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ニブルヘイム遠征から二年数ヶ月が経ったこの日、結城(ゆうき)昭(あきら)と吹木(ふいぎ)悠亜(ゆあ)両氏の結婚披露宴が都内某所のレストランで極々近しい者たちを招いて開かれていた。
二人の愛の結晶である長男が誕生してから既に二年が経っていたが、披露宴がこの時期まで日延べした理由は、社会情勢や新郎新婦の仕事が忙しかっただけではない。
結城昭は丹波(たんば)晃(あきら)、秋沢(あきざわ)明(あきら)、幸福(こうふく)光影(みつかげ)と共に、変態したトカゲ、凶暴化した牛、石化死した患者や無機物から次々と発見された鱗(ウロコ)や魔石の研究にオフの殆(ほとん)どを費やしていた。
新婦の悠亜も、産後暫(しば)しの休養を過ごした後、コユキや善悪の遠征に同行して、顕現した悪魔との折衝(せっしょう)や魔獣化した野生動物の保護、世界中の聖女聖戦士達から協力を取り付ける為の会議などに出席して忙しく働き続けていたのである。
当人達は既に開催しないつもりでいた様だったが、周囲に進められ今日の日を迎えたのであった。
親しい者達だけで集うフランクなパーティーは立食形式で形式張らない楽しげなムードである。
新郎新婦だけで無く、招かれたゲストも肩肘張らない、普段使いできる感じの洋服に身を包んでいた。
「ふー窮屈だわ…… こんなの着てたら人並みにしか食べれないじゃないの……」
「まあまあ、今日は食事よりも二人を祝福するのが目的でござるよ、我慢しなくちゃね」
「判ってはいるんだけどさ」
誰もがグラス片手に自由に歩き回っている中、他より少し大きめのテーブル(三倍位)に、大きく書かれた『幸福夫妻専用』の文字。
テーブル上の料理も一目で他の十倍位は用意して有るのが判る、結城夫妻の心尽くしであろう。
最近一緒に過ごす事が多い悠亜の親気分なのだろうか、カナッペを口に放り込み続けているコユキは黒留袖(くろとめそで)姿であり、横に立つ善悪は僧衣に袈裟(けさ)、更にはオキニの観音帽子(かんのんぼうし)で周囲から浮き捲っていた。
「どうですか、足りなくないですか、コユキさん?」
「っ! じゅ、充分よ結城さん、ほらまだまだこんなに沢山、美雪はまだ離乳食だし」
「そっか家の子はもう終えたんで、うっかりしてたな、用意すれば良かったですね」
慌てた様に口にした結城昭の言葉に、善悪は自分の横に立っている女の子の頭を撫でながら答えた。
「いやいやそこまでして貰ったら流石に恐縮じゃ済まないでござるよー、心配御無用、ここに来る前にたっぷりと食べさせてきたのでござる、一般的な子の五、六倍はペロリなのでござるよ」
言われて視線を善悪から隣の子供に移すと、先程まで無表情でこちらを見ていた肥満体系の女の子は、ニタアとした笑顔を浮かべて上目遣いで意味有り気に彼を見つめている、私の母である。
「へ、へえー」
「体重ももう二十キロ超えたのよ、全く誰に似たのやら」
「だ、誰って、そ、そりゃあ、えっとぉ……」
「なはは」
結城昭が言い澱みコユキがイタズラ成功とばかりに笑っていると善悪の従兄弟、光影が歩み寄りながら声を掛けてきた。
「おいおい真面目な結城をからかうんじゃないよコユキさん、美雪ちゃんも駄目だぞっ! めっ、だ」
「みっちゃんオジタン!」
「美雪ちゃん! こんにちわぁ!」
光影の足に抱きついた美雪に笑顔で声を掛けた少年にコユキが中腰になって話し掛ける。
「おお、又大きくなったわねナガチカ君、今幾つだったっけ?」
「九歳だよ、小学校三年生ぇ! 大きいひ、えっと、コユキおばさん!」
コユキは帯が腹に食い込んで死ぬほど苦しかったのですぐに姿勢を戻しながら笑顔で言う。
「そんな風に呼ばなくても大きい人で良いわよナガチカ君、実際いろんな意味で偉大ではあるしね、アタシったら」
「うん、大きい人は肥大だって、いつもパパとママが言っているよ♪ 美雪ちゃんっ!」
「ひ、肥大?」
「ナガチタっ!」
驚きの顔を浮かべるコユキを他所(よそ)に小さな美雪に対して大きく手を広げた長短(ナガチカ)の元に、ヨチヨチではあるが勢いよく飛び込んだ我が母を、しっかりと抱きとめた我が父、長短少年である、一人息子としては感慨一入(ひとしお)だな。