テラーノベル
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どれくらいの時間、泣いていたのだろう。
室内から見える窓の外は、すでに暗くビル群の夜景だけがキラキラと輝いていた。
何時なのかな?
手探りでベッド脇のチェストから、スマホを取り時間を確認する。
「十二時……」
もう廉は寝たかな?
流石に夕飯冷めちゃったよね。
あんな事にならなければ、一緒に夕飯を食べられたのかな。
落ち込みそうになる気持ちと共に、廉に押し倒された時のことを思いだし、止まったはずの涙が込み上げ、小さく嗚咽を漏らす。
あんな事をされて気づくなんて、皮肉よね。
結局、今でも廉が好きなのだ。
廉と別れてから三年、彼の存在を忘れようと手を尽くして来た。でも今思えば常に廉の存在を意識していた三年間だった。
良い雰囲気になった男性がいなかったわけではない。ただ、付き合うとなると無意識に廉と比べている自分に気付き、恋人関係になることはできなかった。
いつだって廉の存在を意識していた。
「本当、最低な女よね……」
好意を寄せてくれた過去の男性の顔が脳裏をよぎり罪悪感で心が沈んでいく。
廉に身体を弄られ、裸を見られて泣いてしまったのも、性のはけ口としてしか見られていない現実に絶望したからだ。好きな人をキッチンで押し倒すなんて、野蛮な行為をするはずがない。
廉の想い人、川口さん相手なら大切に大切に扱うに決まっている。
三年前に勝手に別れを切り出し、音信不通になったことに怒っているとしても、あんな仕打ちは酷過ぎる。
泣くほど悲しくて惨めでも、逃げ出せない今の状況は絶望でしかない。
「あんな最低な男を嫌いになれない自分が一番たちが悪いんだろうな……」
ぽつり呟いた言葉が静かな部屋に響き、消えていく。次から次へと流れ落ちた涙が、握りしめた手に落ち濡らす。静かな部屋に響く嗚咽は、やむことなく続き、時間だけが過ぎていった。
♢
「喉渇いたな。三時か……、流石に廉も起きていないよね」
ひとしきり泣いて、やっと涙が枯れた美咲は、ベッドから起き上がり、リビングへと歩き出した。
物音を立てないようにリビングの扉を開け、キッチンへと向かう。冷蔵庫からミネラルウォーターを取ると、リビングにある大きなソファへと座り、腫れぼったい目にペットボトルを当てた。
冷たくて、気持ちいい……
明日の朝は、絶対ひどい顔になってる。目がパンパンに腫れて、顔も浮腫んでいるんだろうなぁ。
そんな顔で大学に行けば、友達に色々詮索されそうで嫌だ。
休みたい……
美咲は、目元からペットボトルを外し、ひと口飲む。冷たい水が混乱した頭を冷やしてくれる。
部屋に戻るのも嫌で、ボンヤリと外の夜景を見ていた美咲に声がかかった。
「美咲? 起きてたのか……」
背後から呼びかけられた声に、反射的に振り向き後悔した。廊下の間接照明に照らされ、ネクタイを緩めたワイシャツ姿の廉が立っていた。
美咲は慌ててソファから立ち上がり駆け出す。しかし、廉の横を通り過ぎる瞬間、腕を掴まれ引き寄せられていた。
「――離して!!」
「頼むから落ち着いて。美咲ときちんと話をしたい」
「何を話すことがあるって言うのよ! 私は廉にとって何なのよ。勝手にアパートを解約されて、両親も懐柔されて、家無しの私は廉を頼るしかない。私を支配して思い通りに扱って満足!? 廉にとって私なんか性のはけ口にするには丁度いいんでしょうね!」
今までの惨めな想いが堰を切ったようにあふれ出す。一度ぶち撒けてしまった想いを止めることなど出来なかった。
廉に酷いことを言っているのも分かっていた。しかし、美咲の想いは止まらない。
「――でも、身体は廉に許しても、心まではあげない。貴方を好きになんて、絶対にならないんだから!」
「美咲への想いを性のはけ口と切り捨てるのか! 美咲と連絡すら取れなくなった俺が、どんな想いで三年間過ごして来たかなんて、考えもしないんだな」
激情を押し殺した静かな声が、美咲の恐怖をあおる。しかし、血が昇った美咲もまた引けなくなっていた。
「廉の気持ち? そんなの知りたくもない!」
「分かったよ……、望み通り、性のはけ口にしてやるよ!!」
廉の激情に触れ、怒鳴りつけられた美咲は廉に担ぎ上げられ彼の寝室のベッドの上へと放り投げられていた。慌てて起き上がろうとした美咲の上に廉が馬乗りになる。
「性のはけ口なら雑に扱ってもいいよな!」
かぶりつくようなキスを落とされ、無理矢理歯列をこじ開けた廉の舌が、口腔内を犯す。
抵抗するべく伸ばされた美咲の手だったが、掴まれ廉の首元から解いたネクタイでひとまとめに括られ、ベッドヘッドに固定されてしまった。
「なっ、何をする気よ!?」
「三年間、俺から逃げ回ったツケを払ってもらう。望み通り、ひどく抱いてやるよ」
ギラついた目を向けられ美咲の喉が鳴る。
今更後悔しても遅かった。
廉の怒りに燃える瞳を見つめ美咲は覚悟を決めた。
こんな悲惨な状態で、好きで好きでたまらない人と結ばれるなんてね。
あの時、廉から逃げた報いなのかな……
コメント
1件
あー、もう、読んでて胸がギュッてなったわ……。美咲の「好きで好きでたまらない人と結ばれるなんてね」って内心、切なすぎる。身体は許しても心は渡さないって言い張るところも、逆にまだ好きだからこその強がりにしか見えなくて、泣ける。廉の三年間の想いも気になるし、この喧嘩の先がどう転ぶのか、続きが気になって仕方ない🔥