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いつもと変わらない通学路。
リンはあれから少し落ち着き、友人と仲良く登校していた。
リンの初々しい反応を面白がり最初こそ、彼氏出来たの?彼氏なっちゃいなよ、とからかっていた子も、今ではそんなこと覚えていない。
彼…レンに出会ってから夢の解像度が少し上がってきた。
短いようで少し長い髪を振り乱しながら抵抗しながら殴られている。
それを見下ろす自分は酷く虚ろな目をしていた。
不意にカバンから振動を感じる。
どうやらスマホの電源を落とせていないようだった。
見てみるとニュースの通知が来ていた。
『暴行事件で逮捕』
そうデカデカと書かれた見出しを見て心臓が跳ねた。
最近、物騒な事件多いよねぇ、という友人の言葉を聞きながらリンはニュースのアプリを閉じた。
誰かを傷つけてしまうのならいっそ、自分を傷つけてしまいたくなる。
加害者になること。誰かの顔を曇らせてしまうこと。それはきっと誰もが通る道。それでもやはり自分だけは無垢だと。
そう言いたかった。
放課後、部活が無いかわりに委員会があった。リンは緑化委員のため、中庭に出て植物の様子を観察する。中庭は丁度日陰になっていて、残暑の酷いこの季節ではとても助かった。校舎は4階建てで、リンのクラスは中庭の真上にある。
ひちゃん、と何か濡れたものが落ちる音がした。振り向いてみるとどうやら跳ねている。近くへ行って分かった。リンのクラスで飼われている魚だ。青白い鱗がてらてらと光っている。咄嗟に持っていたホースで魚を濡らそうとするが、水道水で塩素処理がされている水はきっと淡水魚のこの魚にとって毒となるだろう。
しばらくすると魚の動きが鈍くなる。リンは魚をそっとすくい上げた。砂やら小枝やらがくっついていてザラザラしていた。花壇の上に手を持っていくと最後の足掻きか、魚は尾びれをリンの手のひらに叩きつけ自ら落ちていく。その滑稽さに、つい口元が歪み乾いた笑い声が出る。不思議と憤りも虚しさも感じなかった。
魚の虚ろな瞳を見ていた。4時半を告げるチャイムが鳴り、ハッとして魚に土を被せる。まだ夢見心地のような曖昧な脳で、私が死んだらこんな感じで埋めてもらって、植物の栄養になれるのかな、とか考えた。
ジャージのズボンや袖が土で汚れたリンを、見てはいけないもののように目を逸らし早歩きするみんな。お疲れ様、と緑化委員の担当の先生が笑って軍手をまとめているのを見て酷く安心した。
数日後。リンは体調が悪く休んでいたが少し回復したので遅刻として昼休みの時間に登校した。友達に話しかけるのがなぜだかむず痒く、ぼんやり窓を見ていたら急に教室が騒がしくなった。5時間目の学活は何故か静かで珍妙な空気だった。
担任が重そうに口を開ける。どうやら飼っていた魚が1匹居なくなり、その数日後に中庭の花壇から異臭がし、掘り返したら魚が埋められていたと言った。もちろん埋めたのはリンだ。ただ誰も何も言わず下を向いていたので、言う勇気も出なかった。
担任の話を聞いて、リンは焦ったりはしなかった。ただ、静かに眠らせてあげられなくて申し訳ないなと、そればかり考えていた。罪悪感とか全部置き去りにしたみたいだ。だから分からなかった。分かるはずもなかった。
二度目が起きるなんて。
私は知らない。何も。魚が落ちてきただけ。魚が落ちて、どうすればいいか分からなくて。土に埋めたの。これで終わりだと思ってた。また落ちてきた。私がいる時。私しかいない時に。知ってる。知ってるよ。
いじめでしょう?
だけどある日、魚を落とすだけじゃ足りなかったのかな。バケツの中の水。それを落とそうとして、手でも滑らせたのかな。頭に響く金属の重さ。かろうじて見えた、血と混じる濁った液体。すぐにふわっとした感覚がきて、酷い耳鳴りがした。煩くて煩くて、背中の悪寒がせり上ってきて、怖かった。この世の何よりも、怖かった。ただひたすらに。