
もっと言えば。
(ワゴン車もいらなかったのでは?)
しかし。
楽しそうに自分を運んでいるラウールを見ると、何となく言わない方がいい気がした。
阿部は黙っておくことにした。
___________
「じゃあ俺、ふっか!」
佐久間が元気よく深澤へ近付く。
「え、ちょっと待って。」
「大丈夫!」
「何が?」
「俺、力あるから!」
「そういう問題じゃ――」
「よいしょ!」
「うわっ!」
佐久間は深澤を抱き上げる。
「おお!」
「ちょ、佐久間!」
「軽い軽い!」
「ラウール! 俺にも魔法かけた!?」
「かけたよー!」
「いつ!?」
階段に深澤の声が響く。
そして。
最後に残された渡辺。
「……。」
「……。」
康二と目が合う。
渡辺は静かに首を横へ振った。
「嫌だ。」
「まだ何も言ってへんやん。」
「絶対嫌。」
「しょっぴー。」
「自分で歩く。」
渡辺はガラスの靴のまま階段へ足を掛ける。
康二が追いかける。
「待ってや!」
「嫌だ。」
「俺もしょっぴーお姫様抱っこしたい!」
「なんでだよ!」
「一人だけ歩いたら仲間外れみたいやん!」
「意味分かんねぇよ!」
少し先から佐久間が振り返る。
「翔太ー! 早く康二に運んでもらえよー!」
「うるせぇ!」
ラウールも阿部を抱えたまま振り返る。
「しょっぴー、時間ないよ。」
「お前が魔法で運べよ!」
渡辺のもっともな叫びが響いた。
阿部は思わず吹き出す。
(やっぱり。)
(翔太も同じこと思ってた。)
結局。
階段を数段登ったところで、渡辺はガラスの靴に耐えられなくなった。
「……康二。」
「ん?」
「絶対落とすなよ。」
康二の顔が一気に明るくなる。
「任せて!」
「あと変なことしたら殴る。」
「お姫様そんなこと言わへんで。」
「誰がお姫様だよ。」
康二も渡辺を抱き上げる。
こうして。
ラウールの腕には阿部。
佐久間の腕には深澤。
康二の腕には渡辺。
三人のシンデレラは、自分の足を使うことなく長い階段を登っていくことになった。
城から聞こえる優雅な音楽とは対照的に。
「佐久間、揺らすなって!」
「康二、怖い!」
「しょっぴー、暴れたら危ないって!」
「ラウール、本当に落とさないでね。」
「大丈夫だって!」
階段は、とにかく騒がしかった。
阿部はラウールの腕の中から、だんだん近付いてくる城の入口を見上げる。
(シンデレラって。)
(こんなに体力使う話だったっけ。)
そんなことを考えながら。
三人はようやく、舞踏会が待つ城へと運ばれていった。
___________
長い階段を登り切り、ようやく城の入口へ辿り着いた。
「はい、到着。」
ラウールが阿部をゆっくり地面へ下ろす。
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
佐久間も深澤を優しく下ろした。
「ふっか、無事?」
「無事だけど、普通に恥ずかしかった。」
「俺は楽しかった!」
「だろうね。」
少し離れたところでは、康二が渡辺を下ろしている。
「しょっぴー、どうやった?」
「もうやだ。」
「えー。」
三人はドレスの裾を整える。
目の前には大きな扉。
その向こうからは優雅な音楽と、大勢の人が話す声が聞こえていた。
「じゃあ。」
ラウールが三人を見る。
「ここから王子様探してね。」
阿部が首を傾げる。
「探すの?」
「うん。」
「向こうから来てくれないの?」
「来ない。」
ラウールは笑顔で言い切った。
「王子様は、探さないと出てこない仕様だから。」
「仕様って言うなよ。」
渡辺が呆れる。
深澤が小さく笑った。
「まあ。」
「誰なのかは大体分かるけどね。」
「ね。」
阿部も頷く。
残っているメンバーを考えれば、ほとんど答えは出ていた。
深澤は少し照れくさそうに笑う。
「じゃあ俺、行ってくる。」
渡辺もため息をつきながら歩き出した。
「早く見つけて帰ろ。」
「俺も探してくる。」
阿部も二人とは違う方向へ向かう。
「頑張ってねー!」
後ろからラウールの楽しそうな声が聞こえた。
#AI
#⛄️
kaede🍁
102,331
NIKITA
85
kaede🍁
4,220
コメント
1件
あー、めっちゃ良かった!笑 三人のシンデレラ設定がまず面白いし、ラウールの「魔法だから」「両方落とせ」のノリが最高すぎるw 「魔法で軽くできるなら最初から運べよ」って阿部がツッコまなかったの、分かるけど笑った。 お姫様抱っこで階段登るシンデレラ、絶対見たことないわ。 王子様探し、誰に当たるのか気になる!次話も楽しみにしてる🔥