テラーノベル
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夢を見る。
自分とまるで瓜二つな人の夢。
いつも自分が馬乗りになって殴っている。
そいつは怒りもせず泣きもせず、ただ笑っているだけだ。
それにまた自分が激昂して何かを叫ぶ。
そして拳を振り上げたところで意識がぐら、と揺れる…
寝起きとは思えないくらいの速さで飛び起きる。
長距離走でもしたのかというくらい動悸と息切れが激しかった。
無意識に掴んでいた左手の感覚がなくなってきたころ、苦しさと入れ替わるように恐怖が芽生えてきた。
「ゆ、夢だよね…大丈夫だよね?」
母が遠くから大きな声で呼ぶのと、カーテンから注ぐ陽光がやっと現実に引き戻す。
酷い夢を見てしまったので動く気にはなれなかったが、なんとか振り絞ってベッドから降りた。
その日を一言で言うなら挙動不審だ。
多分、というかほとんど夢で起きた殺人なんて現実では起きない。
だがどうしてもあの光景が目に焼き付いてしまい、誰に対してもビクビクしていた。
挙句、仲のいい友人に不審者みたいだね、と言われてしまった。
夢で人を殴っていてそれが本当になるのが怖い、と言ってもきっと笑われてしまうだろう。
何も言えないまま学校が終わり、とぼとぼと帰路についた。
住宅街や商店街を抜けたところに駅がある。
駅の近くのバス停で時間を確認しながらぼんやりとバスを待った。
しばらく空を見つめていると、遠くから数人を乗せたバスがやってきた。
ぞろぞろと降りていく人たちを見て、急いで交通系ICカードを取り出す。
前の列が動いたのを感じて顔を上げる。
ふと、最後に降りてきた金髪に目がいった。
一瞬、時間が止まった。
こちらを見た“彼”の瞳は鮮やかな緑だった。
まるで自分と双子だったのではないかと思うくらいに。
すぐに相手が目を逸らしてしまったがどうしてもその後ろ姿を見続けてしまった。
その後見事バスに置いていかれた彼女…リンは、帰宅後早々現場を見ていた母に笑われるのであった。
10年後のわたし
二学期に入った頃担任が卒業文集のお題を発表した。
何故か分からないがよく中学二年生だと間違われるがリンは中学三年生である。
……まだ14歳ではあるが。
多くが高校に通う選択をするこの時期。
卒業したら後は自立して、それぞれの人生を描く。
10年後のわたしはどうしているのか。
10年後のわたしに何か言いたいこと、聞きたいことはあるのか。
それが担任が書いて欲しいものらしい。
あなたは何をしていますか。
私が好きな漫画はどんな結末でしたか。
私は今とても楽しく生きています。
生きています。
手が止まった。
全部しっくり来ない。
友達のを少し盗み見ると好きな食べ物はなんですか、とか友達とまだ仲良いですか、とか書かれていて自分だけ変に考えてしまっているようだった。
担任に期限を伸ばして欲しいと頼んだら、お前なら無限にポンポンでるもんだと思ってたって。
まるで私の頭がわたあめのように軽いみたいに。
みんなが思うよりずっと重いのに。
そんなことを思っていたって進むわけなく。
いつもの駅で偶然居合わせた母に買ってもらった砂糖と牛乳マシマシのコーヒーをちびちび飲んでいた。
目の前にバスが止まっても乗る気になれず、ベンチで足をばたつかせる。
バスはいつの間にか視界から居なくなっており、少し後悔し始めた頃隣に人がどさ、と座った。
仕事とかで重大なミスをしてしまった人のように項垂れていたその人は急に顔をばっと上げ、リンに話しかけた。
「いいの?いつもあのバス乗ってたけど」
まさか話しかけられるとは思わず、えっとかああだとかうぅだとか言いながら顔を上げると、先日見かけたばかりの彼がいた。
しかも今度は一瞬じゃない。
しばらく見つめあったあと、ぱっと目を逸らしたリンを心配そうに見つめる彼。
なんで、どうして、と幼稚な問いしか出てこないリンの頭の中なんて知らないというみたいに追い討ちのように大丈夫?なんて声を掛けられてしまった。
こうなったらどうにもならない。
蚊の鳴くような声で大丈夫です、と言い冷や汗が止まらない体をきゅ、と抱きしめながらリンはもう一度彼を見た。
似ている。自分と、あまりにも。
夢の中の人物をふと思い出してしまった。
それと同時に形容しがたい懐かしさが込み上げる。
「不思議だね、君の隣は何故か懐かしい」
ふと彼がそんなことを言った。全く同じことを考えていたのでバッとリンが彼の方を見ると、彼も無意識に口走っていたのか目をパチクリさせる。
それがなんだか妙に面白くて二人して吹き出した。それからあれよあれよという間にお互いの連絡先を交換した。
彼は用事があるらしくしばらくすると席を立ち、人混みの中に消えた。リンは家に帰るまで…いや、帰ったあともこの世界に居ないような浮き足立った気分でいた。連絡先に新しく登録された『レン』の文字。プロフィールを見るに、どうやらリンと同い年らしい。てっきり年上だと思っていたがどうやら言動が大人びているだけらしい。
「……不思議な人」
思ったことをそのまま小さく口に出してリンは目を閉じた。
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