「これから何処を目指すの?」
「とりあえず‥‥隔離牢獄棟に行ってみよう。」
「隔離牢獄棟?」
「ああ、そこには俺の味方が大勢居る。」
男と少女は麻のフードを被り、城の前の大通りに居た。
苦労して城の後ろから近づこうとしたが、あいにく兵士がききつけてきたので後ろからの侵入は断念する事になったのだ。
「後じゃ駄目なの?」
「何故だ?」
「先に城の構図を見ときたいなって。そっちの方が攻めやすいでしょ?」
「残念だが時間がない」
「何で?」
男は握り拳を作った。
「彼らは今では、国王暗殺に荷担した重罪人だ。いつ処刑されてもおかしくない。」
「…分かった。」
二人は夜になるのを待つことにした。
「号外!号外!みといでー!」
ヒラヒラと空に舞った新聞を少女がつかんだ。
「…ロウ。」
「なんだ?」
少女は黙って新聞を男に見せた。
「…そうか…ヴィッツが…。」
ヴィッツ・バロセナ死去
そこには男と少女と互角に戦ったヴィッツの死がのっていた。
「やつは許せぬ奴だったが、誰よりも兄に忠誠を誓っていた戦士だ。」
「まあ‥性根が腐ってる人の目じゃなかったしね。」
男は新聞を破り、空に放った。
(安らかに眠れ…ヴィッツ)
男と少女が待ちに待った夜が訪れた。
「いくぞ。」
「おう。」
男は鉤爪のついた縄を城壁に投げつけた。
男はその巨体で王室育ちか疑う程器用に素早く上った。
「君本当に王室育ち?」
「まあな、ほら早く上れ。」
「分かった。」
「だよな~?」
「!」
兵士が見回りに来たのか声が聞こえてきた。
少女は城壁から少しはなれたところでピタリと止まった。
「ルウ?」
「少し離れといて。」
すると少女が物凄い勢いで地面を蹴り、次の瞬間には城壁の上に飛んでいた。
「っと」
「!?おま…」
「しっ。」
兵士は上の二人に気づかずそのまま通りすぎていった。
「さっ行こ。」
二人は器用に城壁を歩き、隔離牢獄棟の扉にたどりついた。
「これ?」
「ああ、そうだ。」
早速入ろうとした時、いきなり少女が男を蹴り飛ばした。
「!?」
そのまま男は干し草の中につっこんでしまった。
「ぐぅ…!」
何をするんだと怒鳴ろうとした時少女の目の前には兵士が二人立っていた。
「どうしたんだ?」
「いやガキがいるんだ。」
「ガキ?」
少女は殺気を消し去りいかにも子供っぽい雰囲気を作り出した。
「あの…道にまよっちゃって…」
あどけない子供っぽい口調だが輝く髪と美しい瞳が子供とは思えぬ艶かしさを漂わせている。
兵士の鼻の下がだらしなくのびる。
「…そうか、おじさん達が送ってやるよ。」
兵士が両端にくっつき頭を撫でる。
「ありがとうおじさん!」
次の瞬間には二人の首は地面に落ちていた。
「さようなら、おじさん。」
「ふぅ…ルウ、緊急だったとはいえいきなり蹴飛ばすのは良くないぞ。」
「だから緊急だったんだって。」
悪びれる様子もなくさっさと棟にあがって行った。
中に入るといかにここが不衛生きまわりないかがよく分かった。
あちこちからカビ臭さや、死臭、排泄物の匂いが漂い呻き声が聞こえてきた。
「っ…鼻がひん曲がりそうだ。」
「急ぐぞ。」
あちこちの牢獄を見るがどれも正気を失い床につっぷしている。
「くそ…生きている奴はおらんのか!」
「!ロウ!声が聞こえる」
「本当か?」
「こっち!」
およそ三回ほど階段をのぼった先の牢獄に六人ほどが押し込まれていた。
「…!」
一人が光を失った目でひび割れた唇でのそりと問いかけてきた。
「だ…れじゃロウさまは…なにも…やって…おらんぞ」
「…ルーカス!」
そこには希代の英雄ルーカス・シパスの変わり果てた姿が在った。
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