新学期の朝。
私は教室へ入った瞬間、思わず叫びそうになった。
「えっ、うちの隣……空いてるじゃん! ラッキー!」
だって、隣の席ってめちゃ大事じゃん?
授業中も休み時間も、
誰が横にいるかで1日のテンションぜんっぜん違うし。
私はワクワクしながら席にバッグを置いた。
すると——
ガラッ。
教室の扉が開き、ひんやりした空気が流れ込んできた。
「……?」
黒髪の女の子が立っていた。
まっすぐな髪に、白い肌。
無表情で、スッとした顔立ち。
その子は先生と少し話してから、
ゆっくりこちらへ歩いてきた。
「今日からこのクラスに入る冬月だ。みんな仲良くしてやってくれ」
淡々とした声が教室に響く。
(え、めっちゃクールな子来たじゃん……!)
彼女は周りを気にすることもなく、
まっすぐ私の隣の席に座った。
「よ、よろしくねっ! 星川りな! りなでいいよ!」
元気よく声をかける。
すると、冬月さんは一瞬だけこちらを見た。
黒い瞳がまっすぐで、ちょっとだけ心を刺す。
「……よろしく」
それだけ言って、また前を向く。
(う、うわ……静か……!
めっちゃクール系……!)
私はワクワクしていた。
けどその一方で——
(え、りなのテンション……迷惑じゃない、よね?)
なんかそんな不安も少しあった。
でも、冬月さんは小さく筆箱を開きながら言った。
「……騒いでもいいよ。邪魔じゃないから」
私は目を丸くした。
「えっ、なんでわかったの?」
「表情。あなた、声かけてから急にまばたき増えた」
「え……観察してたの……?」
「うるさいけど、悪い人じゃなさそう。
だから、別にいい」
(うっ……!
なんか直球で褒められたような……殴られたような……!)
顔が一瞬で熱くなる。
「……冬月さんって、なんかズルくない?」
「なんで?」
「かっこよくてさ……!」
「意味がわからない」
ほんの少しだけ口角が動いた気がしたけど、
たぶん気のせい。
(この子、めっちゃ気になる……!
なんか……友達になりたいかも)
こうして私と冬月澪の、
変な距離感の“隣の席生活”がはじまった。
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