?side
『よく頑張ったね』
『とっても眠たいでしょう?』
『いーっぱい眠りなさい』
『起きたら、またどうなりたいのか私と話し合いましょう』
『楽しみね。次は、どんな風になるのかしら』
『あら…会いたい人達がいるの?』
『ああ。だから貴方の心は、そんな色をしているのね』
『あの子が気に入るはずだわ。優しい優しい藤色ね』
『わかったわ。私も貴方の事、気に入ったもの…ちょっとだけ協力してあげる』
『 □□□□□□□□□□□□□。』
『だから今は、安心してお眠りなさい。』
良い夢を…。
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「あれ?はじまっ…てる?映ってますか?」
「あ、はい映ってますね。こんにちは!こんにちは!」
「あ、ちょ…ちょっと待って下さいね?あ、落ちる…落ちる…あ〜コメントありがとうございます。コメントちょっと控えて頂けると嬉しいです〜」
「あ、ちょ…コメ、コメント…あ〜うるさい。コメントした者から殺していく〜、ちょっと静かにして頂くと嬉しいです」
「はい、どーも。こんにちは剣持刀也です。」
◯◯年 3月15日。初配信にて
Vtuber黄金時代到来
四天王と呼ばれる方々が華々しく活躍される中、いちから株式会社設立
にじさんじの幕は上がった。
剣持side
「ちょ、ガクくん何処いくんですか?」
「いーから、いーから」
Vtuber仲間であり同期であり相棒の伏見ガクに連れられ、やって来たのは見慣れた自分達の会社。
「僕今日は、スタジオに用事ないですけど?」
「わかってるっすよ。」
いまいち、さっきから会話が噛み合わない気がして首を傾げる
「えー遊びに行くんじゃなかったんですか?」
朝から突然『遊びに行こうぜ!』と電話越しに誘われ、すっかり休日気分でやってきた僕は急に会社に行くと聞かされても上手く切り替え出来ずにゴネていた
だって『いーから、いーから』ってそればかりで目的を教えてくれないのだから前向きになんてなれやしないよ
そんな僕を見て、ついに焦れたガクくんは強硬手段に出る
「事情は、ちゃんと後から話すから刀也さん早く!」
「わ、わかった!わかった!」
がっちりと手を繋いで、引っ張る彼に流石の僕も観念して大人しく従う
普段、温厚な彼がカッと目を見開くのは怖すぎた
「あ、あの〜せめて手を離しません?注目されてますよ伏見さん」
手を繋いで強引に連れて行かれている姿は、まんま恋愛ドラマのワンシーン
先輩ライバーやスタッフさん達からの好奇の視線が刺さりまくる。羞恥に耐えられない僕は赤面した顔を俯いて隠す事しか出来なかった
「あ、どもっす〜!お仕事お疲れ様でーす」
「いや無敵かよ」
これだから『咎人はガチ。』とか言われんだぞ
何をするにも紛らわしい、コイツが悪いのに
「あっれ〜?ここだと思ったんだけどな」
スタジオの一室を開けて中を覗き込むガクくん。何やら目的のものがなかったらしく眉根を寄せて、しきりに頭を捻っている
「も〜、なんですか。そろそろ教えてくださいよ」
「うん〜」
聞いているのか、いないのか探す事に夢中になっている彼の耳には届かない
こうなっては、梃子でも動かないだろうなぁと完全に諦めモードに入り、はぁと溜息を一つ吐く
手は繋がれたままなので暇つぶしにも行けず狐の耳のようにも見える彼のハネ髪をただ眺めた
カツンとそれまで誰もいなかった廊下に靴音が響く
なんとなしに音のする先に視線をやった。
伏見side
「うーん…やっぱり俺の勘違いだったみたいっす刀也さん、ごめ…ん」
小言の一つでも言われるだろうと覚悟して、せめて言い訳でも言わせてもらおうかと振り返る
しかし、そこにあったのは呆れた表情でも怒った表情でもなく食い入るように何かを見つめる彼の横顔だった
「刀也…さん?」
「……。」
名前を呼ばれて、ゆっくり俺を見る
視線が合って
目を見開く
初めて俺を認識したように
「『ガクくん…』」
その響きは、耳に懐かしく一番聞きたかった音
何度も聞いた、あの子の…
「とーやさん今…。って…うおっ!」
今度は、手を繋いだまま刀也さんが猛ダッシュ
廊下の先目掛けて速度を増す彼に、理由もわからずついていった
「ちょっ…どうしたん…っ」
走る途中で何故か雨粒のようなものが頬を掠める
前方からくるそれに
ああ、刀也さんが泣いていると解った
「〜〜〜っ!社長っ!!」
『わかったわ。私も貴方の事、気に入ったもの…ちょっとだけ協力してあげる』
『そうねぇ何がいいかしら…』
「…っ剣持さん!伏見さん!」
長年待ち焦がれた、もう一つの声がする
頬を流れる雫は、刀也さんのものなのか自分のものなのか
『あ!こういうのはどうかしら?…もし三人揃ってまた何処かで出会う事が出来たなら、お互いの記憶を思い出させてあげるわ!…どう?素敵でしょ?』
俺が、お膳立てしなくても
彼らはちゃんと見つけられる
自分の大切なものを
やっぱり人間って面白い
俺と刀也さんは、勢いよく彼に突っ込んだ
流石のハヤトさんでも走ってくる二人分の重さは支えられず三人で廊下に倒れ込む
ギュッと抱き締めて、お互いの体温を感じ生きているのを確かめた
心があの日に帰っていく
むくりと刀也さんが起き上がり俺とハヤトさんを嬉しそうに見つめると
「『ただいま』」
泣いているような笑っているような、とても複雑で人間らしい表情をして言った。
「おかえり、刀也さん」
「おかえりなさい剣持さん」
俺とハヤトさんは二人で刀也さんを抱き締めながら空いた片手で拳同士をコツンとぶつける
そうして戦友の再会を祝し笑い合った
「まさか本当に私まで生まれ変わってから再会するなんて思いませんでしたよ」
「刀也さんが遅刻するのは、いつもの事だけど待たせすぎだよな。お陰で俺だけがハヤトさんの介護したんだぜ」
「約束を守って頂きました、任せろ!って力強く言われていたので」
「ふふ、ガクくんは僕で介護慣れしてるもんね。今生は二人分頼みましたよ」
「マジかよ…」
気持ちの良い爽やかな笑い声のハヤトさんと意外にも清楚で綺麗な笑い声の刀也さん
やっぱりいいな
「どうかしました?」
ひとしきり笑った刀也さんが首を傾げる
「いーや、幸せだなって」
きっと、この先も
どうしたって俺は
弱くて儚くて、でも美しい人間達に
魅せられ続けていくのだろう
『人間を愛するとは、お前さんも難儀なものね』
ふと耳元で声がする
「しょうがないんすよ」
愛しちゃったんだから。
鈴が転がるような女性の笑い声と
『好きよ、そーいうの』
優しく受け入れる言葉が嬉しかった。
おわり
あとがき
はー!長かった!最後まで読んで下さった方本当にありがとうございました。
察して下さった方もいるかもしれませんが女性の声は剣持の器を用意したり何かと面倒みのいいガクくんより上位の神様です、眠る剣持の魂も見守ってくれてました。
一方、社長はあれから亡くなるまでガッくんと過ごし剣持を待ちましたがとうとう会えず…
生まれ変わって、にじさんじでライバーしてる二人をたまたま見つけ何故か無性に気になり入ってきました
ガッくんが剣持を引っ張ってきたのも社長の魂を感じたからです
このお話はパラレルなので、にじさんじやVtuberの生まれる年代自体、本来より未来の出来事として書いています
Vの文化が流行るのが凄く遅かった世界線って事ですね。色々ややこしくてすみません笑
後日談とかも書くと思うので、良ければそちらもどうぞ。
コメント
14件
うわあああ!!ずっと見守って来た物語が完結して感動してます! みんな幸せで良かったぁ!! 3人仲良く幸せに暮らしてくれえぇ!神様ありがとおおぉ(´;ω;`)
ずっと見てきました!ほんと良きでしたー!終わりも最高です!!