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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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誰もいない陽の遮られた部屋でシンの言葉を思い出していた。


『その日から俺、部屋のカーテンが開けられないんです…』

湊の寝室もまたカーテンを開けられずにいた。


誰かを想うことがこんなに苦しいなんてこの歳になるまで知らなかった…

机の引き出しから手紙を取り出す。

溢れる想いが心を…身体を埋め尽くす。

行き場を失くした気持ちは涙になって溢れ出した。

こんなに辛いなら、帰ってこなければ良かった…

シンの笑顔が…頭の中を駆け巡る。

もう一度会えれば…あの笑顔が見れるだけで良かったなんて…今更通用しない。

この気持ちは間違いなく恋愛感情だ…。

好きだって…たった一言口に出せば…

それでも言えないのは…あいつとは不釣り合いな自分を知られたくないから…?

いや、違う。

自分の過去を知ればきっと絶望するだろう。

そんなシンの顔を見たくない。

きっと離れてしまう。

それが…怖かった…

知られたくない…でも…話さないといけない…

その結果がどうであろうと。

隠し通す事はできない…

手紙を握りしめると

意を決し湊はシンに連絡をした。

全てを話す為に…



数日後、シンは湊の部屋を訪ねてきた。

「顔色悪いですけど…体調悪いんじゃ…」

話すと決めてからまともに眠る事ができなかった。

「座ってくれ…」

シンを部屋に上げると、リビングの椅子に座るように促した。

シンが椅子に座ると、ポケットから封筒を取りだしテーブルに置く。

「これって…」

見覚えのある封筒にシンが気がつく。

「お前がくれた手紙だ…」

「良かった…湊さんに届いていたんですね…」

それは以外な反応だった。

「えっ…」

「この手紙。書いたのは俺が高校に入って初めての進路希望の後に書いたものです。その時は湊さんを探しに東京に行くつもりでしたから、第一志望は東京の大学に決めてました。だから、湊さんのお祖母さんにもし、湊さんと連絡を取れるようになったら渡して欲しいって預かってもらってたんです」

「そんな前に書いていたのか…」

「本当は会いに行こうかと思いました。でも、湊さん誰にも居場所教えてないっていうし…良かった。ちゃんと湊さんに届いてて…」

手紙を見て微笑む。

「この手紙で俺は救われたんだ…」

「そんな大げさな事は書いてないですよ…笑」

「いや…あの時、この手紙を見なかったら俺はこっちに帰ろうとは思わなかった…」

少し俯き手紙を見ながら湊が言った。

「……東京で何があったか聞いても良いですか…?」

今日呼ばれたのはその事を話す為なのではないかとシンは思った。

「……東京での俺は……最低な人間だった…」

さらに俯き目を閉じて思い出しながら湊は話始めた。

東京で過ごした10年を苦しむかのような表情で…

大学で過ごした4年間。そして、就職した最悪の6年間の全てを隠さず話した。

「あの時の俺は目の前の苦しみから逃げる事しか考えていなかった。本当最低だよな…苦笑」

「……」

「逃げ場なんてないのに、必死でもがいて…最後は快楽に逃げた…そんなんで逃げられる訳ないのに…結果があのざまだ…笑」

口元だけ笑ってみせた。

「……」

「だから…シン。俺はお前と付き合えない…」

「今日俺は振られる為に呼ばれたんですか?」

「……」

「それとも…その話を聞いて、俺が湊さんを嫌いになる。とでも……?」

「……」

「逆です…」

「だって…」

「ますます好きになりました」

「はあ?」

「確かにあんたが俺以外を頼ったのは腹が立ちます。でも、当時の俺にはあんたを支えるだけの力がなかったのは事実です。だから、苦しんでいる湊さんの近くに居たとしてもせいぜいその場しのぎの言葉を並べて励ます事しかできなかったかもしれません。…でも、今は違います。あんたの全てを支える覚悟はできているつもりです」

「……」

「俺だって成長したんですよ。もっと頼ってください。湊さんが辛いならその全てを全力で俺が払います。悲しいならその全てを受け止めます。一緒に悩んで、一緒に乗り越えられるだけのスキルは身につけたつもりです」

「……」

「だから…話を聞いて湊さんの隣で支えてあげたい。1番近くで湊さんの力になりたいって前より強く思いました」

「…シン」

「もう一度聞きます…」

「……」

「俺じゃダメですか?」

「……」

「湊さんの隣に一生一緒に居たいんです」

「…なんで……」

「えっ…」

「なんで嫌いにならないんだよっ!最低な人間なんだぞ…お前みたいな真っ直ぐで、きれいな心のヤツが俺みたいな汚いヤツのそばに居たらだめだろっ!」

「会いたい…って。書きましたよね…」

「……」

「湊さんが居なくなった日から10年。俺は毎日あんたに会いたくて仕方なかった…」

「……」

「それは今でも変わらない。いや、あの時より今はもっと会いたくて、愛しくて、好きで…やっぱり湊さんの隣に居たいです」

「ばかだな…お前は…」

「この手紙を見て帰ってきてくれたって事は湊さんも俺に会いたかったからじゃないんですかっ」

「…そうだよ…会いたかった…お前に」

「だったら…」

「でもそれは、恋人としてじゃない…」

「だとしても……今はどう?」

「……」

「俺の事、大切だから失いたくないって言ってくれたのは…友達として?」

「……そうだ」

「だったら!なんでキスしたんですかっ?!」

「それはっ…」

「友達なんかじゃないって、本当はわかってるんじゃないんですかっ?」

「……」

「好きって言ってくれないのは、後ろめたさがあるから…?」

「……」

「湊さん俺の事…見て!……本当に嫌いならはっきり言ってください!シンなんか嫌いだ!もう、会いたくないって!」

「……言えない」

「言わなきゃ俺はずっとあんたを好きなままなんですよっ!だから…嫌いだって…お前の顔なんか見たくない!二度と会いたくないってはっきり言ってくださいっ!湊さんっ!!」

「………好きだよっ!お前の事!大好きだよっ!!だけど…っ」

「……笑」

「……えっ……」

「やっと………言ってくれましたね…」

「……お前…わざと…」

「すみません…強く言い過ぎました。でも、そうでも言わなきゃあんたは本音を吐き出してくれないから…」

「…ずりぃよ…」

「言ったでしょ。たとえ犯罪者になろうと俺があんたを好きな気持ちは変わらないって…だから、どんな話をしても無駄ですよ」

「本当にばかだ…お前は………」

溢れる想いはまた涙になって湊の頬をつたって溢れ出した…

シンは湊の手にそっと触れる。

「湊さんの隣…俺の予約…まだ空いてますよね?」

黙って湊は頷いた。

「来週の卒業式の後、湊さんを貰いにきます」

「……」

「……」

「ばーか……」

「……笑」

「本当にどうしよーもねぇな…お前は…」

シンは手を伸ばし湊の頬に触れ涙を拭う。

「湊晃を俺にください…」

真っ直ぐ見つめるシンに引かれるように湊は顔を近づけていく。

「くれてやるよ…そんなに欲しいなら……」

互いに手を伸ばし吸い込まれるように唇を重ねた…



【あとがき】

次が最終話になるかな…

それでは、次回作でまたお会いできますように…

月乃水萌

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