妖怪ウォッチ十周年ということを最近知ったので書きました。
…本気出して書いてるのはコレじゃないです
私たちは10年時を刻んできましたが、ケータ君達はまだ五年生の夏休みを過ごしてると思うと寂しくも悲しくもなりますね。
捏造、自己解釈の詰め合わせです。
真打のゲームの世界線です。
「ウィスパー!指名手配妖怪、どっちに行った!?」
「右の方向に逃げましたよケータきゅん!」
「あっ、いた!ジバニャン、お願い!」
「ニャー!オレッチに任せろニャン!」
真夏の日差しが爛々と照りつける、ケマモト村の山のふもと。
ケータと彼の執事(自称)妖怪であるウィスパーと、居候妖怪のジバニャンは指名手配妖怪を追って右に左に奔走していた。
「ひゃくれつ肉球ー!ニャニャニャニャ!」
ジバニャンお得意の必殺技が指名手配妖怪にヒットし、戦闘不能にする。
「よーし!オレ達の勝ちだ!」
動けなくなって御用田さんに連れて行かれた妖怪を見て、ケータは無邪気に喜んだ。
悪い妖怪をやっつけて、気分はまるでヒーローだった。60年前にケイゾウがガッツ仮面に憧れていたように、ケータも正義の味方には憧れていたのだ。
「お見事でしたよ、ケータきゅん!」
「やったニャンね!ケータ!」
「うわっ!ちょっと、もう!暑いから離れてよ〜」
喜ぶケータにつられてか、ウィスパーとジバニャンも喜び、ケータに抱きつく。ただ、先ほどまで走っていて、火照った体には少々暑すぎた。ケータは文句を言いながら二匹を引き剥がす。
「あ〜、この後何しよっかな〜。虫取りにしようかな〜、魚釣りにしようかな〜、それともゲラゲラ温泉にでも行こうかな〜 」
小さな切り株の上に座り、ケータはこの後の予定を考える。遠い所でもうんがい鏡でワープできるから、どんな予定も実現可能だ。
「どれも良いアイデアですねぇ…。時にケータ君、きもだ飯でご飯などでもいいんですよ……じゅるり」
「それ、自分がそこで料理食べたいだけだろニャン」
「ぎくりんこ!いいい、いや、そんな事はごさぁせんよ!ワタクシはケータきゅんの執事としてですね………」
図星を突かれたのか、目が泳いで大量の汗をかき始めるウィスパー。相変わらず、嘘をつくのが下手くそだ。
「ウィスパー、よだれ出てるよ」
「あ、本当ニャン!てか、汗が出すぎてよだれと区別が付かないニャン。キモいニャン」
「んだとてめぇ!このジバヤロウ!!」
「ニャーン、怖いニャン…。ケータ、助けてニャン…」
ジバニャンの挑発に簡単に乗ったウィスパーが、執事にあるまじき言葉使いでジバニャンに詰め寄ると、ジバニャンはケータの肩に隠れて助けを求める。
「もう、二人ともうるさいよ!時間は沢山あるし、今日は妖魔界で遊ぼ!」
そう、トキヲ・ウバウネを倒して、怪魔事件を解決した今、ケータ達には無限と言って良いほどの時間があった。
ある日はナギサキで釣りをし、ある日は博物館の展示品を求めて奔走し、ある日は60年前に行って、ケイゾウ達と遊んだり……。
そんな感じで、夏休みを何周してもおつりが来るほどの日数を遊んで過ごしても、夏休みは終わらなかった。ずっとずっと、夏休みのままなのだ。
だが、そんな異常事態を子供であるケータはすんなり受け入れた。寧ろ、学校が始まらない事に喜びすら覚えていた。
「それはいいアイデアニャンね!」
「うぃす!ワタクシも同感でうぃす!」
「よーし!じゃあ、うんがい鏡のとこに行って妖魔界に行こう!」
目的地が決まったケータ達は、おばあちゃんの家にいるうんがい鏡へと走って向かった。
「うんがい鏡!妖魔界まで!」
待ちきれないといった風に足をバタバタさせて、ケータはうんがい鏡に頼む。
「ぺろーん」
そんな間の抜けた声がすると、ケータ達はうんがい鏡の中へと吸い込まれていった。
次に目を開けると、そこは色鮮やかな建物が並んでいる妖魔界だった。
「わぁ…!いつ来てもすごいなぁ!」
ケータがいつもの街とは違う、妖魔界ならではの大きな建物に見惚れていると
「ケェータァー!早く行くニャン!」
「そうですよケータ君!ささ、早く行きましょう!」
後ろからくっついて来たジバニャンとウィスパーが背中を押して急かしてきた。
「わ、分かってるよ!」
そう返事をして、ケータ達は妖魔界へと繰り出した。
「はぁ〜、いっぱい遊んだね!」
妖魔界を遊んで遊んで遊び尽くして、気づけばあんなに高く登っていた太陽も、空に消えようとしていた。
「そうでウィスね〜。ワタクシ、もークタクタですよ〜」
「ニャー、オレッチはまだまだ元気ニャンよ!まだまだ遊べるニャン!」
「うーん、でもお母さんも心配するから、そろそろ帰ろっか!」
心配する母の顔を思い出し、名残惜しさも感じながら、帰ろうとうんがい鏡を探した時だった。
「あれ、おもいで屋だ」
古びた路地裏の奥。こぢんまりとした古い店が〝おもいで屋〟と書かれた看板を掲げていた。
「オレ、ちょっと寄って行ってくね!」
「あっ、ケータきゅん!寄り道はダメでウィスよ!危ないです!」
「ニャー!ケータ、どこ行くニャン!」
ウィスパーもジバニャンも慌てて追いかけるが、急に走り出した小学生男子の方が足が速い。ケータはあっという間に、おもいで屋の中に消えていってしまった。
「わぁ……すっごいなぁ…」
おもいで屋の店内は、相変わらず所狭しとアイテムが並んでおり、中にはSランク相当のアイテムの見掛けられた。
妖怪ウォッチを取り戻す時にお世話になった以来の店内に圧倒されつつ、ケータは奥は奥へと進んでいく。
「…いらっしゃい。時を刻まぬ少年よ」
「店主さん!久しぶり!時を刻まぬ少年って、オレのこと?」
「君以外に誰がいるのさ。……そうだね、少年。少し、面白いものを見せてやろう」
「面白いもの!?見たい見たい!!」
小学生持ち前の好奇心で二つ返事をしたケータは、おもいで屋の店主に連れられてさらに奥へと進む。…おもいで屋の外で、ウィスパーとジバニャンが連れ戻そうとしてることも知らずに。
「さぁ、到着だ。…ヤミカガミ、頼んだよ」
店主が連れて来た所は、薄暗くて奥まった、倉庫のような場所だった。角の方に、うんがい鏡に似ている妖怪がいる。
「あれ?うんがい鏡じゃない…?」
「ぺろーん」
ケータが異変に気付いた時には時すでに遅し。子供の小さな体は、あっという間に鏡に吸い込まれていった。
「あれ…俺、何してたんだっけ?」
目を開けると、そこは自宅のベッドの上だった。隣にはお嫁さんのフミちゃん用のベッドが置かれていた。
「おとーさん!いつまで寝てるの!?今日は家族で出かけるんでしょ?」
遠慮なくドアを開けて、三つ編みを両肩で揺らす娘のナツメが入ってくる。
「ナ、ナツメ…。ごめん、そうだったな」
ぼんやりとした頭を押さえて、記憶を手繰り寄せる。
そうだ。今日は家族で過ごす約束をしてたんだ。ケースケがどうしてもって強請るから、今日はナギサキに……。…本当に?
「まったく…。あ、ほら、腕時計。支度して早く行こうよ!」
「あ、あぁ……ありがとう」
ナツメが手渡してくれた、プレゼントの腕時計をつける。結婚記念日に、フミカから送られたものだ。
手首によく馴染んだ、いつもの腕時計だ。なんの変哲もない、普通の腕時計。
いつもなら、何も気にせずに着けていた。だけど、今日だけは何か途轍もない違和感が襲って来た。
「…な、なぁナツメ」
「何?どうかしたの、お父さん」
「…俺がいつも付けてる腕時計って…コレだっけ?ほ、ほら、妖怪……ウォッチが…」
拭いきれない違和感に耐えられず、ついそんな事を聞いてしまう。
しかし、現実主義のナツメから帰ってきたのはすげない言葉だった。
「妖怪?お父さん、ケースケとアニメ見過ぎだよ。そんなの、現実にいるわけないじゃん」
「違う!妖怪は…いるぞ!俺のトモダチ…なんだ…。おおもり山のガシャから出てきて……トラックを倒す練習をしてて…」
「だーかーらー、アニメの見過ぎ!」
「…違う…アニメなんかじゃない…ウィスパー、ジバニャン…そうだ。俺の…オレの、トモダチだ!」
そう叫んだ瞬間、頭を覆っていた霧がはれたかのようにクリアになる。そうだ。オレはおもいで屋の店主さんに……。
「…少し大人気がなかったな。戻っておいで、少年」
ケータが気付くと共に、おもいで屋の店主の声が聞こえる。次の瞬間、視界がぐにゃりと歪んで、「ぺろーん」と声が聞こえた。
「わっ…うわぁ…っ!」
ドダン!と勢いよくヤミカガミから吐き出されたケータがすっ転ぶ。顔面を打ち付けて、かなり痛そうだ。
「おかえり、少年」
店主がゆっくりと歩み寄って起こしてくれる。ケータは店主に問うた。
「店主さん……あれは、なんだったの?ウィスパーも…ジバニャンも…妖怪ウォッチもない…」
「…可能性の一つ、といったところかな。君が歩むであろう、幾億千万の可能性のうちの、一つ。私はそれを見せたに過ぎんよ」
「…オレ、ウィスパーやジバニャン…皆んなと〝おわかれ〟しなくちゃいけないの?妖怪の見えない…大人になっちゃうの…?」
不安に駆られ、答えを求めてそう問いかける。嫌だった。トモダチの皆んなと、この夏の冒険と戦いを忘れたくなかった。
「落ち着くのだ、少年。あれは可能性の一つ。絶対にそうなるなんて事は無いのだよ」
「そ、そっか……。オレ、お母さんが待ってるからそろそろ帰るね」
「そうか。また会う時まで、おもいで屋は君を待ってるぞ」
ケータは店主に手を振ると、振り返る事なくおもいで屋を後にした。もう会う事がないことを、ほんの少しだけ祈りながら。
「ケータきゅん!!ご無事ですか!? 」
「ケータ!危ない目に遭ってないかニャン!?心配したニャンよ!! 」
おもいで屋の外に出ると、ウィスパーとジバニャンが抱きついてくる。いつもなら、追い払うところだが、この時だけは二人を強く抱きしめ返した。
「ケータ君…?」
「ケータ…?」
不思議そうにする二人を無視して、ケータは問いかける。
「オレ…いつか大人になっちゃうのかな…妖怪も冒険も全部忘れて、大人に……」
二人はケータの問いに顔を見合わせると、にっこりと笑って
「そーんなことありゃせんよ!心配症ですねぇ、ケータくんは」
「そうニャンそうニャン!オレッチたちは、ずっと、ずーっと夏休みのままニャン!」
「…そっか。そうだよね…」
二人の答えを聞いて安心したのか、ケータがクスッと笑う。子供の、無邪気な笑顔だ。
「えぇ、そうですとも。この先、どんな事が起ころうとも、我々はこの夏休みを過ごしていけます。冒険も、トモダチも、戦いも、何一つこのままですよ」
ウィスパーが妖しく笑って、だから、と続ける。
「貴方は何一つ心配しなくていい。夏は終わりません。あなたのトモダチも妖魔界も…いつでも貴方の側にありますよ」
そう言ってウィスパーは、出会った時のように軽くお辞儀をした。
それは、彼の小さな主人に向けられたのか、はたまた、主人公と一緒に夏の冒険をした者に向けられたのかは分からない。
ただ、夕焼け小焼けに鳴く蝉の声に混じって
いつでも帰ってきていいんだよ。
という声が、聞こえた気がした。
コメント
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これ実際シャドウサイドで歩んでしまった未来だと考えるとねぇ…まぁ終盤で再会出来たのは良かったけど…あのウィスパーのケータに会った時の早口説明はやっぱり数年たっても変わらないなぁって感じたよね
勉強お疲れ様…! 妖怪ウォッチ好きだから嬉しい…🫶
素敵〜