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燃やした翌日。紅上は『次は誰を殺すか』『殺すならいつのタイミングで――』なんてぶつぶつ考えていたが、俺はあることを思い出していた。
昨日会った警察官がものすごく美人だったことだ。
詳しく言うと、死体を燃やしている時に見張りで見かけた女警察官。そいつがあまりにも美人。
前の俺だったら間違いなく即声をかけていた。今だって近づけるなら近づきたい。
でも殺人の件は警察に知られている。昨日あそこで会ったということは俺らの事件を追っている警察官でもおかしくない。でもでも、声をかけたい。こんなところで俺のクズな部分が出てしまった。
俺はまたしても紅上の話を聞いていなかったわけだが、なんとなく話をまとめると次は『矢部ほのかを殺す』ということらしい。ナチュラルに元カノを殺す話題を話せる自分がそろそろ怖くなってきた。
矢部ほのかは法学部であり、言わずもがな容姿端麗。友達は多いイメージだったけど、紅上は次に矢部を殺すことを選んだ。残りの元カノも半分だし殺すのもやっぱり難しくなってるのか。あんなに
『俺が間違えるわけない』みたいな態度取りやがって。
大学芋美味かったからいいけど。
まさか自分が殺されるとも思ってもいない矢部ほのかはその日、不運にも1人になる機会があった。
『ごめんねほのか、今日急に行けなくなっちゃって』
「ううん気にしないで〜!また次あそぼ!」
そう返信を打ちながらほのかははぁと溜め息を吐く。友達が急に来れなくなった。つまるところ、ほのかは友達にドタキャンされたのだ。流石に気分凹む。
この余った時間をどう過ごそうか。この日のために服も選んだしメイクもしたわけで。このまま帰るのはなにか勿体無い。しょうがない、ショッピングにでも行こう!ドタキャンされた自分を慰めるために。
結局数時間ショッピングモールを歩き回り買い物をしてしまった。当初よりだいぶ多くのお金を消費してしまったけど、ドタキャンされた私の心にはこのぐらいの慰めが必要だ。
よし、帰ったら買ったコスメたち開封会をするぞ。とテンションが上がっていた。
なんだかんだで浮かれてしまった私の心は無防備だったのかもしれない。
ハッと気づいた時には真後ろに人の気配があった。こんな夜に真後ろに人がいるなんてことあるだろうか?いや、おかしい。そもそも今歩いている道は狭いわけでもない。わざわざ人の後ろに来るような人はいないはず。やばい!!と思い後ろに勢いよく振り返る。
危ないと感じたほのかは振り返り抵抗しようと思った。 が、その時にはもう紅上の手がほのかの喉に届いてしまっていた。
喉をグッと押され圧迫感と痛みが喉を刺す。酸素が脳に届かない。なんとか息を取り込もうと口を動かすも、抑えられた喉を通らない。苦しさと死への恐怖で目に涙が溜まる。
抵抗しようにも酸素がなく、体を動かせない。目さえ動かすのが限界だ。
喉を強く抑えられているからか、息をしようと呼吸器官を動かしているからか、吐き気さえ覚えた。苦しい。苦しい、苦しい。
そんな感情しか出てこなくなった脳で、死を悟る。
私の人生はまだここからだった。必死に勉強してきた。夢を叶えるはずだったのに。
本当ならここで苛つきを覚えたり、人生が終わる悲しみを覚えるのだろう。きっといつもの私ならそうなる。けど、なぜか今の私は全てが他人事のようだ。
肺から酸素が消える。
肌の表面が冷やされて寒い。
体から力が抜けていく。
最期の力で喉を締めてきた男を強く睨んでやった。そんなこと意味がないってわかってるんだけど。
矢部ほのかはそう思いながら目を静かに瞑った。
『成功だ』と東本のLINEへと送信する。夜の風に冷やされながら紅上はボーッと死体をどうするか考えていた。