目を細め、口の端を上げて笑いかけられ、何も言い返せなかった。
甦る、あの時の光景。全部気づかれていたのだと知り、例えようのない熱が全身を駆け巡る。
屈辱的だった。しかしうまい言葉が浮かばない私には、強気な目で彼女を睨むことしかできない。
それでも彼女は眉1つ動かさないで、余裕な笑みを浮かべている。
「そんなに恐い顔しないで。私は嬉しいの。同じ人種がいたことが。早く貴女と2人で話したくて仕方がなかったのよ?」
「私は…あなたとなんか関わりたくありませんけど。それに、誤解してるようですけど私、店長のことなんか何とも思っていませんから。」
それだけ言い返すので精一杯だった。
唇を噛み締め、肩を震わせながら俯くことしかできない。
そんな私を彼女は、くすり、と妖艶な笑みを溢しながら見つめてきた。
「そう?そうよねぇ。安心して。私も店長には全く興味ないから。」
その一言に、妙な安心感が芽生える。そんな私に気づいているのか、気づいていないのか分からないが、彼女は再び私に近づいてきた。
そして、さっきよりも至近距離でじっと見つめられる。
長い睫毛と大きな瞳に捉えられたら、同性の私でもどきりとしてしまう。
この行為は何を意味しているのだろう、と考えている間に、彼女はそっと私の耳元で囁いてきた。
「だって、あんな冴えなくて情けないようなおじさん。貴女みたいな可愛らしい子が本気で好きになるわけないものね。」
甘くて柔らかい声に似合わず、小馬鹿にしたような響き。
彼女の言っていることはもっともだ。
「見た目だっていつも頭ぼさぼさだし髭もお手入れがあまりされていない。同じ40代だってもっとマシな人はいるわよ。」
その通り。的を得ている。
…はず、なのに。何だろう。この…身体の奥から沸き上がる怒りの感情は。
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