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なんだかんだで、京平は、のぞみが食べたがっていた中華を奢ってくれた。


昼から豪勢だな。

その辺の店のでよかったんだが、と思いながら、京平の行きつけだという中華の店の個室で、締めの杏仁豆腐とライチを食べている頃、更に冷静になったらしい京平が、更に後先考えないことを言ってきた。


「もういいわかった」


なにがわかったんだ?

とあまり香料が強くなく、最後まで美味しかった杏仁豆腐を味わうように食べていたのぞみは顔を上げる。


だが、京平がもう時間だと急かしてくるので、そのまま店を出て、車に乗り込んだ。


その間も、京平はなにかの算段をしているようだった。


のぞみが乗っても、まだ車は発進させずに、京平は言ってくる。


「さっから、樫山に嘘つきめ、と後ろ指差されて、土下座して謝ることと、お前と結婚することを天秤にかけてみてたんだ」


あのー、専務。

嘘をついたら、すぐに、ごめんなさいした方がいいと小学校の先生でも言うと思うんですが。


貴方、高校の先生ではなかったですか?


そんなことを思うのぞみを振り返り、京平は言ってきた。


「俺はもう腹をくくった――。

坂下、俺と結婚しろ」


私、くくれてないです……と青ざめるのぞみの手を握り、京平は言ってくる。


「大丈夫だ。

物の弾みで決めてしまったが。


俺はなにごとにも全力投球するのが信条だ。


絶対、幸せにしてやる。

なにも心配するな」


いや、心配だらけですよ!?


「まあ、親とかなんとかいろいろ言ってくるかもしれないが、全部、俺がどうにかしてやる。

お前は、ただ、俺の側に居てくれればいいんだ」


そう言いながら、京平はガッチリ、のぞみの手を握っている。


こ、これは……、ロマンティックに手を握っているわけではなく――


確保!?


京平は、のぞみの学生時代を思い出してか、手を握り、しみじみと言ってきた。


「それにしても、あの頃はお前とこのようなことになるとは思ってもみなかったが」


いや……、まだ、どのようにもなっていませんが。


「縁とは不思議なものだな」


私は貴方が不思議ですが。


「だが、こうなったからには、一生、共に幸せに暮らそう」

と握った手を持ち上げ、言ってくる。


いや、だから、まだ、どうにもなってませんよねっ? と確認するように京平の瞳を見つめてみたが、なにも通じてはいないようだった。




「おかえり。

どうした、偉く疲れて」


のぞみが秘書室に戻ると、デスクについていた祐人がそう声をかけてくれた。


「はあ、もう、なんだかわからないけど、疲れました」

と自分のデスクに座ると、ちょうど通りかかった先輩秘書、永井万美子ながい まみこが微笑み、


「はい、あげる」

とはちみつレモンの飴をくれた。


万美子は、

「疲れるでしょう? 専務のお相手。

頑張ってね」

と実感込めて言ったあと、美しい髪をなびかせ、行ってしまう。


「……なんか今、めっちゃ同情されました」


ありがたくいただきながら、万美子が去っていった方を振り返っていると、


「まあな」

とノートパソコンの画面を見ながら、祐人は言ってくる。


「専務は、肩書き上は、専務にはなれても、今までの実績がないから、立場弱いし。

此処からが正念場で大変だろ。


異業種から来た人らしいしな。

此処までは親の七光りが通じても、この先は実力が伴わないと厳しいよな。


常務派の人も多いし。


そのときそのときで、都合のいい方にすり寄って、カメレオンみたいに、ころっころ意見変えてくる役員も多いし。


そんな専務についてる秘書は大変だ」


おのれもそうであるのに、祐人は他人事のように、そう語る。


「お前の場合、新人で、そんな専務のところに配属されたから、みんなに同情されている」


「そ、そうだったのですか……。


でも私、日々、研鑽を積んで、やがては、永井さんみたいな秘書になりたいですっ」

と容姿端麗にして、できる女、万美子が去った方を拝むように見ていると、後ろから、


「無理」

と言う祐人の厳しすぎるうえに、短すぎる宣告が飛んできた。


振り返ると、祐人はパソコンの画面を見たまま、

「お前と万美子じゃ、人としての素地が違いすぎるから無理」

と言ってくる。


……あの~、新人を褒めて伸ばすことも大事だと思うんですよね~、と思っている間に、祐人は、


「あー、駄目だな。

こりゃ」

と言って、USBを引き抜き、立ち上がる。


「じゃあ、お疲れだったろうから、五分くらい休憩しろ。

五分な」

と言って、さっさと出て行ってしまった。




「失礼します」


 ごちゃごちゃ言いながら、祐人が仕上げたデータを印刷して、京平のところに持っていくと、京平は届いていた封書の中身を読みながら、まだなにも出してないのに、


「ありがとう。

 そこに置いておいてくれ」

と大きなデスクの左斜め前を指差した。


 そうしておいて、気づいたように言ってくる。


「お前か」


 ……誰だと思ったんですか、適当だな、とは思ったが、秘書なんて、影のようなものだ。


 ささっと人目につかない感じで、仕える人の仕事が滞らないよう動けてこそ、秘書なのかもな、とは思った。


 なんか忍者みたいだが……。


 そう思ったそのとき、京平が、

「坂下、今日か、明日か、あさってか、暇か?」

と曖昧なことを訊いてきた。


「そのうちの何処かで時間が取れると思うんだが。

 少し話があるんだ」


 話って。


 ああ、もしかして、さっき言ったことは忘れてくれって話かな?

とのぞみは思う。


 いやあ、さっきは、ちょっとカッとなってしまって。


 すまんすまん。

 忘れてくれ、と苦笑いして言ってくるんだろうな、と信じるのぞみの耳に、その言葉は飛び込んできた。


「今、ちょっと予定がつんでて、なかなか日取りが決められそうにないんだが」


 京平は細かく予定の書き込んである卓上カレンダーを手にしている。


「……なんの日取りですか?」


 思わず、そう訊き返すと、京平はカレンダーから目を上げ、

「俺たちの結婚式のに決まってるだろう、莫迦め」

と貴方、本当に私と結婚したいんですか? と改めて問いただしたくなるような口調で、言ってきた。


「樫山と早苗がいつ結婚するのか知らないが、それよりは先にしよう」


 だーかーらー。

 負けん気だけで突っ走るとロクなことがないですよー。


 もしかして、教師辞めて専務になったのも、誰かになにか言われたからなんですか? と思っていると、その考えを読んだように、京平は言ってくる。


「人の言葉がなにかの契機になることはあるが、最終的に決断を下すのは自分だからな。


 お前のことだってそうだ」

とまっすぐに見つめて言われ、どきりとしてしまったが、京平は、


「俺は一旦、口に出したことは引っ込めたくない。

 人に頭を下げるくらいなら、たとえ間違った人生でも、このまま突き進む」

と言い出した。


 貴方、今、間違った人生とハッキリ言いましたね~?


 やっぱり、私のことなど好きでもなんでもないんじゃないですか~、と恨みがましく見つめてみたが、京平は、

「そもそも、お前のことは、学生時代から気になってはいたんだよな」

と語り出す。


 そ、その手にはかかりませんよ。


 ただ、私を言いくるめようとして言ってるに違いないですっ。

 ええ、きっとっ、と思うのぞみに京平は言う。


「綺麗だし、頭もそこそこなんだが。

 鈍臭いうえに、授業中、いきなり笑い出したりするんで、大丈夫か、こいつ? と思って。


 どんな男がこれを嫁にもらうんだろうな、とずっと気になっていた」


 ……それは、気になる、の方向性が違いますよね~。


「まさか、俺がもらうことになるとはな」

と京平は感慨深く頷いたあとで、


「だが、心配するな」

とまた心配だらけのところで言ってくる。


「言ったろう。

 お前を引き受けたからには、必ず、お前を幸せにしてみせると」


 だーかーらー、と不満だらけののぞみは京平に向かい言った。


「専務。

 そもそも、幸せって、人にしてもらうものじゃないと思いますっ」


 失礼しますっ、とのぞみは部屋を出て行く。

 だが、勢いよく出てきたものの、つい、閉まった重たい扉を振り返ってしまっていた。


 これで、この話も立ち消えるんだろうな。

 いくら樫山さんに負けたくないと思っていたとしても、反抗的な、元生徒で秘書な私など、めんどくさいと思うに違いない。


 このときは、そう思っていた。



 ようするに、この人の負けず嫌いを舐めていたのだ……。





わたしと専務のナイショの話

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