「昨日ぶりやね」
約束通りの場所に、彼はいた。
昨日と同じ、ブランコに。
「ちょっと目元腫れとるで?なんかあったん?」
そうして優しく私の目を撫でてくれるあなたは、わたしに惚れ込んだ男に見える。そんなに優しい表情をして、諭すような声をして、なにがしたいの?
「♡ちゃん、昨日タバコ吸っとったやんか。銘柄教えてくれへん?他人が吸っとる煙草って、美味そうに見えるんよ」
キャスター片手にそう語る彼は、遠い目をしていた。
かと思えば、こちらを向いてふわりと微笑む。
軋んだ鉄の音が辺りに響いた。
『鬱くんは紫陽花が似合いそう』
そんなことを小さく呟く。その言葉はしかと届いていたようで、彼は目を見開いた。
「初めて言われたわ」
僕、薔薇科アレルギーやねん。
彼は、そう続けた。
今まで青薔薇の花束や林檎パイをもらったりしたことがあるが、始末に困ると。終始楽しそう話す彼には、申し訳なさだったり、反省の色がいっさい見えなかった。
その贈り物、二人の女から同時に送られたりして。
わりと有り得なくもない予測に、嫌気がさした。
真実を確かめたい。
彼のその口から、聞きたい。
そしたらきっと、振り切れると思うんだ。
意を決して、絞り出すように言った。
『鬱くんさ、勤め先一緒だよね?』
私のその質問に彼はゆっくり振り返って、
「やっと気づいたん?遅いわ」
悪魔のように笑った。
せやったら、僕の噂についても知っとるよね?
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