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その日の夜、上野は少し違和感を覚えていた。
何故12月28日、即ち明日からなのだろう。
年末年始のパーティーなら、31日からでも十分楽しめるはずだが・・・
まあ、久しぶりに会うから、沢山家にいて欲しいのだろう。
そんな甘い考えで違和感を片づけ、風呂に向かっていった。
その頃、戸部夏実は、ある事を調べていた。
戸部「ええと、長野県O市の・・・あった、此処だ。」
それは、明日向かう上野康介の従兄弟の家。
よくある検索サイトで場所を調べると、戸部は目を見開いた。
戸部「これ、とんでもない山奥だな・・・」
従兄弟の家は、O市にある山の奥深くに眠っている。
当然、山の中なので敷地も広い。
だから、豪邸と言われている。
戸部「これは、予想以上に楽しみになって来たなぁ。」
気分が上がって来た戸部は、新しい煙草が無い事に気付く。
戸部「ああ、年末年始分も買わないとな。」
気分をそのままに、新しい煙草を買いに行った。
此処は、東京都H警察署・・・
長谷川孝は、上野の家で残業があった事に気づく。
その後、すぐに戻り残業を片付けている。
長谷川「チッ、この資料は・・・ああ、もう!寝れねえじゃねえか!」
午後8時を過ぎ始めた所で、長谷川のストレスは限界を迎えた。
長谷川「おいおい多すぎだろ!!いつになっても終わらねえよ!」
横河「先輩が悪いんですよ。」
横から入ってきたのは、長谷川孝の後輩、横河紗倉だ。
長谷川「なあ、手伝ってくれよぉ。」
横河「駄目です。自分の仕事は自分で終わらせてください!」
そう言い残し、彼女は帰っていった。
長谷川「はぁ・・・あ、今誰も居なくね?」
周りを確認し、誰も居ないのを確信すると、
長谷川は煙草を咥え、火を付けた。
大胆にニコチンを摂取する。
長谷川「ふぅ・・・落ち着く〜!」
3本ほど吸い終わると、
長谷川「よし、10時までに終わらせて、煙草買って帰る!」
気合いを入れ直し、仕事と1対1になった。
上野「・・・ふぅ、ニュースでも見るかな。」
風呂上がりの上野は、すぐに煙草に手を伸ばし、足でテレビを付ける。
上野「今の時間帯は・・・ニュースぐらいか。」
期待をせずにテレビが付くと、思わぬニュースが流れてきた。
男性「今日、午後4時37分、東京都内で誘拐事件が発生しました。」
「被害者は澤村春乃さん74歳、場所は自宅だそうです。」
「被害者の旦那さんが家に帰ってきた時、家は荒らされていて、」
「まるで、誰かが殴り合いをしたかのような痕跡があったようです。」
「そして、家に居たはずの被害者がいない事に気づき、」
「通報したとの事です。」
「犯人は不明で、未だ逃走中だそうです。」
上野「へぇ、熟女を誘拐・・・変な趣味してるなぁ。」
雑に煙草の吸い殻を押し付ける。
上野「防犯カメラにも映ってない。上手いなぁ。」
他人事のように呟き、チャンネルを変える。
歌手「〜♫」
上野「お、カラオケ番組やってんじゃん。」
上野康介は大のカラオケ好きであり、残りの2人も同じである。
その後、2時間ほど番組を見た後、上野は眠りについた。
ピーンポーン・・・・
山奥の孤独な理想郷に、チャイム音が鳴り響く。
??「はーい。」
ドアを開けると、郵便配達員が居た。
配達員「お届け物です。こちらにサインを。」
息は少し荒れていて、疲れ果てている。
??「あ、ありがとうございます。」
ペンでサインし、荷物を受け取る。
少し小さめの段ボールだ。
忠之「義母あさん、誰宛でした?」
理想郷の主人、上野忠之が口を開く。
??「私だった。この前頼んだ化粧品よ。」
忠之「義母あさん、まだまだ現役ですねぇ。」
??「ふふ、娘に負けてらんないわ。」
他愛無い会話が続く中、この家には、
段々と大きくなる死の渦が渦巻いているのだった。
上野「・・・よし、あとは2人を待つだけだ。」
12月28日午前7時。上野は車のエンジンをつけ2人を待っていた。
上野「うぅ、寒いなぁ。早くきてくれよ・・・お、」
道の奥から、2つの人影がこちらに向かってきている。
どうやら、走っているようだ。
1人は猛ダッシュで、もう1人は既にヘトヘトのようだ。
戸部「すまん!孝が今起きたばっかで・・・」
先に上野の元へ着いたのは、戸部夏実の方だ。そして・・・
長谷川「はぁ・・・はぁ・・・無理・・・!」
昨日まで残業をしていた、長谷川孝が遅れて来た。
上野「今起きたばっかぁ?」
戸部「ああ、なんか、残業してたらしく・・・」
長谷川「まじですまん。車で寝かせてもらう。」
上野「いや、別に良いけど・・・戸部は?」
戸部「孝に合わせてた。でも、やっぱ俺の方が速いんだな。」
上野「まあ、元陸上部だろ?」
戸部「学生時代の話だ。まあ、今も走ってるけど・・・」
長谷川「すまん、中入って良いか?」
上野「ああ、じゃ、出発しよう。」
3人の若者を乗せた青いホルクスワーゲンは、
颯爽に都内のコンクリート道を駆け抜けていった。