「あんなんじゃ、家庭で居場所がないんじゃないかしら?あんな旦那だったらつまらない家になりそう。」
くすくす、と間近で笑い声が聞こえ、更に身体が熱くなる。
そんなの分かっている。あんな人、モテなくて当然だ。
分かっている…けど…
(店長のこと悪く言っていいのは…私だけなんだから…!!)
「っ……そんなこと…私がよく分かっています!!」
気づいたら勢いよく彼女の身体を押し退け、叫んでいた。
唖然とした目付きで私を見てくる。
身体中に血の巡りがよくなったのを感じる。一度口にしたら止まらなかった。
「確かにあの人はっ…情けなくて冴えなくて女心を分かっていない人ですけど…!!いいところもいっぱいあります!!お人好しで…私がどんなに突き放しても近づいてきて…優しくてっ!!何も知らないくせにあの人のこと悪く言わないでください!!店長のことは私が一番よく分かっています!!私はそんな店長が大好きなんですから!!」
はあ、はあ、と息を荒げながら言い切る。
自分でもこんな声が出るなんてびっくりだった。
全身が熱を帯びている。身体中の酸素を全部使いきったようだ。
その瞬間、ふと我に返り、一気に羞恥心が押し寄せてくる。
勢いに任せてつい言ってしまうなんて、私らしくない。
だけど何故、こんなにもすっきりしているのだろう。
まるで心の中にあった霧が晴れたような爽快感だ。
「………」
沈黙が2人の間に流れる。きっとまた大人の余裕を見せつけられるかもしれない。
こういう人には、冷静さを失ったら敗けなんだ。
だけど、それでもいいと思った。どんなに悔しい敗け方をしてもこの気持ちだけは譲れなかったから。
さあ、何とでも言い返してこい。
覚悟の意味を込めて拳を握り締める。
ところが…
「…まあ、そんなに店長のことがお好きだったんですね。」
突然、普段の彼女の表情に戻り、拍子抜けしてしまう。
さっきまでの艶やかな雰囲気が一気に振り払われ、穏やかな笑顔で対応される。
一体急にどうしたのだろう。違う意味で返す言葉を失っている私に、彼女はそのまま話し出した。