前回の続きです。前回からお読み頂いた方がわかりやすいと思います。
『』叶
「」葛葉
叶side
葛葉さんと住み続けて、はや1年弱ほど経過した。
ひょんなことから吸血鬼の葛葉さんと一緒に住むことになり、最初はどうなることかと思ったが、結構上手く生活できていた。
葛葉さんは自宅で配信をしたり、たまに事務所とかいうところに出かけて撮影をしたりしている。
初対面で会った時は失礼ながらニートで暇そうな人だなと思ったが、多い時は1日に2回配信をしたり、朝でかけて深夜まで帰ってこなかったり、結構忙しそうだ。
僕もコンビニの夜勤バイトがあるから、家に1人でいる時間は多くない。
ただ最近の葛葉さんは忙しそうで、食事を一緒にとることも少し減ったような気がする。
「おー今日も美味そうだな」
いつもそう言って美味しそうに僕の料理を食べてくれる葛葉さん。
大人なのにピーマンが嫌いでちょっとでも入れようもんなら器用に箸で全部どけられる。
今日は何時に帰ってくるんだろう、はやく会いたいな、、
ふとそう思ったものの、自分の気持ちに疑問を抱く。
・・え?今僕なんて、、?
はやく会いたいな、だって?
何言ってるんだ僕は、、
葛葉さんは僕の恩人だ。
それ以上もそれ以下もない。
何を血迷ったこと考えてるんだ僕は、、
頭の中の考えを振り落とすように部屋の中でぶんぶんと頭を大きく振る。
見ず知らずの苦学生の僕を、思いやりで一緒に住まわせてくれた葛葉さん。
・・いずれは出ていかないと。
いつまでも葛葉さんに頼る訳にはいかない。
しっかりしないと。
パンパンと頬を叩き、自分に言い聞かせる。
そのために頑張るんだ、はやくこの家を出ていかなくちゃ。
最近は忙しそうで僕の作った食事を食べることも少なくなった葛葉さん。
食事を毎食提供していた頃は、僕もそれなりに葛葉さんに貢献しているような気がしていたが、今となっては一方的に家賃を払ってもらっているだけのようで、正直今の僕は何も葛葉さんに貢献できていない。
葛葉さんだって、、はやく出て行って欲しいよな、、僕なんて、お荷物なんだから、、
そんな考えが頭の中に浮かび、静かに涙が頬を伝う。
そうこうしていると、バイトの時間が近づいていることに気づく。
僕は涙をふき、リュックを背負ってバイト先のコンビニに向かった。
(コンビニにて)
店長「叶くんお疲れ様!最近めちゃくちゃシフト入ってくれてるけど、大丈夫?正直ありがたいんだけど、体調崩してない?」
『全然大丈夫です!むしろもっと増やしてください!』
店長「やる気まんまんで助かるよ、お客さんからも叶くんの接客は丁寧だって評判だからね、でも無理はしないでね」
『はい、ありがとうございます!』
店長とそんな会話をしながら店番を交代する。
バックヤードの箱を開けて商品の管理をしながら今月のシフトを思い出す。
今月はかなりシフト入ったから、先月よりも給料は良いはず。
もう少し、もう少しお金が貯まったら、葛葉さんの家を出ていくんだ。
これ以上葛葉さんに迷惑をかけないように、、
それから、引っ越すアパートを探そう、、
だってもし同じアパートだったら、、、
・・葛葉さんに会いたくなってしまうから。
また涙で視界が歪む。
薄々気づいていた、自分が葛葉さんのことを魅力的に思ってしまっていること。
背が高くて猫背で八重歯を見せてニカッと笑うあの姿に、気づけば僕は惚れ込んでしまっていた。
自分よりきっとはるかに年上の、しかも人間じゃない葛葉さんを好きになってしまった。
・・絶対にバレないようにしないと、、
・・絶対にこれだけは、、
チーン
そんなことを考えているとレジのチャイムが鳴る。僕は制服の袖で涙を拭き、笑顔を作って慌ててレジに出た。
葛葉side
「たでぃーまー」
帰宅したが部屋は真っ暗だ。
そうか、今日も叶はバイトか。
・・なんかあいつ、最近バイトめちゃくちゃ多くね?
あからさまに出会った頃よりもシフトが多くなった。
なにか買いたいものでもあるのだろうか?
元々叶はあれが欲しい、これが欲しいと言わないタイプだ。
一緒に買い物に行っても日用品以外で何かを買っているのはほとんど見たことがない。
・・まぁ俺に言いにくい、なんか欲しいもんでもあるのだろう。
ふとテーブルを見ると、叶が書いたのであろうメモが。
『葛葉さん
お仕事お疲れ様!冷蔵庫にハンバーグあります
叶』
俺はいそいそと冷蔵庫を開け、皿をレンジに入れてあたためる。
美味そうなハンバーグの匂いが部屋に充満し、腹がぐぅ〜と音を鳴らす。
「あちっ、、うまそー!」
俺は笑顔でハンバーグを頬張った。
(数ヶ月後)
叶side
『・・よし。』
僕は部屋でひとり通帳を眺めて声を出す。
バイトを頑張り続けたおかげで通帳には目標金額を超えた数字が記載されている。
・・出ていかなくちゃ。
今日、葛葉さんが帰ってきたら、ちゃんと言うんだ、お世話になりましたって。
『葛葉さん、今までありがとうございました。僕、葛葉さんと一緒に住めて幸せでした!』
口に出して明るく言ってみる。
よし、これでいいだろう。
頭の中で何回も何回も復唱して、スラスラと言えるように、、葛葉さんの前で泣いてしまわないように、練習する。
「おう、頑張れよぉ」
きっと葛葉さんは笑顔でこう言うんだろう、きっと笑顔で僕のことを送り出してくれる。
・・それから、引っ越す先のアパートを探そう、次はもう少し大学に近い駅で探そうか、、そうしたらバイトも変えないと、、
引越すなら、もうここの近くには来ない方がいい。
だってもしも葛葉さんに偶然会ってしまったら、僕は、、、
また涙が流れ落ちる。
なんで僕は葛葉さんを好きになってしまったんだろう、こんな気持ちにならなければもう少しだけ長く一緒に住めたかもしれない。
葛葉さんは誰かと付き合っているような様子はない。仕事に行っているのが本当なら、他の人と頻繁に会っているような気配もない。
でもそれは人間界の話で、魔界でパートナーが居るのかもしれない。
自分のことを多く語らない葛葉さんだからこそ、色々な可能性が僕の頭の中で渦を作る。
いつしか葛葉さんにその人を紹介されたら、、僕は、僕は、、笑顔で挨拶できるだろうか、、
いや、そんな自信はない、なんなら今みたいに2人の前で泣いてしまうかもしれない。
・・そんなの、かっこ悪すぎて最悪だ。
もうすぐ葛葉さんが帰ってくる。それまでにこの涙でぐしゃぐしゃの顔をどうにかしないと。
僕は慣れ親しんだ洗面台で顔を洗い、タオルで拭う。
時を刻む時計の秒針の音が、僕を嘲笑うように頭の中で響き続ける。
僕はまた頭の中で先程考えたセリフを復唱する。
葛葉side
あー疲れた。やっと帰れる。
すっかり暗くなった夜道を足早に歩きながら自宅に戻る。
先ほど銀行で見てきた自分の残高を思い返す。
・・これだけあれば、あいつに部屋を作ってやれるな。
叶は文句のひとつも言わずに狭い部屋で過ごしている。
俺は配信があるから自分の部屋を作っているが、今のアパートでは叶に部屋を与えるのは不可能だった。
あいつだって自分の部屋くらい欲しいだろう、リビングのテーブルで大学の課題を控えめに広げる叶を見て、いつか部屋を作ってやりたい、俺はそう思っていた。
帰ったら叶に言ってやろう、でかいとこに引っ越すぞって。
あいつまた目丸くしてびっくりするんだろーな、、楽しみだ。
ガチャガチャ
「たでぃーまー」
『あ、おかえり葛葉さん』
「飯、なに?」
『あ、えっと、今日はオムライスだよ』
「おー美味そーだなぁ」
俺はさっきの計画を思い出しながら手を洗う。飯の後に言ってやろう、どうせ引っ越すなら、あいつの大学に近いところの方がいいだろうか、、
叶side
「おし、食うか〜、いただきます」
『・・いただき、ます』
「ん?なんかあった?お前」
『いやっなにも!お腹すいたなって』
「あーわりぃ、待っててくれたんだな」
そう言ってわしわしと僕の頭を撫でる葛葉さん。
美味しそうに僕の作ったオムライスを食べる葛葉さんを見て、また涙が出そうになるがなんとか我慢する。
僕はごまかすように、がむしゃらにオムライスを口に運んだが、味なんてさっぱりわからなかった。
「ふいぃ〜美味かった!ごちそーさま」
『よかったです』
「なんかアイス食いてぇなぁ、」
『あの、葛葉さん、、』
「ん?」
『あの、えっと、、』
「・・どーしたんだよ、お前」
あんなに頭の中で練習したのに、あんなにセリフを覚えて1人で練習したのに、、僕の口は全然言うことを聞かない。
そうしているうちに神妙な顔をした葛葉さんに見つめられてしまった。
『あの、僕、ここ出ていこうと思って』
「・・・・・え?」
『葛葉さんのおかげで、お金も貯まりましたし、いつまでも住まわせてもらってたら、その、迷惑だなって』
「・・・」
『あの、ほんとに、ありがとうございました葛葉さん、僕、ほんとに、、葛葉さんと、住めて、、、僕、、、』
そこまで言って、耐えられずに涙がこぼれ落ちる。一度涙が頬を伝うと、まるで堰を切ったように次から次へと流れ続ける涙。嗚咽で次に言いたい言葉が出てこない。
葛葉さんは大きな目をさらに大きくしていたが、何も言わずに僕を見つめていた。
まだ嗚咽は止まないが、僕は口を開き、なんとか言いたかったセリフを頑張って葛葉さんに届ける。
『あの、ぐすっ、、葛葉さんと住めて、、僕、、うっ、、ひくっ、、ほんとに、幸せでした、、うぅっ、、』
「・・・」
『・・すみません、、こんな時に、、うっ、、ぐすっ、、』
「・・・叶」
急に自分の名前を呼ばれて顔を上げて葛葉さんを見る。
葛葉さんの目から涙が零れ落ちていた。
「・・叶、俺と住むのもう嫌か?」
思いがけない言葉を投げかけられ、僕はぶんぶんと頭を横に振る。
「・・じゃあ、じゃあなんで、出てくとか言うんだ、、よ、、、」
僕はなんで葛葉さんが泣いているのか全くわからなかったが、大きな目に似合う大粒の涙を零す葛葉さんを見て、美しいとまで思ってしまった。
『・・葛葉さん、違うんです』
「・・なんだよ、違うって」
『いや、、あ、、』
「・・わかった、お前は1人で頑張りたいんだな、悪かったよ、お節介して、、」
『ちがっ、、』
「いいって、お前みたいなガキに気遣わせて、ほんと俺ダメだなぁ、、わりぃな、叶、、」
『いや、あの、、』
「俺はさ、お前と住むの楽しかったからさ、、ははっありがとな、今まで」
『・・・』
「あーなんで俺泣いてんだろ、馬鹿みたいだな、大人なのに」
『葛葉さん!!!!!!!!!』
葛葉side
涙を拭くためにティッシュを取ろうと腕を伸ばしかけたとき、突然目の前の叶から聞いた事のない声量で名前を呼ばれ、びっくりして叶を見る。
『葛葉さん、、違うんです、、僕、本当は、、』
下を向いて、耳を真っ赤にしながら、何かを伝えようとしている叶。
「・・叶?どうしt」
『葛葉さんのことをっ、、好きになってしまって、、、』
予想だにしなかった言葉が、目の前のゆでだこのように真っ赤な叶から発せられた。
俺が言葉をかけるよりもはやく、叶は言葉を続ける。
『でも、、男同士でこんなの気持ち悪いって、、こんなこと葛葉さんに言ったら嫌われるって、、僕、絶対に、、言わないって、決めてた、のに、、、』
叶side
勢いで、言うつもりのなかった言葉を張本人に言ってしまって、恥ずかしすぎて、もう僕はどうしたらいいかわからなかった。
-穴があったら入りたい-
この言葉はまさにこの時のためにあるのだろう。
自分の顔が、耳が、真っ赤になっているのが熱感でわかる。
僕はもちろん葛葉さんの顔は見れず、膝の上で拳を握り締め、目をギュッと強く瞑った。
「・・叶」
『は、はいっ?!』
突然名前を呼ばれ、つい声が裏返ってしまう。
おそるおそる顔を上げると、葛葉さんは優しい眼差しで僕を見ていた。
「叶、俺お前を気持ち悪いとか思わねぇよ」
『・・え』
「・・いーじゃん、一緒にいたら」
『いや、でも、、』
「なに、なんか文句あんの?」
『だって、、僕、そう言う目で葛葉さんのこと、見ちゃうんですよ、、?迷惑ですよ、そんなの、、』
「いや、だから」
『?』
「・・俺も、、、好きかもっつってんだよ」
『・・・』
「・・黙るな」
『・・だって、それって、、、』
「うるせぇ」
『・・ふふっ』
「何笑ってんだよ」
『いや、葛葉さん意外と可愛いなと思って』
「はぁ?ガキが可愛いとか言うんじゃありません」
『葛葉さん、じゃあ、僕、もうちょっとここに居てもいいですか?』
「だめ」
『え?』
「お前は今後引っ越すの」
『え?え?』
「俺も一緒にな」
『え?』
「だから、もっと広い家に引っ越そうっつってんの」
『・・・』
「お前の部屋があった方がいいかなって」
『・・・』
「俺も稼いでそろそろいけそーだから」
『・・・』
「・・おまっ、なにまた泣いてんだ」
『だって、嬉しくて、、、』
「そーかい、そりゃ良かったよ」
『・・でも葛葉さん、今度は僕も半分家賃払わせてください』
「え?それじゃお前、意味ねぇだろ、、」
『いえ、その方が僕、いいんです』
「・・?まぁどーしてもっつーなら、いいけど」
『ありがとう、葛葉さん』
「・・・」
『・・・』
「・・・」
『・・アイス買いに行きますか?』
「・・行く」
寒空の下、コートを着て2人並んで夜道を歩く。
「うーさみぃ〜」
葛葉さんは両手をポケットに突っ込みながら、ぶるぶると震えている。
『こんな寒いのに、アイス買いに行くって僕達どうかしてますよね』
「あったかい部屋で食うアイスは美味い」
『たしかに』
「だから我慢だ、叶」
『いや、葛葉さんの方がキツそうですけど』
(木枯らし)ぴゅー
「うあぁぁぁああ、さっみぃいいいぃぃ」
寒さで凍えている葛葉さんの右手をポッケから出し、恋人繋ぎをして自分のポッケにしまう。
「・・え、」
葛葉さんは面白いくらい目を丸くしている。
『ふふ、あったかいでしょ?カイロ、入れてたんです』
僕が笑ってそう言うと
「・・あ、あぁ」
とわかりやすく照れている様子の葛葉さん。
年上のお兄さんのはずなのに、可愛いんだから。
意気揚々と歩く僕とは違い、葛葉さんは、寒さのせいか、それとも違うのか、顔を赤くして少し下を向いて僕に着いてくる。
僕より年も背も大きい、かっこいいけどたまに可愛い葛葉さん。
最高の彼氏を引っぱりながら、僕はいつもより少しゆっくり冬の道を歩いた。
おしまい
コメント
4件
めちゃくちゃすきですㅠ ̫ㅠ♡ 完全に話に入り込んでて気づいたら 泣いてました ߹ ߹