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【鈴木side】
「あははっ、」
警備室に響く、僕の甲高い笑い声が無駄に大きく聞こえるのは気のせいだろうか。
そう、この悪夢。
ざわつくのを収められないネット民も、すぐ横で驚きが隠せない彼も、全て僕がやったことだ。
「…す…鈴木ちゃん?」
「あのコメントいいねしたの僕だって信じたんですか」
「?!」
…本当に馬鹿らしい。人の事信じれなくなったからってたった一人の友人だけを信じてちゃあダメなんだよ。
どうせこうやって裏切られるんだから。
あの日、ドアを閉める音と共に僕は決意した。
桐山さんとの日々を失うのが怖かった?
いや、そんなことはない。今まで通り、いつもどうりの話だ。そんなの僕の復讐がなくたって1年後には無くなるんだから。
僕は、凛子の形見であるiPhone7を片手に、その画面越しのネット民に言い放つ。
「…皆さんはルーを殺しますか?それとも自分を晒しますか?」
僕の頬に冷たいものが伝う。
「…さぁ、選べ」
「鈴木ちゃん…」
僕は名前を呼ばれたが振り返りはしない。それでも彼は話続けた。
「鈴木ちゃん、なんで…信じてた…俺は。お前、本当に…なんでなんだよ!!」
彼は今、混乱状態で、次から次へと脳内で聞きたいことが出てきて言葉が詰まっているってところか。
「いや、なんでって」
僕は鼻で笑う。
「もとから“こう”する予定だったし…。警備王さんにはちょっと感謝するぐらいかな?」
僕は振り返り、しっかり“警備王”を見てはなした。
「お前みたいなやつ本気で関わろうとしてるやつなんかいたかよ。いねぇだろ。だから友人に殺されかけたし、そいつらに裏切られた」
「っ…」
彼の顔には焦りと緊張による汗が出ていた。
僕は彼をしっかり見つめてあげた。もう、すっかり冷めてしまった目で。
…もうすぐ終わるから。大丈夫。
その意味も込めて少し笑って見せる。彼からしたら、不適切な笑顔にも見えるだろう。
貴方は知らない。僕がどんな気持ちでいたか。今までどれだけの幸せを逃したか。分かるわけない。分かろうとしなくていい。
そして、自分が先に僕を裏切ったことさえも自分で気づいていない。僕は貴方のことを特別だと言った。それも嘘じゃない。本当に貴方を“特別”だと思って最初に選ばしたんだ。
貴方なら、桐山さんなら、きっとBADボタンを押してくれるだろうと。
でも、貴方は迷った末、僕の期待を裏切るボタンを押した。
僕の方こそ大概馬鹿だ。なんで淡い期待を彼に寄せてしまったんだろうと思う。そりゃ、自分の方守るに決まってるもんな。
『殺しちゃダメだ!!』
そう、叫ばれた時には、彼のボタンの選択は変わっていた。その偽善者ぶりが僕の怒りを余計掻き立てた。
どれだけの時間が過ぎただろう。もう、後戻りは出来ない。ネット民が選択するのはやはり僕を応援するボタンだ。圧倒的にこちらの方が数が多い。
…決まりだな。
僕は再度画面に向けて問いかける。
「皆さん、投票は済みましたか?今から結果を言います」
「…おい!まて!!」
彼の止める声など雑音に過ぎない。さすがに彼も動く力はなく、声だけで止めようとしている。
「…マジで殺すのか…?」
「…さぁ、準備はいいですか」
「嘘だろ…」
【桐山side】
「…マジで殺すのか…?」
そう、自分で言ったことであの日がフラッシュバックする。目の前に立つ、鈴木…渡辺珠穆朗瑪。彼が宇治原に見えて仕方ない。
俺はあの日に戻れるなら戻りたい。平凡で、莫大な借金も抱えることもなくて。何よりその変わらぬ毎日が楽しかった。
そして、“イツメン”である宇治原、茂木と一緒にもう一度、あの日のまま会いたいと、唐突に思った。
あの日に戻れるなら、俺は必ず宇治原を止める。怯えて動けなかったあの日の俺、なんて情けないんだろうか。友人を人殺しにしてしまったのは俺なんじゃないかとぐるぐる悩んだ。
でも、時間なんで戻らないし叶わない。
今、この状況はあの日目にしたあの光景と同じ。チョモランマは宇治原に、画面越しのサテツは茂木に。
また、俺は友人を人殺しにするのか?
そうやってみて見ぬふりして生きるのか?
ダメだ。絶対に。
俺は立ち上がるのでやっとな重い重い足を走らせた。そして思い切り彼に突進をかます。
「いっ?!」
[チョモッ?!]
いくら男でも、自分より一回り大きなやつに体当たりされたらそりゃ吹っ飛ぶだろうな。
…今度こそ、助けないといけない。裏切られたという苦しみで溺れた友人を。人殺しにしてはいけない。ちゃんと手を取って、止めなければいけない。
スマホを落として、うずくまったままの彼を横目で見て、すぐさま屋上へ向かう。
「…っくそがッ!!」
途中、彼による大きな罵声がとんできた。
それでもいい。ふるはうすの復讐を邪魔したやつとして嫌われてもいい。だから…。
『殺しちゃダメだ!!』
そう、俺が叫んで止めたのは、偽善者ぶりたかったからじゃない。日本の、いや、世界中の何処へ行っても、人殺しはしてはいけないと言われるだろう。でも、俺が彼らを止めるのはそんな理由なんかじゃない。もっと純粋で、もっと勝手な思い。
人殺しにしたくない。
それだけだった。
もし、彼らのしていることが復讐ならば、俺はそのまた復讐とでも言えようか。
「…っゲホッ、はァッ…ッはぁ」
階段を何度走ったかなんて覚える暇もなく、ただただ最上階へと走り続ける。
あとひとつの階段を登ればというところで足と体力に限界が来る。
「チッ、クッソ。動けよッ!!」
俺は独り言を叫びながら、こういうところで毎度止まってしまう自分に怒りを覚える。
…間に合うのか?
いや、間に合わせる。間に合わせなければいけない。
俺は、人生で初めてであろう、限界を超えてのふんばりを見せた。
やっとの思いで最上階につくと…
「…はぁ?!あんた…警備王…」
「!!ンー!んんっ!!」
俺の到着に驚くサテツと、箱の中で椅子に縛られ、口元がガムテープで覆われているルーを見つけた。
まだ生きている。…間に合った。
まず、俺は彼が撮っているカメラをすべて取り、視聴者に見せないようにする。そして、すぐさま殺し道具であろう、弓矢のようなものを取り外した。
この俺の冷静さは、この時のためにあったのかと思うほど頭が異常に働いた。
動揺が隠せないサテツはついに、今の自分の危機ではなく、チョモランマの危機に触れた。
「待てよ…チョモは…?お前まさか」
「殺してねぇよ」
こいつ飛んだ野郎だなとか思いながら、彼を脅す。
「…でも、死にかけかもな」
「…は?…今なんつった」
よし。もう一押しだ。彼がチョモランマが危険だと思えばすぐ警備室へと向かうだろう。相手は冷静なんかじゃいられないから、頭をフル回転させられずに急いで走っていくはず。
これをするための突進だった。チョモランマはきっと病気とやらで簡単に復帰できないだろうが、自分で何とかできるほどであると知っている。この前、彼は、何かあった時用の為にと自分のポケットに薬を入れていたのを知っているし、実際目の前で、俺が混乱している時にポッケから薬を口に運んだのを見た。
あとは彼女を救うのみだが…
「…いいのか?本気で死にかけてんぞ。俺は思い切り体当たりしたんだ。今頃倒れてるよ」
「ッ!!」
彼は咄嗟に警備室へと向かって走り抜けた。
…成功だ。
俺は、友人を人殺しから避けられたことを嬉しく思った。でも、これで終わりじゃないことは確か。
俺はルーに貼られているガムテープと縛られている紐を解く。
彼女は驚いた目をして、座ったままこちらを見た。
動揺しているんだろうかと、「大丈夫か」と問いかけてみた。
「…あ、はい…。あの…ほんとに…助かりました」
「…?」
なんだろう。この違和感。ほんとにこの人はありがたく思っているのだろうか。妙に端的で冷静だ。
それとも、元々顔に出ないタイプで、彼女はカメラの前では演じていたのだろうか。
いや、どっちにしろどうでもいい。早く逃げさせないと。
「あんた早く逃げろ。多分また来るだろ」
「ッはい。ありがとうございます」
さっさと出ていく彼女を見送った後、安心からか、猛烈な疲れが襲い、そのまま仰向けに倒れた。
「…終わった…のか…?」
閉ざされたこの部屋の天井を見つめ、深くため息を着いた。