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衛二さんに手を振られ、振り返した俺は家へ帰る。家に着いてスマホを確認すると、衛二さんから『よろしく』というスタンプが送られてきていたので俺もスタンプを返した。
次の日、俺はいつも通り接客をする。そしていつもの時間に衛二さんがやってくる。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいました~」
いつもは言わないことを言っている。どうしたのだろうか?
「お好きな席へどうぞ」
「はーい」
俺は水とおしぼりを持って衛二さんの席へ行く。
「ご注文は…」
「いつもので」
いつもはここでランチセットAというのだが。やっぱり今日の衛二さんは何か変だ。
「ランチセットAですね。他にご注文は?」
「大丈夫です!」
いつもより元気に返事をする衛二さんに勤務中でありながら、俺はつい聞いてしまう。
「…衛二さん、なんかテンション高くないですか?」
「そうですかね?」
「はい、すごく」
「あ~…多分、奏人くんと友達になれて嬉しいからだと思います」
ニコニコしながらそう言う。
「そんなにですか」
「そんなにです」
「…サンドイッチセット準備するんで、少々お待ちください」
なんだか少し恥ずかしくなって颯爽とその場を離れた。伝票を持って厨房に行き、衛二さんの言い方を真似しながらお父さんに伝票を渡す。
「いつもので」
「なんだそれ…ランチセットA?あ、もしかしてあのイケメンの常連さん?」
「そう。衛二さんね」
「なんだお前、あの人と仲良くなったのか」
「うん。まぁ、なんか俺と友達になりたいんだって」
「へぇ~…なんか意外だな。あの人、あんま人と関わりたくなさそうだし」
「まぁたしかにね…俺も友達になりたいって言われた時はびっくりした」
そんな会話をしていると、お母さんも会話に入ってくる。
「良かったじゃない、友達出来て」
「まぁ、まだ昨日一緒に夜食べただけだけどね」
「これからもっと仲良くなるわよきっと!」
「そうだね、なんか不思議な人だけど。」
「そういう人の方が案外一緒にいて楽しかったりするんだよ」
「そうかな?」
「おう、俺の中学ん時の友達も、なんかちょっと変わったヤツだったけど、一緒にいて飽きなくて毎日楽しかったぞ」
「そういうもんかな?」
「そういうもんだ!ってほら、早く持ち場に戻る!」
「はい!」
俺は敬礼して厨房から出た。しばらくすると、とある女性客が訪れた。そして、衛二さんの横の席に座った。その席へ水とおしぼりを持っていく。
「ご注文決まりましたら…」
すべて言う前に女性客が言う。
「横の人と同じやつでお願いします!」
「あ、はい。ランチセットAですね。他にご注文は?」
「大丈夫で~す」
「かしこまりました。少々お待ちください」
厨房へ向かいながら、俺は疑問に思う。なぜ衛二さんと同じものを頼んだのだろう。ランチセットAが美味しそうだったから?それとも、衛二さんに一目惚れでもしたのだろうか。
厨房へ伝票を渡し戻ると、衛二さんは先程の女性客に話しかけられていた。どうやら後者だったようだ。衛二さんが逆ナンされている。
俺はつい気になってしまい、1度拭いたテーブルをもう一度拭きながら聞き耳を立てる。
「配信見てきました!生で見てもとてもかっこいいですね!」
「…ありがとうございます」
衛二さんは普段の鋭い目でそう言う。
「そのっ…今彼女さんとかっているんですか?」
「…いないです」
「あっ、そうなんですね!あの、良かったら今度食事にでも…」
「すみません。僕、好きな人がいるのでそういう事は出来ないです。」
「えっ」
思わず声が出でしまった。そんな俺を衛二さんはチラッと見るが、また女性客へ視線を戻す。
「あっ、そうだったんですね!なんかすみません!あの、失礼しました!」
女性客は慌てて席へ戻る。と言っても隣の席なので、なんとなく気まずそうだ。その後女性客はランチセットをサッと食べ、逃げるように店を出ていった。
その日からあの配信を見た人がよく来るようになった。衛二さんに話しかける人もたくさんいた。逆ナンしてる人もいたが、「好きな人がいるので」といい、断っていた。
そして一方で俺たちは、度々食事やゲームセンターなどに行くようになり、いつの間にかため口で話すほど仲良くなっていた。
そんなある日、女性客が来店した。
「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ」
女性客は衛二さんの横の席に座る。この光景にもすっかり慣れていた俺は、水とおしぼりを持っていく。
注文を取り、伝票を渡す。しばらくして業務を続け、ふと衛二さんの方を見ると、また逆ナンされて振っていた。この光景もすっかり定番だ。そんな2人の元をたまたま通り過ぎると、女性客にふと呼びかけられる。
「あの!」
「…はい、なんでしょうか」
「お兄さんも少し配信に映ってましたよね!」
そういえばそうだった。あの時席を立った衛二さんをカメラが追った時。やっぱり映っていたらしい。
「あぁ…映ってましたか」
「はい!その、私、この方に会いに来たんですけど、実はお兄さんのこともかっこいいなって思ってて」
衛二さんに振られたら次は俺か。でも、かっこいいと言われ、俺は少し照れてしまう。
「ありがとうございます、なんか照れちゃいます」
「あの、お兄さんはお付き合いしてる方いるんですか?」
「あぁいや、俺は…」
「奏人くん」
後ろからそう呼ばれる。振り向くと、衛二さんがこっちを見ていた。衛二さんは自分の目を指さした。その指の先の目を見た時、鋭い目と目が合う。
『いるって答えて』
多分、そう言った。それくらい小さな声だった。俺は女性客の方をもう一度見て、答える。
「います。」
「あっ、そうだったんですね…すみません、急に呼び止めちゃって」
「あっ、いえ、全然。では、失礼いたします。」
そう言ってその場を離れようとしたが、ふと疑問に思う。俺はなぜ「います」と答えたのだろうか。俺はたしかに、「俺はいません」と答えようとしていた。実際居ないのだから。そういえば途中で衛二さんに呼ばれて目が合った時、「いるって答えて」と言われた。俺はその通りにした。どうして?俺は不思議に思い、衛二さんの方へ寄る。そんな俺を衛二さんは見る。
「衛二さん、今のって…」
そう言いかけた時、またあの鋭い目で衛二さんは言う。
『あんまり深く考えちゃダメだよ』
そう聞いた瞬間。俺の頭からさっきまでの疑問が全て消えた。だって、考えることなんて何もないのだから。
「…わかった」
衛二さんはニコッと笑った後、あくびをした。そして俺は業務に戻った。
その日からしばらくして、俺たちは夏祭りに一緒に行くことになった。
夏祭り当日、営業終了時間になり、カフェを片付け、浴衣を着て外へ出る。衛二さんがカフェの外でまで迎えに来てくれるからだ。少し待つと、衛二さんが来た。相変わらずイケメンな彼は青の浴衣がすごく似合っていた。
「やっぱり衛二さんはかっこいいな~、浴衣が良く似合う」
「ありがとう、奏人くんも似合ってるよ」
「そーかな?」
「うん、すごく似合ってる。それじゃあ、行こっか」
祭りの会場に着くと、様々な屋台が並んでいた。
「色々あるね。何から食べようか?」
「俺、焼きそば食べたい!なんか祭りの焼きそばって特別美味いんだよな~」
「わかる。なんか普通の焼きそばなのに、すごい美味しく感じるよね。」
そして俺たちは焼きそばを1つ買う。
「やっぱりうめぇ~わ」
「僕も1口貰っていいかな?」
「箸2個貰ったから1口と言わずじゃんじゃん食べちゃってよ!」
「いいの?ありがとう。」
衛二さんは俺から箸を受けとり、焼きそばを食べる。
「うん、すごく美味しい。奏人くんと食べてるから余計に美味しいな。」
出た。もうすっかり慣れてしまった衛二さんのタラシ発言だ。俺は気にせず食べ続ける。焼きそばを食べ終わったあとは衛二さんが唐揚げを買った。
「うん。美味しい。奏人くんも食べる?」
「あ、じゃあ1個貰おうかな」
俺がそう言うと、衛二さんは爪楊枝で唐揚げを1つ取り、俺の口元に差し出す。
「はい、あーん」
「うまっ!クソ美味い!!」
「じゃあ、もう1個。あーん」
「美味い~」
俺が唐揚げを頬張っていると、衛二さんはクスッと笑う。
「何笑ってんの」
「だって、あーんって食べさせてるのに素直に食べてくれるから」
「あのね、衛二さんと一緒にいたら誰でもこうなるよ?タラシ衛二さん。」
俺がそう言うと偉二さんはふふっと笑う。
「またそんなこと言って。僕はタラシじゃないよ。」
「タラシでしょ。奏人くんと食べてるから余計に美味しいって言ったり、あーんって言いながら食べさせて来たり。タラシ以外の何物でもないよ」
呆れた顔で俺がそう言うと、衛二さんはニコニコしながら言う。
「そ~かな?僕、奏人くんにしかそういう事言わないし、しないけどな~」
「…そういうとこがタラシだって言ってるの」
「だって本当のことだから」
「ふ~ん。好きな人いるくせに」
「なに?僕の好きな人、気になるの?」
「いや別にそういう訳じゃ…」
まぁ、気にならないと言えば嘘になるが。衛二さんの好きな人が気になるというより、こんなイケメンに好かれるなんてどんな人なのか気になるだけだ。
「あの!」
突如、2人組の女性に声をかけられた。
「はい」
「その…良かったら4人で一緒に回りませんか?」
そう言って衛二さんの方を見ている。ここでも衛二さんは逆ナンされるのか。そんなことを考えていると、衛二さんはさっきの笑顔が嘘かのような鋭い目に変わり、答える。
「僕たちの邪魔、しないでくれる?」
「えっ?」