テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
第13話「名前で呼んでくれた人たち」
特別監査局へ異動してから、数日が経った。
セツナは、日々資料を読み、過去の作戦記録を整理し、
時には報告書に違和感を覚えた兵士たちの話を、直接聞きに回るようになった。
その姿は、“ただの少年兵”だった頃とは明らかに違っていた。
⸻
そんなある日、訓練場でゾムに呼び止められる。
「おい、セツナ。ちょっと手ぇ貸せや」
「はい?」
「こいつらの動き、チェックしてくれ。
お前の視点で、“何が怖かったか”っての、まだ隊に伝えきれてねぇんだ」
そこには、かつてセツナと一緒に訓練していた一般兵たちの姿があった。
⸻
セツナは一歩下がり、仲間たちの動きを見た。
そして、ぽつりと口を開く。
「背中を見せるときのタイミングが、ずれてます。
“命令で守られてる”と思ってる間は、足が止まる」
ゾムがニッと笑った。
「そうそう、それだ。お前がそれを教えてやれ。
お前、もうこっち側の人間だからな」
⸻
その夜、シャオロンがセツナの部屋を訪ねてきた。
「軍服、似合ってるじゃん」
「鬱先生にも同じこと言われました。似合ってないって」
「そりゃあの人はツンデレだからな。俺は素直に言うよ。
お前、ちゃんと“名前で呼ばれる顔”になった」
⸻
ロボロからは、軍内広報で出す報告資料にこう添えられていた。
「監査局員:黒瀬セツナ。
記録とは、人の形をしている。」
⸻
“名前”を呼ばれるたびに、セツナは少しずつ実感する。
自分はもう、“使い捨ての数字”じゃない。
この国で、“誰かに選ばれた人間”として、生きているんだと。