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第14話「沈黙の区画」
監査局での任務に慣れ始めたある日、
セツナはひとつの報告書に目を止めた。
それは、**“内部検査失敗によるデータ破損”**とだけ記された曖昧な書類。
対象は「南部第七記録保管庫」。
だがその施設は、記録上存在していない。
⸻
おかしいと思ったセツナは、ショッピに連絡を取る。
しばらくして、返ってきたのは短いメッセージだった。
「“沈黙の区画”だ。
そこには、俺たちが“見なかったことにした真実”がある」
⸻
鬱先生に相談すると、彼は最初こそ黙っていたが、しばらくして答えた。
「……そこに踏み込むってことは、“幹部”であること以上に、自分の信念を持たなきゃいけなくなる」
「でも、僕はもう、“見ないふり”を選ばないって決めたんです」
その言葉に、鬱は静かに目を伏せた。
「じゃあ、俺は“後ろ”でお前の名前を守ってやる。
好きに行け、黒瀬セツナ」
⸻
夜明け前、セツナは単独でその場所へ向かう。
森に埋もれるように建つ、地下構造の古い施設。
扉には、鍵も電子パネルもなかった。
だが、手をかけた瞬間——**嫌な“記憶の匂い”**がした。
冷たい、乾いた金属と、封じ込められた沈黙。
⸻
中に入ると、埃にまみれた記録装置、破損したモニター、
そして、一枚の写真が落ちていた。
そこに写っていたのは——
白衣を着た幹部たちに囲まれた、小さな実験服の少年。
その表情は、どこか怯えたように、でも静かにカメラを見つめていた。
名前:R-Z7(現:黒瀬セツナ)
計画分類:廃棄予定候補第12号
⸻
「やっぱり……僕は、“棄てられるはずの命”だった」
そうつぶやいたとき、後ろから声がした。
「でも、選んだのはお前だろ?」
振り返ると、そこにはグルッペンが立っていた。
⸻
「記録が真実とは限らない。
お前が今ここにいること。それが、“記録を壊した事実”だ」
総統はただ、それだけを伝え、セツナに背を向ける。
⸻
沈黙の区画を出るとき、セツナはもう迷っていなかった。
この先、何があっても——
「自分の名前を、自分の手で守ってみせる」