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ぱしゃん、と水の音が響く。
人影が見当たらない。
いつもなら居るはずの彼がいない。
「どこ行ったんだよ、日帝…」
きっとどこかに居るはずだ。
水が飛ぶのも気にせず走って探し回る。
だが希望は虚しく、君の姿は見つからない。
もう、行ってしまったのだろうか。
「俺を置いてか…?」
知らないうちに目元が霞んでいた。
また溢れてくる涙を袖で乱暴に拭いまた走り出す。
一体どれだけの時間が経ったか。
疲れきった足を止め肩で息をする。
ぜえ、ぜえと吐く息のリズムに乗って、足元の水がゆらゆら動いている。
海月だ。
模様と大きさからするに、あの時の奴だろうか。
「お前は、彼の居場所を知っているか」
黙って進んでいく海月に、ふらふらとついて行ってみる。
何も考えずに進んでいる途中、今まで足元に居たはずのソイツが消えていた。
行くべき道を失ったらどうすれば良い?
答えてくれる相手も居ないならどうすれば良かった?
その場に座り込み水面を眺める。
何だか懐かしい。
「…」
「どこに居るの」
『ここに居るよ』
「何をしてるの」
『ずっと見てるよ』
聞きなれた優しい声が後ろから聞こえてきた。
視界の端に翼が映る。
「こんな間違いだらけの世界は御免だ。」
『じゃあ遊びに行こう』
誰も知らない、二人きりの世界へ。
そんな所があってくれるなら。
後ろから回された腕を解き、立ち上がって君の方を向く。
嬉しいような、悲しいような、なにかを訴える目をしていた。
目元に浮かぶ雫を拭き取り手を取る。
「君と一緒なら、どこだって構わない」
あの日のように水の上を滑り出す。
「君に救われたからには、一人で行かせることはできん。」
『…っふ、そうか』
踊りながら、段々と地面の感覚が無くなっていく。
気付けばお互い涙が零れ落ちていた。
体が軽くなっていく中、はぐれないようにしっかりと抱き合う。
もう離れる事はない。ずっと一緒にいよう。
海の近くのとある水辺。
人影も、水面に浮かぶ物も全く見当たらない中、水面には太陽の光だけが反射して輝いていた。