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加賀美side



「準備は、いいか?刀也さん」


「…はい。」


私と伏見さんは、剣持さんの言う条件を聞き入れた後三人で社の中へ移動した。

観音開きの扉を開けると、ある程度の広さがあり部屋の奥には祭壇。手前に大きな儀式用の陣が刻まれ周りを照らす何本ものろうそくが怪しげに揺れていた。


伏見さんが祭壇の前に立ち

いよいよ離魂の儀式が始まる


「刀也さん、その陣の真ん中に仰向けで寝てくれるか」


剣持さんは、素直に頷き言われた通り横になる

彼は、何かを探すように頭を動かすと私を発見しておもむろに片手を上げた



「社長…」


「はい、どうしました?」


「…手、握っててもらえますか?」


「…ええ、もちろん」


しっかりと小さな手を握る。多少、安心したのか力んでいた強張りが溶けた気がした


『ーーーーー。ーーーーー。』


厳かに目を閉じた伏見さんの口から祝詞のような言葉が発せられる。淡い光が彼を包み、やがて言葉と連動してゆらゆらと風が吹きだした


長い彼の髪が揺れる



不思議な光景に見入っていると繋いだ手から小さな振動が伝わってきた


「…ふふ。人間に戻ったらもう気軽にロリと遊べないなぁ」


「どんな姿だろうと、駄目ですよ」


「えーなんでですか」


「なんででも」



お互い重い雰囲気になりすぎないよう冗談で笑い合う

何気ないその会話は、この場を一瞬忘れさせてくれたが耳に飛び込む次の言葉が現実へと容赦なく引き戻した


「我、抜魂の儀を用いてあるべき理に戻さんと望むものなり彼の者の魂を清め白道への扉を開き給え。」


最後の台詞を言い終えた伏見さんが、爛々と光る金の瞳を覗かせ強く両手を打ち鳴らす。



瞬間パアアアアアッと

白くて強い光が離散し蛍のような淡い小さな光に変わる。小さな輝き達は、剣持さんの体の周りをフワフワと浮遊していた。


「…儀式は終わったぜ。この光が消える時、刀也さんとは一旦お別れだ」


まるで大罪を冒してしまったような苦しい表情を見せる伏見さんに、すぐさま空いた手を伸ばす剣持さん


「…ガクくん、ガクくん。」


「……。」


彼は呼ばれるまま無言で陣の中へ入り膝から崩折れた


「お疲れ様。いつも辛い役目させてごめんなさい」


投げ出された伏見さんの手を探り当て大丈夫だよと言うように力いっぱい握りしめる


「はは、覚悟してたんだけどな」


「私も、いざその時と言われると…」


剣持さんは、暗い顔をする私達を交互に見て薄く微笑んだ


「二人とも僕の隣に寝転んでくれませんか?」


「え?」


「どうしたんだ?」


「いーから、いーから」


意図は、わからないが手を繋いだまま川の字に寝転ぶ


「もっと僕に寄ってください」


お互いの髪が絡まるほど近づくと剣持さんは、やっと満足したみたいだった


「鞄の中以外で寝転がるのは久しぶりです…こうして天井を見上げていると毎日毎日飽きるほど見ていた遠い昔を思い出します」


「刀也さん…」


「二人とも寂しく思ってくれるのは嬉しいけど後悔は、しないで下さいね。」


「「……。」」


「…確かに僕は、永遠を望んだし覚悟だって相当してた。でも本当にそれが手にいれたいものなのかなって…ガクくんは喜んでくれるかなって…社長は、怒るかなって…常に不安は、あったんです。」


だから、むしろスッキリしたかも…と深呼吸しながら語る彼に私は、ずっと引っかかっていた言葉を口にした


「後悔は、きっとしないと思います。でも…剣持さんの決意を雑に扱いたかった訳ではないんです…。」


「はい。ちゃんとわかってますよ社長…それに、僕も人間に戻ったらやりたい事が出来たんです」


「へぇ…なんですか?」


「…秘密です。」


ふわりと笑った彼を見てイタズラの計画を立てる子供みたいだと思った







ふと握る手に力が加わる



「ガクくん…」


「うん?」


「人間の僕を見つけてくれて、好いてくれて…ありがとう」


「うん」


「がっくん」


「ん…」




「…ねむいです」


「っ…うん。そうだな」



線香花火が最後の火花を散らすように


蛍の命火が消えたくないと足掻くように


だけど怖いくらい静かに



「おやすみ刀也さん」


「おやすみなさい剣持さん」




かけられた挨拶を目を閉じて噛みしめる。彼の口元がゆっくりと弧を描いた




「おやすみなさい…がっくん、しゃちょー…」





フッとそれまで淡い光を放っていた蛍がいなくなり同時に部屋中のろうそくも掻き消える。

そのまま呆然と天井を眺めていると真っ暗な中繋いだ手が握り返してくれない事に気付いた


一筋、涙が落ちる


彼は、幸せなただの人形になったんだと悟った。







社の外に出ると晴天の中、相変わらず桜が美しく舞っていたが儀式前となんら変わらない光景に人間の私は頭がおかしくなりそうだ

人が、どれほど時間に身を置く存在でかつ囚われているのかがわかる


「ハヤトさん…ありがとう。」


私の後をついて出てきた伏見さんが深々と頭を下げた


「っ…顔を上げて下さい。感謝しているのは、私もなんです。ちゃんと剣持さんと話しが出来たんですから」


「そうスね。でも、やっぱり俺だけじゃ最後まで出来たとは思えない…絶対負けてた。…ほら刀也さん口が上手いだろ?」


頭を持ち上げた彼は、自分になのか剣持さんになのか呆れを含んだ笑みを溢した。

私は自分を責めるような顔を彼にしてほしくなくて、すぐに話題を変える



「そういえば剣持さんが言ってた条件…どうしましょうか…。」


「うーん…俺なりに考えてみるよ。居なくなってからも世話の焼ける奴っすね」



伏見さんの背後にある閉じられた扉を眺め、あの時涙ながらに伝えられた剣持さんの言葉を思い出す



『僕が人間に戻ったら二人とも絶対に会いに来てください。僕が二人を忘れて冷たくしたとしても諦めないで側にいて下さい。』




僕は、また二人に会いたい。






「剣持さんが人間として戻ってくるのって何年先くらいですか?」


「さぁ?1年先か10年先か…」


「おじいさんになってたりして…いや下手したら死んでる可能性も」


「任せろ。そん時は、俺と刀也さんで介護してやるぜ!」


ビシッと眼前に出されたピースサインを眺めながら



「わーうれしー…。」



思ったより棒読み感が出て二人一緒に吹き出して笑う


昨日までは、もう一つ聞こえていた笑い声に負けないように。





つづく。

最近の人形は甘党らしいです。【かがみもち・咎人】

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コメント

10

ユーザー

うわああああああああぁぁぁ!まだ続くぞおおおお!!やったああああああああぁぁぁ!今回も素敵な作品をありがとうございます!!

ユーザー

最高です

ユーザー

ああああああああ…好き…(TДT )

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