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冷えた風が窓を叩く。
空という深淵には円型に輝く月がある。
風に揺らされる木々を横目に、ため息をつく。
最近、外に出ることも無くなった。
買い物などは使用人に任せ、自分は家でくつろいでいる。
家には、共に暮らす家族と使用人しか居ない。
なのに、毎日が楽しいと思えなくなった。
昔は、家族と居るのが好きだったのに、今はそう思えない。
この家の主人、上野忠之が心配性故に、
防犯カメラは20個もある。
悪事をしようとは思っていない。ただ、
毎日何かに体を縛られている感覚だ。
自由が効かない、鳥籠の中にいる様だ。
安全な生活を送りたい気持ちも分かる。
だが、安全すぎる環境で育つのも、苦痛だと分かってほしい。
この生活には、スリルが無い。刺激が無い。
何をしても面白みを感じない。
この歳でこの状況はどうしたものかと、自分でも恐怖を感じている。
何か、刺激はないものなのか・・・・・
そうだ、いっその事、消そう。
この体を縛る鎖を。自由の無い鳥籠を。
全部ぶっ壊そう。
自分は、ここから自由になる。
この理想郷から・・・・・
2024年が、もう終わろうとしている。
今年の冬は、あまり寒くはなかった。
でも、年末が近づく度に外の空気が冷えてきている事が分かる。
いずれは、マフラーもいるのだろうか。
録画していた番組を見ながら、煙草を咥える。
ライターで火を付ける。気分が落ち着く。
上野「ふぅ・・・あと一箱か。」
僕は上野康介。職業は探偵だ。
10月から11月にかけて、珍しく依頼が殺到したから、余り休めていなかった。
でも、12月後半は、僕の事務所は年始まで休みだ。
ゆっくり出来る時間が増える。
そんな時、インターホンが部屋に鳴り響いた。
上野「あれ?何か頼んでたかな・・・。」
配達員から小袋を貰い、部屋に戻る。
カッターで、無造作に袋を切る。
中からは、1通の手紙が出てきた。
上野「上野・・・忠之?あ、忠之おじさん!!」
少年時代の記憶が鮮明に思い出す。
年末年始は、よく忠之おじさんの家に行っていた。
忠之おじさんは、子供の頃お世話になった、父さんの兄だ。
忠之おじさんの娘、息子さん達とは従兄弟の関係だ。
久しぶりに会いたいなぁ。
手紙を開けると、予想外の内容が目に入ってきた。
〜上野康介様へ〜
久しぶり。覚えているかな。
もうそろそろ2025年になってしまいますね。
さて、康介君は楽しんでいるかな。
予定が合えば、おじさんの家に泊まりに来ないかい?
誘いたいならば、友達を誘っても構いません。
日時は、12月28日〜1月2日(予定)
楽しみに待っています。
〜上野忠之より〜
久しぶりに見た、忠之おじさんの筆跡。
昔と変わらない、綺麗な筆跡だ。
行くかどうか、迷う事なく即決した。
「あいつら」を誘って行こう。
忠之おじさんの家は豪邸だ。2人も興味があるはず。
早速、LINEを開き2人に相談する。
既読が付き、返信が来るまで、またテレビを見始めた上野康介は、
まるで小学4年生がお年玉を貰うような笑顔になっていた。
それから2時間後、例の2人が家にやってきた。
上野「いらっしゃい。LINE見た?」
長谷川「ああ、見たぞ。面白そうだな。」
戸部「ワクワクしてくる内容だったぜ。」
上野目線から見て、右側に立っているのが、
東京都H警察署の警部補、長谷川孝だ。
対して左側に立っているのが、
新人小説家の、戸部夏実(偽名)だ。
戸部「じゃ、お邪魔するぜ。」
長谷川「・・・で、明日泊まりに行くと。」
一連の説明を聞いて、2人は背もたれにもたれ付く。
戸部「でも、クソでかいんだろ?その家。」
上野「うん。自分で言うのもアレだが、結構大きいよ。」
戸部「絶対行きたいなぁ。行って良いんだろう?」
上野「うん。だから誘ったんだよ。」
長谷川「じゃあ、明日は何時集合だ?」
上野「ふっ、2人とも張り切ってるね。」
戸部「そりゃそうだろう!豪邸だぞ?豪邸!」
長谷川「あ、でも康介は行った事あるのか。」
上野「そりゃそうだよ。従兄弟なんだもん。」
「あ、従兄弟も居るから、ちゃんと挨拶しろよ?」
戸部「え、従兄弟・・・ああ、そうか。上京してないのか?」
上野「何で上京してないってわかるんだ?」
戸部「従兄弟がいるって言ってただろ?だからさ。」
上野「年末年始で戻ってきてるかもしれないじゃないか。」
戸部「いやぁ、それは違うね。」
戸部の口角が上がる。
戸部「手紙を見た時、【従兄弟も戻ってます。】って台詞が無かった。」
「これは、従兄弟がいつでも居ると言う事だ。」
長谷川「従兄弟に用事が出来て戻れないなんて事は?」
戸部「無いな。ここ最近の東京の仕事で年末も仕事をするなんて所は極端に減った。」
「あるなら、余程のブラック企業だけだろう。」
「従兄弟は金持ちなんだろう?働かなくても最悪生きていける。」
「ま、そんな所だ。」
上野「まあ、従兄弟は確かに働いていないな・・・。」
長谷川「すごいな。流石、ミステリー小説専門家だ。」
目を見開き、戸部を褒める。
戸部「いやいや、豪邸では、もっと凄い推理を見せてやろう。康介に負けないぐらいにね。」
自信満々の笑顔で、戸部は煙草に火を付けた。