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鷹槻れん

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鷹槻れん

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水無月 京
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「あっ!」
「どうした?」
「今まで忘れてましたけど、私、今日はスッピンでした。こんなときに限って……」
恥ずかしくて頬を両手で覆い隠すと、それを目にした社長がおかしそうにクツクツと笑った。
家を出るときには、傘を持って祖父を迎えに行くだけだと思っていたから、カジュアルな服装で出てきてしまった。
社長に会うとわかっていればきちんとメイクをして綺麗な服を着てきたのに。とはいえ、これは予測不可能だったけれど。
「俺だって休みの日はカジュアルだよ」
「いえ、社長はすべてにおいてセンスがいいです」
ジニアールで働いているからこそ、そこはよく知っている。
五十嵐専務と伊地知部長が、ふたりで口をそろえて社長を“センスの塊”だと豪語しているらしい。
私からしたらさらに充分すぎるほどのカリスマもあると思う。
「とりあえず注文しよう。ここのオススメはどれ?」
社長はメニューに視線を落としたまま私に問いかけた。
「私は抹茶あんみつをよく頼みます。セットでほうじ茶が付いてきておいしいんですよ」
「じゃあ俺もそうする」
「甘い物はお嫌いじゃなかったですか?」
恐る恐る尋ねる私に、社長は静かにコクリとうなずいた。
男性の中には甘い物が苦手という人も割と多いので、もしかしたら無理に付き合わせたのかもしれないと一瞬肝を冷やしたが大丈夫だったみたいだ。
抹茶あんみつのセットをふたつ注文すると、しばらくして温かいほうじ茶と共に運ばれてきた。
雨が降っているせいか、だんだんと身体が冷えてきていたので、湯気を立てているほうじ茶を口にするとおいしくてホッとする。
「スイーツなんて久しぶりに食べたけど、案外うまい」
「社長のお口に合ってよかったです。特にこのつぶあんが上品な甘さで絶品なんです」
つぶあんは四国の和三盆という砂糖を使用しているのでやさしい甘さなのだけれど、私にはちょうど良くて気に入っている。
社長にも満足してもらえたのがうれしくて思わず頬が緩んだ。
スイーツを口に運んでいる社長の姿が普段のクールな印象とは違っていて、自然と胸がキュンとする。
黒い器に添えられた左手も、スプーンを持つ右手も、指が長くて本当に綺麗だ。
「休日に社長って呼ばれると変な気分だな」
「すみません! ついそう呼んでしまいました。ジニアールで働いていると言っても私のことはご存知ありませんよね」
「知ってるよ。伊地知さんのお気に入りだから」
伊地知部長のおかげでまさか社長に認識してもらえているとは思わなくて、私は目を見開いた。
「以前から君の名前は伊地知さんからよく聞いていたし、直接話はしていないが、俺が商品部に行ったときにはあいさつくらいはしてるだろう?」
「はい。記憶に残していただいているなんて……恐縮です」
社長がたまに用事で商品部にやってくることがあるのだけれど、大勢いる社員の顔などいちいち覚えていないと思っていた。でもそれは社長に対して失礼だったと瞬時に反省をした。
社長は本当に社員思いで、私の中で尊敬の念がさらに深まっていく。
「それにしても君が倫治さんの孫だったとは」
「私も驚きました。社長と辰巳さん、名字が違うのですね」
「……いや、同じだけど。じいさんの名前は、神谷辰巳」
社長の説明で急に合点がいった私は小さくウンウンとうなずいた。
「私、辰巳が名字だと思い込んでいました」
どうやら私は盛大に勘違いをしていたらしい。恥ずかしくて顔が熱くなってくる。
「余談だけど、俺のひいばあさんが辰年に身ごもって巳年に産んだから名前を辰巳にしたって聞いた」
話を聞きながら納得する私を見て、社長は「どうでもいいよな」とつぶやいてフフッと笑う。
コメント
1件
スッピンで社長と鉢合わせ、しかもスイーツの席で名前の話になるなんて、ほんと運命的な偶然ですね。抹茶あんみつを「久しぶりに食べた」と言いながら食べる社長のギャップに、私まで胸がきゅんとなりました。つぶあんの説明まで挟む丁寧な描写、好きです。名前のいきさつ、思わず「どうでもいいよな」と笑う社長の距離感、とても素敵でした。次の出会いが楽しみです🌷