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「……さっきの、マジで盛ったの?」
レストランを出て、2人は再びパーク内を歩き始めた。
晴れた昼下がりの空の下、周囲には笑顔と笑い声が溢れている。
その中で、二宮だけが少しだけ、額に汗を滲ませていた。
「盛ったって言い方、ひどくないですか?……ちょっと、試しただけです」
「試した、ね……お前な」
「今、体熱くないですか?」
「……うるさい」
あえて何も否定しなかった時点で、もう確信に変わっていた。
(ちゃんと効いてる)
心の中で、元貴は小さく笑う。
媚薬の効果は“じわじわ型”。
即効性はないが、確実に身体の内側から火照りを誘い、感覚が過敏になっていく。
歩くたびに擦れる服の感触、
風が首元を撫でた時のぞくりとした震え。
――全部、罠の一部。
「次、何乗る?」と聞いても、
「……ちょっと日陰行こう。あっつい」
二宮がそう言って、ベンチに座る。
元貴はすかさず隣に腰を落とした。
「だいぶ効いてきてますね」
「うるさい」
「我慢できなくなったら、負けですよ」
悪びれもなく、さらっと言ってのける元貴に、
二宮は目を細めた。
(ほんと、こいつ……)
ずっと可愛い後輩だった。
音楽の話をすれば目を輝かせて、自分の意見を素直に受け止めてくれる。
なのに今は、こうして自分を挑発してくる。
理性を試すように、目の前で。
(……あれ?)
元貴の唇の端に、クリームがついていた。
(さっきのデザートの残りか?)
「……ん? どうかしました?」
「……ついてる、口のとこ。ほら」
「え? どこですか?」
「……しょうがねぇな」
そう言って、二宮が指でそれを拭い――
元貴の口元へ。
「…ほら、指舐めて。」
「……っ」
二宮の指先についたクリームを舌で舐め取る。
そして、元貴の唾液がついた指先を、
二宮はぺろりと味わうように舐めた。
「……は?」
「“どっちが卑怯だよ”って、言いたそうな顔してる」
「言ってませんけど……」
(やば……今の、なんかすっごい……)
妙に背中がゾクッとした。
媚薬を仕掛けたはずの自分のほうが、動揺していた。
「……で、どっちが崩れるの、先かな」
「……わかんないですね」
沈黙。
でも互いの視線だけが交差して、火花を散らす。
まるで、どちらが先にキスするかを競ってるような――そんな緊張感。
「なぁ、元貴」
「……はい」
「……手、貸せ」
「え……?」
二宮は、急に立ち上がって、手を引いた。
その力は強くて、一瞬驚いたけど、
拒まれる感覚ではなかった。
「どこ行くんですか……?」
「ちょっと、来い」
低く押さえられた声が、やけに色っぽくて。
その瞬間――確信した。
(ああ、限界なんだ)
夢の国の中。
笑い声に包まれながら、二宮が“我慢できなくなった”瞬間だった。