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【彼女が風邪をひいたら】
「…亮くん…寒い…」
ソファに毛布をぐるぐる巻きにしてうずくまっている私を見て、亮くんは苦笑しながらおでこに手をあてた。
「やっぱ熱あるな。38度近い」
「うぅ…だって昨日は大丈夫だったのに…」
「はいはい。とりあえず薬飲んで」
テーブルに置かれたカプセルを見て、私は首を横に振る。
「やだ…あれ苦い…」
「子どもかよ」
呆れた声。でも、その目は優しい。
「飲まないと治らないぞ」
「…でも…やだ」
亮くんが小さくため息をつく。
そしてカプセルを自分の口に入れ、水をひと口含む。
そのまま、私の顔のすぐ前にしゃがみ込んで——。
唇がそっと重なる。
温かい水と一緒に薬が流れ込んできて、驚きで体がびくっとする。
唇が離れた瞬間、呼吸が浅くなっている自分に気づく。
「……っ」
「これなら飲めるだろ」
「…ずるい…」
「何が」
「…こういうの…」
顔を真っ赤にして毛布にくるまる私の髪を、彼はゆっくり撫でる。
「よし、ベッド行こう。ここじゃちゃんと休めない」
——数分後。
毛布ごと抱えられてベッドに移され、そのまま彼が隣に潜り込んでくる。
「え…亮くんまで寝るの?」
「寝るわけじゃない。お前がちゃんと寝るまで、横にいるだけ」
背中に腕が回され、温もりがじんわり広がる。
彼の心臓の音がすぐそばで響いて、まぶたが少しずつ重くなっていく。
「…そんなにくっついてたら…うつるよ」
「いいよ。俺がうつったら、お前が看病してくれ」
そう言って額にもう一度キスを落とす。
意識が薄れていく中、最後に聞こえたのは、低くて優しい声だった。
「大丈夫。ずっとそばにいるから」